2023.05.29
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『つなぐ・つながる』読書と、どうつながるのか?(前編)

皆さんは、読書好きですか? 子どもたちはどうですか? 読書ってどうして必要なのでしょうか? 読書の意義や読書とつながることの大切さについて考えてみました。まずは、その前編からです。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

「本」を開く時間を生むには?

皆さんは、今、読んでいる本ってありますか? どれくらい読んでいますか?
学級担任をしているころ、先輩の先生から「『朝読書』の時間は、子どもが本に向かっているのだから、先生だって、本を読む時間にしたいね」と言われたのを思い出します。
子弟同行」という言葉があるように、教師も子どもと一緒に同じことをしようというのです。
言われていることは、至極もっともなことですので、机に自分が読んでいる本を入れておくこともありましたが、その時間になったからと言って、子どもと一緒に読書するゆとりはありませんでした。
朝は、子どもたちの提出物の点検、保護者からの連絡ノートに目を通したり、課題の採点をしたり、大忙しです。授業の前に、やり終えないと、給食の時間や昼休みに持ち越しになってしまう!!
そう思うと、本を開くことは、ほとんどありませんでした。
本を開くには、それなりに心のゆとりが必要なのだと思いました。

でも、そんなこと言っていたら、「本」を開く時間など生まれそうにありません。
子どもたちは、「朝読書」という学校の日課が、「本」を開く時間。
「心のゆとり」だの、「本」が好きだの・嫌いだの言っている暇はありません。
時計がその時間を指し示せば(チャイムが鳴れば)、席について「本」を開きます。
しかし、教師はどこで、どのように「本」を読む時間を生み出していけばよいのでしょう。

「本」を開くことを習慣化する

今から40年も前のこと。
私が大学生のころ、アルバイトで何件かの家庭教師を掛け持ちしていました。
あるとき、伺った家庭でお手洗いをお借りしました。 
そのお宅のお手洗いに入ってびっくりしたのは、トイレ内の脇に棚が備え付けられていて、そこに何冊かの本が並んでいました。
いろんなジャンルの本が並んでいて、思わず、そこで、読み入ってしまいそうでした。

「なるほど。トイレ読書ね」
トイレは、毎日入ります。
ある程度決まった時間に、決まったタイミングで入るという方もいるでしょう。
用をたすと、本を開く。そういうオートマチックな行動が出来上がっていくんだと思いました。
あまりきれいなお話ではありませんが、衛生面からするとお叱りを受けそうな話ですが、「本」を開くということを自動化する、毎日続ける、つまりは「習慣化」する一つの方法だと考えます。

読書に限らず習慣化するとは、自分の意志を伴わずに自然に行動してしまうところまでいくことだと思います。運動にしても、勉強にしても、そのように日常生活の一部に組み込まれてしまうところまでいけば、しめたものです。
その何十年後、私が家を建てたとき、その体験を生かしてお手洗いを設計したのは言うまでもありません。
ただし、家族は、このことをあまりよく思っていないのではないかと口にこそ出しませんが、考えています。
というわけで、私の読書習慣の一つは、自宅の狭いところで続けられています。

月に1回集まること

しかしながら、自分が選ぶ本というのは、もちろん自分の好みというのがありますので、他人とは異なるもの、言い方を変えれば、偏りもでてきてしまいそうです。それに、ちょっと難解な本には、手が出ません。特に哲学書っていうのは、いくら教育に結び付くからといっても、読み解くのが一人では難しいというのもあります。

そういう本でも開く時間が、「読書会」です。
もう15年以上にもなるでしょうか。
土日曜日の休日に、1冊の本を持って地域の交流センターに何人かで集まります。
そこで、その本を輪読する、意見交換するという「読書会」に参加しています。
一人では到底読めない本も他の人の力を借りて読み進むことができる、貴重な時間となっています。
また、参加できるときに参加する、無理しない、というスタンスも自分には有難く思っています。

ちょっと遠距離の道のりで

昨年度末、2泊3日で、静岡から福岡、広島と、知り合いの研究者を訪ね歩くという時間を持つことができました。このときとばかりに、私は、鞄に忍ばせて行った2冊の本を、新幹線等の車内で読みふけりました。
車内での過ごし方は、人それぞれです。景色を愉しむ、その土地の食べ物を愉しむ、少しのんびりする、スマホ時間にする等。
でも、私にとっては、往復や移動の時間は、「本」を開く格好の一人時間でした。
このときに限らず、ちょっと遠方への研究会への参加、県外視察などは、一人時間を創ってもらえるので、大好きでした。

なぜ本を開く時間を創るのか

何かしようもないことを書き綴ってきたように思いますが、今、世の中では、深々と「不読率」が進んでいます。
これは、危機的状況だと思います。
「不読率」とは、その字のごとく「本を読むことをしない割合」のことです。
正確に言うと「1か月の間に本を1冊も読まない児童生徒の割合」のことです。
教育における、社会における大きな問題の一つではないかと思います。

「本」を開かない、本を読まないとどうなるのか、翻って言えば、本を読むことの意味とは何か。
読書の現状は、どうなのか。

次回は、そのようなことを綴ってみたいと思います。
今回は、ここまで。つづく。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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