教員目線の卒業式 「卒業式のミスディレクション」「跳ね返るサプライズ」
卒業式シーズンが近づいてきました。沖縄県では卒業生だけでなく5年生も卒業式に参加することが多いです。感動的な雰囲気が漂い、思わず涙することもあるのではないでしょうか。そんな感動的な卒業式に見惚れてしまうかもしれませんが、教員は「参観者」としてではなく、「教員」としてその場に参加することを忘れてはいけません。
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介
卒業式のミスディレクション
卒業式の一般的なプログラムには、卒業証書授与、PTA会長の挨拶、学校長挨拶など、様々な内容が盛り込まれています。しかし、今はコロナ禍を経て内容の精選が進み、プログラムの簡素化、または在校生の参加を取りやめたりなど、従来の形を変えている学校も多くなっています。私の前任校では5年生も参加させたいという思いが強く、在校生を参加させることになりました。
プログラムの中に、在校生代表として5年生が卒業生に向けて、お祝いの言葉や歌を披露する場面があります。卒業生と5年生が対面し、想いを伝える感動的な場面。周りがしんっと静かになり緊張感が走る空気。
「先輩たちが築き上げてきた学校の伝統を、私たち在校生が引き継いでいきます!」
「中学校でも大きく羽ばたいてください! ♪旅立ちの日に~」
その歌声につられて口ずさむ卒業生。歌を聴きながら涙を流す子も。在校生からの力強い言葉や一生懸命歌うその姿は、会場中の参加者の視線を集めていました。
このような場面の時、あなたはどこに視線を送っているでしょうか。上記に書いたように、在校生の5年生に視線を送っていることでしょう。しかし、教員として視線を送るべき先は別の場所にもあります。
それは、卒業生です。単純に卒業生の立派に巣立つ姿を見てほしいということではありません。これは安全面や児童管理を意図した視線です。どうしても5年生に視線を送りがちになります。しかし、会場全体が在校生という一箇所に視線を送っている間に、卒業生が体調を崩してしまう可能性があります。特に卒業式では、卒業生は緊張感の中、周りとタイミングを合わせて立ったり座ったりなど、一瞬一瞬緊張する場面が多くあり、心が落ち着かない状態にあります。ましてや、初めての卒業式。大人が考えているよりも緊張していることだと思います。まさに血の気が引く思いでしょう。また、長時間座っている状態から急に立ち上がることで立ちくらみなどを起こしてしまうかもしれません。このような状態の子どもたちに気付き、守ってあげられるのは、私たち教職員しかいません。
思わず会場の雰囲気やプログラムの内容に合わせて視線を誘導されがちですが、我々教員はあくまでも教員であり、参観者になってはいけません。児童の安全を守る立場だと思います。周りの雰囲気に飲まれて視線誘導されないように、「教育的に何を意図してそこに視線を送っているのか」を意識することが大切だと思います。しかし、在校生の頑張る姿も見たいと思います。いや、ここまで練習してきた彼らへの敬意として見るべきです。卒業生と在校生、どちらも適切に見守れるといいと思います。
サプライズ、それは意図せず自分に跳ね返る
私が経験した、とある卒業式のお話です。
卒業式全体のプログラムも終わり、後は卒業生が退場するだけでした。保護者の皆さんは退場する我が子を写真に収めようと鞄やポケットを探り始めます。
そして、アナウンス担当が「これで卒業式の全日程が終わりました。卒業生の皆さんは…」と言いかけたとき、
「ちょっと待ってください!」
と卒業生からの大きな声が響きました。思わず手が止まる保護者たち。
「私たちからお父さんお母さんへ感謝のお花のプレゼントがあります」
と続け、順番に自分の席を離れ保護者席に向かって歩き、座る我が親に一輪の花に感謝の言葉を添えて渡していました。プログラムにもないサプライズのため、意表を突かれた保護者の皆さんは大号泣です。
私が良い取り組みだなと思った理由は、保護者が大号泣したことではありません。卒業生が自分の泣ける場面を設けられたことです。大号泣している保護者を見て、子どもたちは安心して涙を流していました。
先述したように、卒業生は卒業式に計り知れない緊張感を持って参加しています。少しも気持ちを緩めることができない状態のため、泣こうにも泣けないのかもしれません。そんな中、卒業式中に席を離れて歩き、自分の親の元に向かい話をすることで気を緩めることができ、安堵感を感じることができます。親の元に辿り着くと、逞しく成長した我が子の姿を見て、
はい、保護者の涙ドーン!
その顔を見て、思わず子どもも涙ドーン!
時に厳しく、時に優しく自分を支えてくれた親が感動して泣く姿は、子どもたちにとっての最強の涙腺刺激ビームだと思います。
「緊張と緩和」が上手く取れた仕組みだと感動しました。思わず私も涙腺を刺激される所でした。サプライズで互いに涙を流した状態で、「それでは退場します」と、最後の退場を迎える。緊張が緩和され涙を流しながら退場する我が子の姿を、保護者はカメラに収めることができる。非常に上手くできた構図だと思いました。
学校によってプログラムなどが決まり、自由が利かないこともあると思いますが、もし参考になれば、ぜひお試しあれ。
何卒。

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭
沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。
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