2018.03.13
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被災地2年目の熊本からの発信 ~いよいよ卒業を迎える~(第5回)

5年生での荒れが、6年生の行動のみならず、学力形成にもかかわってくることを前回は書きました。
「勉強がわからない」が「学校に行きたくない」につながっていくこと。

熊本地震の際に、荒れていた当時の5年生はいよいよ卒業を迎えます。
中学生に近づくにつれ、不安も大きくなります。
このシリーズ最終回の今回は、そのあたりにふれたいと思います。

熊本市立龍田小学校 教諭 笹原 信二

「わからない」「おもしろくない」。。「学校に行きたくない」

2017年3月10日の体育館周りの様子

昨年度の6年生を送る会の日の体育館周りの様子。足場は残ったまま、壊れた外壁などの処理もまだまだでした。

 如実になる学力問題。
半年間ほど、まともな授業がなされていないので、想像はされました。
全国学力学習状況調査を境に、主観的にも客観的にも、
子供自身が自分自身で知り、
教師にも厳しい現実がはっきりしたのです。

 「勉強がわからない。」単発的な学習はまだしも、
既習事項から積み上げる学習、問題解決型の学習になると、
お手上げになります。
 具体的にできないところがはっきりします。
例えば、小数のわり算。
そもそも整数のわり算ができない、さらには九九があぶない、など、
下の学年までさかのぼる場合があります。こうなると、取り戻す時間の確保が大変です。

 「勉強がわからなくなる」一生懸命にがんばろうと思っても、やっぱりわからない。
どんどんよくない方に思考が進みます。
「勉強がわからない」→「授業がおもしろくない」→「学校がおもしろくない」。

 基礎工事がしっかりしている建物なら、少々の衝撃にも耐えうるでしょうけれど、
土台がしっかりしていません。さらには、人間関係が希薄です。
自分のことばかり考えて、友だちのことは考えません。
辛い立場の子どもを救おうという関係が成り立っていません。
それどころか「出る杭は打つ」仕組みになっています。

 「学校がおもしろくない」が「学校に行きたくない」に進んでしまうのです。
不登校になったり、その傾向がみられてしまったりする子どもも
少なくはありませんでした。

うまくいったクラスのしかけ

 まもなく卒業。荒れた状況が続くクラスもあれば、
立て直すことができたクラスもあるでしょう。
立て直すことができたクラスは、教師が「仕組んだ」と推察します。
 思いつくままに8つのしかけを書いてみます。

 1 授業を成立させるように仕組む
   やっぱり教師は授業が生命です。1時間を3つ、あるいは4つの構成にして、
  3つ(4つ)の活動を組み入れるなどからスタートして、
  授業を成立させていきます。  
   だんだんと「聞く」ことができるように、粘り強く。
  できれば笑いが起きるような授業を。

 2 「わからない」と言える雰囲気を作り出すように仕組む
   荒れた状態では「わからない」は言えません。
   ちょっとずつ「わかりたい」と思うようになってきたら
  「わからない」と言えるようになってきます。
 
 3 小事が大事であることを際立たせるように仕組む   
   凡事徹底とか、神は細部に宿るとも言います。
  小さなことの積み重ねが大きなことにつながってきます。
   教師が小さなことに気を付けていくと、子どもたちにも伝わっていきます。

 4 粘り強く話して、大切なことを繰り返すように仕組む
   今言ったことがすぐに実行できるなら苦労はいりません。
  しかし、粘り強く話していけば子どもたちには伝わっていきます。
  ぶれないようにして、粘り強く話していきます。

 5 キーパーソンを目立たせるように仕組む
   子どもたちの中には、少しずつでも「こうしたい」と頑張る子どもや、
  「これではだめだ」と立て直そうとしている子どもがきっといます。
   行動にうつす自信がないけれど、ちょっと背中を押してあげると、
  踏み出すことができる子どもがいます。
  その子どもにうまくスポットがあたるようにしていきます。

 6 イベントや行事を通して、成長を実感させるように仕組む
   運動会は一生懸命がんばった、そんな子どもがいました。
   そのがんばりを自他ともに実感させていく。
   大きな行事だけでなく、ちょっとしたイベントを学年・学級で
  企画させて、ヒーロー・ヒロインを交代でつくり出す。
  そういう取り組みをされていた教師を見てきました。

 7 チームになるように仕組む
   担任一人だけ、その学年の先生だけの踏ん張りでは、なかなか解決できません。
   管理職、専科、他学年の教師を入れて、チームで取り組みました。
   時には外部の人が入っていただくことも有効でした。
   地震では、子どもだけでなく、教師自身も被災者なのです。
   被災している人間ができる範囲は限られてきます。
   辛くなったら相談することだったと感じています。

 8 健康でいるように仕組む
   リフレッシュも大切です。健康でなければ、やる気のスイッチも入りません。

 心の病で苦しんでおられる教師は、全国にたくさんおられるでしょう。
これは、先駆者となった私からのアドバイスですが、一人で苦しまないことです。
きっと味方になってくれる人がいます。
 それでも辛くなったら、ちょっと休んでみましょう。
休むことは罪ではありません。次への充電期間です。
 やまない雨はありません。きっといいことが待っています!

  

自己肯定感を高める

昨年度の卒業式

昨年度、なんとか自分の学校で行われた卒業式。今年も素晴らしいドラマがうまれるでしょう。

 いよいよ卒業。熊本市は3月22日が小学校の卒業式です。
 卒業していく子どもたちに、担任は最後のプッシュをされています。
 今になって「小学校がよかった」「中学校に行くの不安だなあ」
ようやくそういう発言がでてきました。

 卒業生は希望と不安をかかえています。
 しかけた教師は、中学校に対しての厳しさを身につけさせながら
「自己肯定感」を高めることを、今は仕組んでおられるように思います。
 中学生になることの素晴らしさを実感できるように、
私も最後の実践をしていきいます。

 この回も最終回となりました。今までありがとうございました!!
 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。


 

笹原 信二(ささはら しんじ)

熊本市立龍田小学校 教諭
37年の教師人生を終えたが、もう少し学びたく再任用の道を選択。過去の経験を生かしつつ、新しいことにもチャレンジしていきたい。

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  • 今林 義勝

    福岡市立千早西小学校 教頭 今林義勝

  • 清水 智

    長野県公立小学校非常勤講師

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