意味がわかると怖い話 じゃんけん編
みなさんは教室の中でじゃんけんを行っていますか?何かを決める時のじゃんけん。やりたい人がたくさんいる時のじゃんけん。給食の残り物を誰がもらうかを決めるじゃんけん。
実はこれらのじゃんけんには、怖い内容が詰め込まれているのです。もちろん教育的な怖い話なので安心してお読みください。
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介
想像してみて
私は小学5年生。私の学校では運動会シーズンに入っていきます。みんな運動会に向けて日々の練習を頑張り、雰囲気も良くなっています。まさに運動会を感じている毎日です。今日の学活の授業はリレーの順番を決めます。
授業が始まると、
「運動会ではリレーがあります。まずは、リレーのスターターを決めたいと思います。やりたい人はいますか?」と先生がクラスのみんなに向かって話をすると、すぐに
「めっちゃやりたい!」「はい!はい!」「はーい」「やりたーい!」「俺足速いよ!」
と、いろんなところからマシンガンのように弾けた声が飛び交ってきました。
それを受けた先生は、予想していたかのような早さで、
「やりたい人がたくさんいるのでどうしますか?」
と私たちに問いかけました。
「足が速い人がやればいい」「話し合って決めよう」「走ってどっちが速いか決めようぜ」
と、いろいろな意見が出てきたが、結局は、満場一致でじゃんけんで決めることにした。
「それではじゃんけんをするので、やりたい人は前に出てきてください」
先生が声をかけると意気揚々と出てくる5人の戦士達。
「いくぞー!」「最初はグー、じゃんけんぽん!」
「あぁ”~」「やったー」「よっしゃー」「うそー」「あいつがよかったー」「マジかー」
教室の中は悲鳴と歓喜で混沌としていた。
それを横目に先生が次の合図をする。
「それでは残った2人は最終じゃんけんをしてください」
勝ち残った2人の戦士は目を尖らせ、相手の出す手を窺っている。
教室がシーンとする。
「最初はグー、じゃんけんぽん!!」
「よっしゃぁぁぁぁ!!」「いや”ぁぁぁ!」
決着は着き、教室は大盛り上がりの状態になりました。
その興奮を抑えるかのように
「それではBがスターターですね」「次にアンカーを決めたいと思います」
と、先生は淡々とリレーの順番を決め続けて行った。
お分かりいただけただろうか
決まり文句のサブタイトルです。
このような光景は運動会だけでなく、給食の残り物を取り合う場面や、当番決めなどの場面でよく見られるのではないでしょうか。もしくは、授業中の発表順などでもある場面かもしれません。
さて、上記のお話の場面での怖い部分は分かりましたか。もったいぶってすみません。
私がじゃんけんで怖いと思う部分は「負けた人の存在」と「勝ち負けの存在を認める教室」です。
じゃんけんには必ず「勝って喜ぶ人」と「負けて悔しがる人」が存在します。
勝った人は自分の望みを叶えられて幸せな気持ちだと思います。その反面、負けて望みを叶えられなかった人は勝者の下にたくさんいるはずです。この人たちのやる気のあった気持ちはどこに向かえばよいのでしょうか。また、じゃんけんで物事を決められることに納得するのでしょうか。
納得して譲ったわけではないので、物事が進んでも不満を言ったり、その後の練習でもやる気を出さなかったり、いろいろな方法で不満を露わにする可能性があります。ひどい時には一週間後、または本番の日でも不満を吐く子もいるかもしれません。
さらに教室内に「勝者と敗者」が存在することで、プラスとマイナスの空気が生まれます。これらは教室に気持ちの良い風を吹かせてくれません。今回のお話ではスターターだけで終えましたが、続きはアンカー決めです。その後も、順番を決めていきます。それら全てにじゃんけんが存在したら、某猫型ロボットの出す未来アイテム「バイバイン」のように掛け算でプラスとマイナスの空気は形成され、教室内に充満していきます。
日頃から、「友達同士で仲良く過ごすように」と教えている先生が、自分自身でそれを否定する教室環境を構築しているのです。
もちろん時には勝負事も大切です。テストの点数を競い合ったり、プリント進度を競い合ったりなど、互いを高めあうためにも競うというスパイスは必要です。しかし、何か物事を決める時に勝敗を出すことは怖いです。
