2024.03.13
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「振り返り」に値する中味が大事 子どもにとっての中味のある授業を創るには(4)

「子どもにとって中味のある授業」を創るには、どうしたらよいでしょうか。
「トレーニングの3つの原理」から考えてみたいと思います。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

大学で学んだことって何? 

大学で学んだことで、今に生きていることってどんなことですか?
授業で覚えているのは、どんなことですか?
私が、今になっても忘れない、数少ない事柄の一つに、「トレーニングの原理」っていうものがあります。
専門が体育ですので、少しぐらい専門家らしいところも持っていないといけません。
皆さんは、いかがでしょうか。

「トレーニングの3つの原理」とは?

では、「トレーニングの3つの原理」とは何かというと、

(1) 過負荷の原理
(2) 可逆性の原理
(3) 特異性の原理

この3つです。
それぞれどんな原理かというと、
「過負荷の原理」とは、トレーニングでは、体に一定以上の運動負荷を与えることで、機能が向上するという原理。
「いつもと同じ」では、体が負荷や刺激になれてしまうため効果が現れにくくなるということです。
「可逆性の原理」とは、トレーニングで得た効果も、やめてしまうと徐々に失われてしまうという原理。
運動は、継続が大切だっていうことですね。
「特異性の原理」とは、トレーニングで刺激した機能(内容)にだけ効果が現れる・実感できるという原理。
当然のことで、腹筋運動をすれば、腹筋がつくということです。

「過負荷の原理」 一定以上の負荷をかけること

このうち、時折、私の頭に浮かんでくるのは、「過負荷の原理」です。
健康のためだと思って、一日1万歩を目指して歩き続けていても、身体には大きな変化・効果は見られません。
毎日同じことを繰り返しても、ダメなんですね。
(継続を全く否定するつもりは、ありません。「可逆性の原理」で、運動の継続の必要性を言っているわけですから。)

ただ、現状から一歩前に進めるのであれば、一定以上の負荷をかけないと、そういうトレーニングをしないと、身体は強くならないということです。

「過負荷の原理」で教師を考えると、

これって、言い換えれば、楽(らく)して育つなんてことはなく、人が成長するには、やっぱり何か超えるべきハードルがないといけないんじゃないかなと思うのです。
よく逆境に立たされた時、人は成長すると言われますよね。
でも、逆境や超えなければならないハードルが向こうからやって来るんじゃなくて、自らが主体となって自分で負荷をかけていくことがトレーニングならば機能が向上することになり、教師というものを考えるならば、力量を向上させることになるのでは、と考えるのです。
だから、子どもたちのため、否、私自身のために、楽しい授業、学びがいのある授業を創っていこうと思うならば、少し自分に負荷をかけて、素材研究や教材研究、研究授業に挑戦してみるというのは、どうでしょう。

私が若い頃、

私が初任3年目のころでした。
体育の跳び箱運動の研究授業の前日でした。
夜遅くまで体育館に独り残って授業準備をしていました。
本当に泣きたくなるような思いで準備をしていたのを今でも忘れることはできません。

大きな動作で開脚跳びをすることをねらっていた授業でした。
本時は、着地距離を伸ばし、できるだけ遠くに着地しようというものだったと思います。
マットの横に距離別に着色したダンボールを置き、着地したところにシールを貼っていくようにしました。
何度も繰り返し跳び続けていくとシールの位置が跳び箱から離れていきます。
ダンボール、シールによって、視覚化されることで、子どもたちの意欲も高まっていったように思います。
一時間の授業にこんなに準備をしなくては、ならないのか。
そういう思いを抱いたこともありました。
こんなこと一時間なら無理してするけど、毎時間なんて、とても無理だ!と。

教師自らの「過負荷の原理」

でも、今は、いつもと同じことをやっていたら自分もそうだけど、子どもも変わらない。
自分で負荷をかけ、目の前にハードルを置いて跳び越す・乗り越える努力をしていくことが、大事なんじゃないかと思うのでした。
無理をせよというのではありません。
自分で自分に少し負荷をかけるのです。
それが自分を鍛え、成長することになると思います。
「働き方改革」は、決して「先生、楽してください」というものではないと思います。
働き方を見直して、過重労働とみなされるものは、変えていくべきでしょう。
その中で、教師が自ら成長するための「過負荷の原理」を考えていくとよいのではないでしょうか。

いつも自分を少しだけ無理な状態に

作家の城山三郎氏が若い頃、先輩作家からこんなことを言われたそうです。
「あなたはこれから先、プロの作家としてやっていくのだから、いつも自分を少しだけ無理な状態の中に置くようにしなさい」

そして、この言葉に対して、次のようなことを記しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「少しだけ無理」というのがいいです。ごく自然にアイディアやインスピレーションが湧いたから小説を書く。これは無理していませんね。自然のままの状態です。 (中略) つまりぼんやり待っていたら何かがパッとひらめいた、じゃなくて、自分で作り出すものだ。だから、インスピレーションを生み出すように絶えず努力しなくてはならない。自然な状態で待っていてはダメなんです。負荷をかけるというか、無理をしなくてはいけない。けれども、それが大変な無理だったら続きませんよね。作品がダメになってしまう、あるいは体を壊してしまう。自分を壊すほどの激しい無理をするのではなく、少しだけ無理をして生きることで、やがて大きな実りをもたらしてくれる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんな一節に、どんな職業であれ、プロというものは、自分で負荷をかけられる人であり、そういう努力を積み重ねているのだと。

むすびに

公立学校教員の2024年度採用試験の志願者は、全国で計12万7855人、前年度から6061人減ったことが報道されています。
先生は、魅力がない仕事なのでしょうか。
否、明日の未来を切り拓いていく人を育てる。
そのために、学びがいのある楽しい授業を創造する。
尊く、素晴らしい生業ではないか。
そう思います。

間もなく2023年度も結びを迎え、そして、2024年度、新たな節目となります。
私は、私のハードルを少しあげて、小さな実りでもよいので
生み出していきたいと思います。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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