2023.07.25
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夏休みの宿題に突きつけられる黒船〜太平の世を呼び覚ますビッグデータと生成AI〜

夏休みが近づくと、今年の宿題はどうしようかということが話題になります。近年では、夏休みの宿題を軽減する学校が多くなっていると聞いています。今年はChatGPTの発達により、日記や読書感想文への影響も話題になっています。今回は、夏休みの宿題に突きつけられたテクノロジーの発展について考えてみたいと思います。

浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹

地域によって異なる夏休みの姿

一部の自治体を除くと、多くの小・中学校で7月下旬から夏休みに入ります。気候や自治体独自の教育課程などにより、始業式も異なるので、おおよそ一ヶ月から一ヶ月半程度の期間になるでしょう。私は東北出身ですので、他の地域に比べると多少夏休みが短かったので、他地域の学校が羨ましかったのを覚えています。 

さて、私の勤務地がある首都圏では、学習塾による夏期講習がお盆以外のほぼ毎日設定されていることも珍しくありません。講習の合間には模擬テストも実施されることが多いので、夏期講習がない日でも多くの子がテスト対策のために学習をしています。 
夏休み明けになると、「ようやく勉強から開放された」という言葉を何度も聞いたことがあります。学校が再開されると夏期講習がなくなるので、勉強ばかりの日々が終了するという意味なのでしょう。こうした子どもたちにとっては、学校は学習する場所というよりも息抜きする場所になっているのかもしれません。 

宿題を出す私たちの感情

夏休みの宿題を考える際に、私たちが最も考えていることは、何よりも子どもたちの成長でしょう。リコーダー練習や漢字の書き取りなど継続的な努力が大切なものから、クリエイティブな感性を育てるための自由研究や工作まで、それぞれにしっかりと目的をもたせて提出します。 

夏休み前まで培った努力を無駄にしないようにさせたいという思い、夏休みという長い期間だからこそ取り組んでもらいたいという願いなどが集まったものが、夏休みの宿題だと思っています。少なくとも、子どもたちを困らせたいということは考えていないでしょう。 

⼩学⽣30億件の学習データから突きつけられる宿題の扱い方

7月に発売されたばかりの書籍『⼩学⽣30億件の学習データからわかった 算数⽇本⼀の⼦ども30⼈を⽣み出した究極の勉強法』では、子どもの宿題は「親が代わりにやること」が子どもたちの学力を伸ばすという意見が示されています。この記事の執筆時点でのAmazonレビューも4.7を超えており、保護者の方と思われる評価には、「夏休み前にこの本に出会えてよかった。」という趣旨の内容が数多く書かれています。

筆者の今木氏によると、学校の宿題は、学習データ上効果があるとは言い切れず、海外では弊害も報告されているとのことです。子どもの成績を伸ばすためには、ビッグデータ上では、宿題を親が代わりにやってしまい、子どもたちのリソースをその他に集中してしまうべきということでしょう。今木氏はRISUという中学受験界では有名な算数学習のノウハウを示している方です。データに基づき、数多くの子どもたちを見てきたからこそ考えた勉強法なのでしょう。 

縮小していく夏休みの宿題

正直に申し上げて、長年宿題を出し続けてきた私としては何とも複雑な気持ちになってしまいました。個別最適化が求められる今、どの子に対しても適切な一律の宿題を出すというのは厳しいものになっています。 
保護者のサポートも共働き世帯の増加によって多種多様になる中で、一律の負担を強いる宿題に対してマイナスイメージをもつ方もいらっしゃるでしょう。別のデータでは、夏休みの自由研究での保護者のサポート率は、平均5割程度というものもありました。保護者にとって、こうした宿題のフォローはとても負担が大きいと思います。ましてや、その宿題が子どもたちにとって効果が上がらないこともあるという今木氏のデータは、改めて教師としての価値観を揺るがされます。 

夏休みの宿題の増減に関するデータは見当たりませんでしたが、私の周辺の肌感覚では10年前と比べてかなり減少しているように感じます。夏休みの宿題を出すのをやめた仲間もいます。保護者にとっても負担がなくなり、子どもたちにとっても面倒な課題から解放されたと喜んでいる姿も見てきました。「宿題を出さないでいただいてありがとうございます」という保護者の言葉に対して、どう考えるべきなのか、今でも答えが出てきません。 
先述したように、私の勤務している首都圏では毎日のように学習塾の授業があり、子どもたちに数多くの課題が出されています。こうした子どもたちにとっては、学校から出される「無駄な」宿題がなくなったと感じる子もいるでしょう。宿題は、タイムパフォーマンスが悪いものの代表として捉えられているのかもしれません。 

最大多数の最大幸福を目指して

一方で、学習塾や通信教育などを行っていない子どもたちもいます。こうした子どもたちにとっては、宿題がある種のセーフティーネットになっている部分もあります。たんに、時流に乗って宿題を廃止するというのも、必ずしも正解とは言い難いのではないでしょうか。 
学級や学年の子どもたちをしっかりと観察し、最もバランスが取れた最大多数の最大幸福は何なのかを見極めるのが重要だと感じます。 

子どもたちの主体的な学びを引き出すような宿題を設定することで、夏休みの学習意欲を促進することが可能となる一方で、過剰な負担は子どもたちや保護者の苦しさを増やしてしまいます。 
全ての子どもたちが最大限に幸福を感じられるようなバランスの取れたアプローチを考える。子どもたちと共に宿題の量や種類について検討を重ねていくというのも、当たり前の姿になっていくのかもしれません。 

終わりに

文部科学省から7月に生成AIの利用に関する通知「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が発表されました。読書感想文などの宿題に対して、ChatGPTなどを活用することにどのように対応すべきかが試される初めての夏になります。要項などでは、AIや盗作を禁止するようになりましたが、私たち教員は真偽を見極めることができるのでしょうか。ちなみに私は今年度の課題図書を全て生成AIで感想文を書かせてみました。まだ、現状ではまとめ方の癖があるように感じます。審査をする前に、ぜひ十冊程度の感想文を作らせてみてはいかがでしょうか。「AIっぽい」という感覚がつかめると思います。 
また、最近ではAIによる画像生成も急速に進化しています。時間や場所を文章で打ち込むことで、あっという間に画像を作り出すことができるのですから、こうした技術を活用して図工の作品ですらAIを活用する子が現れるのは時間の問題でしょう。 

今回は、ビッグデータやAIの進化により、何十年も変わらなかった夏休みの宿題が突きつけられている課題について考えました。 

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立美浜北小学校 教諭


一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。

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