2025.06.20
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「平和教育」から「グローバル・シティズンシップ教育」へ (平和を願う心と未来を創る力)

読み書きや数の力は、すべての学びの出発点です。
私たち人間が社会の中で生きていくうえで欠かせないこの力は、日々の生活を支え、知識や情報への扉を開く道具であり、自分の考えを持ち、表現するための基盤でもあります。

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃

読み書きの力から見える学びの土台

 

 

数字の理解は、物の数量や順序を把握し、論理的に思考し、問題を解決していく力を養ってくれます。こうした力は、子どもたちの未来を切り開くための基本的な道具であり、世界とのつながりを実感するための"窓"でもあります。
しかし、いま私たちの社会は、読み書きや計算の能力だけでは太刀打ちできないような、より複雑で深刻な課題に直面しています。気候変動や戦争、格差や差別、資源の枯渇や感染症の拡大。これらはもはや、特定の地域や国だけの問題ではなく、世界全体が抱える"地球規模の課題"です。
そして、こうした課題の多くは、正解が一つではなく、私たち一人ひとりが「どのように関わるか」「どう向き合っていくか」という倫理的・社会的な問いを伴っています。

「平和教育」の再考

加えて、これまでも学校教育では、「平和教育」は大切にされてきました。戦争の悲惨さや命の大切さを学ぶことで、他者への思いやりや平和を願う心を育む----これは教育の根幹をなす重要な営みであり、現在もその意義が失われたわけではありません。
しかし一方で、「平和であること」を前提とした教育では、現代の世界を生き抜くための力を十分に育むことが難しくなっていることも、見過ごせない事実です。
平和教育が多くの場合「過去の戦争の記憶を語り継ぐこと」に焦点を当てているのに加えて、必要とされているのは、「現在と未来のために、どのように平和をつくり、維持し、多様性の中で共に生きていくのか」という視点ではないかと感じます。

グローバル・シティズンシップ教育とは何か

そこで今、世界中の教育現場で注目を集めているのが「グローバル・シティズンシップ教育(Global Citizenship Education:GCE)」です。
これは、ユネスコが提唱している教育のアプローチであり、学習者が「地球市民」としての自覚を持ち、持続可能で公正な社会の実現に貢献できるような力を育てることを目指しています。
グローバル・シティズンシップ教育は、単に国際理解を深めたり、異文化に触れたりするだけの教育ではありません。そこには、「知識の習得」にとどまらず、「価値観の形成」や「行動の選択」といった、学びの多面的な側面が含まれています。言い換えれば、GCEは次の3つの柱に基づいています:

認識的側面(Cognitive):世界のしくみや課題について理解し、情報を批判的に考察する力

情意的側面(Socio-emotional):多様な立場に共感し、違いを尊重する姿

行動的側面(Behavioral):社会的責任を果たす行動へとつなげる力

これらの力は、教科の枠を超えて育まれるべきものであり、教室での探究学習や地域・国際交流活動、SDGsをテーマとしたプロジェクト学習など、さまざまな実践の中で統合的に育てられています。
たとえば、小学生が遠く離れた国で起こっている水不足の問題について学び、自分たちの生活とどう関係しているかを考える。
中学生が環境問題について調べ、地域でできるアクションをクラスで話し合い、実際に啓発ポスターを作成する。こうした学びのプロセスこそが、グローバル・シティズンシップ教育の実践です。

未来を「ともに」つくる力を育む教育へ

 

 

また、GCEは、教育を受ける子どもたちだけでなく、教える側の私たち教育者の姿勢も問う教育です。
単に知識を教えるのではなく、自国の子どもたちが他国の子どもたちとともに学べる環境をファシリテートする、教師自身が悩み、問い続ける存在であること。そして、社会の中で「教育が果たすべき役割とは何か」を常に問い直すこと。これが、グローバル時代の教育者に求められる姿勢です。
未来を担う子どもたちには、知識を詰め込むだけでなく、自分の頭で考え、心で感じ、仲間と対話しながら、よりよい未来を「ともに」つくっていく力が求められています。
グローバル・シティズンシップ教育は、まさにそのような学びを支える「教育の土台」を提供するものです。

平和を「祈る」だけではなく、「つくる」力を。

過去を「知る」だけではなく、「未来を選び取る」力を。

そのような学びの場を私たちは子どもたちに届けていかなくてはならないと考えます。

下條 綾乃(しもじょう あやの)

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。

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