毎日の給食時間にじゃんけんが存在すると、「喜びと悲しみを混ぜた学級づくり」が完成されます。普段は仲良く遊ぶけれど、決め事となると互いを敵と見て攻撃し合う学級づくりです。
じゃんけんに出会った時の対処法
結論から言うと「相手の意見に納得して譲る」という対処法です。そんな美しい結論が出せるのかと疑う方もいると思いますが、できます。時間をかけてでも納得解を見つけることが大切です。
上記の物語を例にお話します。まずは、やりたい人の気持ちを全員で全部受け止めましょう。「まずは、自分がやりたいという気持ちを前に出せたこと、学級のために最初は任せてくれという気持ちが素晴らしい」「ありがとう」と、私は伝えます。ただ、やりたい気持ちはみんな同じだから否定して争うのではなく、やりたい気持ちを全部受け止められる方法をみんなで考えます。
具体的に話すと、スターター、アンカーという枠組みだけでなく、順番の中央にも走るのが得意な人がほしいこと、アンカーを有利にするためにアンカーよりも少し前の順番を走る人がほしいことなど、他でも活躍できる場所を提供します。ポイントは、「他の場所も同じぐらい重要な役割なんだよ」と盛り上げて伝えることです。そうすると、ほとんどの子が逆にそこを狙ってきます。すると、面白いように決まり始めます。それでもどうしてもスターターが良いという争いが起こることでしょう。
その場合は当事者同士での話し合いです。互いのやりたい気持ちは否定せずに認めさせます。その上で、自分が走るとどんな良いことがあるのか、学級のためにこれまでどんなことをしてきたのかなど、自分の良さをアピールさせます。互いにアピールポイントを聞いて納得、またはぐうの音が出なくなるほど話し合って、相手を認めて自分たちで結論を出させます。
アピールの例として、「授業中にたくさん発表している」「みんなに授業の準備をするように声かけしている」「図工の作品を取りやすいように並べてあげている」など、日頃学級のためにやっていることをアピールさせています。
他にも給食時間での残り物のお話です。
食べ物を話し合って譲り合うのは難しいです。食べ物への執着は怖いものです。先のように話し合って決めるのは時間がかかり、毎日の活動としては難しいものです。なので、食べたいという気持ちをみんなで分かち合うために、人数分に等分します。一つのハンバーグに対して6人いる場合は必ず6等分しています。食べたい気持ちは皆一緒です。誰かが貰えないよりも、わずかでも誰もが貰えて喜びを分かち合う方が素敵な学級になると思います。もう少し具体的にお話すると、上記の分け方は個数を等分できる食べ物に限られます。牛乳やデザートは等分できません。その場合は、出席番号順にもらえる権利を輪番に回しています。「昨日5番が牛乳を貰ったので、今日は6番からほしい人を聞いていきます。」という流れです。そうすると、順番よく全員に権利が来るというルールにみんなが納得し、不満も生まれません。もはや、「明日は自分の番から始まるから明日の給食何かな」と楽しみを持つ子も出てきます(そんな日に限って残り物が出なかったりもします)。
リレーの順番や給食の対処法のお話ではマイナスが生まれていません。全くのゼロとまでは言いませんが、少なくとも互いが納得する結果を自分たちで出しています。「納得する」という言葉には多くのプラスが存在し、ほとんどのマイナスは見られないと思います。
このようにじゃんけんをせずに話し合いをして納得解を見つけていくことで、我々の目指す「みんなが仲良くできるクラス」に近づくのではないでしょうか。少なくても、今でも私はそれを信じて粘り強く話し合いを行なっています。子どもたちにも私が伝えたい大切なことが伝わっているようにも感じます。
あなたもぜひ、じゃんけんをさせずに互いの気持ちを認めさせ、その上で互いに気持ちの良い答えや方法を見つけてみませんか。理想論のようにも聞こえるかもしれませんが、きっと大丈夫です。一緒に素敵な学級を目指しましょう。
何卒。
石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭
沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。
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