2023.03.24
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被災地出身の教員として~現代的な諸課題に対応する放射線教育~

3月を迎えると、東日本大震災に関するニュースなどが多くなります。あれから12年が経過し、街並みは少しずつ復興の歩みを進めています。一方で、福島第一原子力発電所の重大事故によって、ふるさとに戻ることが叶わない人々の存在を忘れることはできません。今回の記事では、被災地出身の一人として放射線教育について触れたいと思います。

浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹

震災復興の歩み

震災から10年目を迎えた年、学びの場で、東日本大震災に関する記事を書かせていただきました。福島で生まれ宮城で育ち、現在は液状化で大きな被害を受けた千葉県浦安市で勤務していることから、NHKのニュース番組にてインタビューを受けたことがきっかけでした。ふるさとを離れている立場ですが、何かお役に立てないかと考え、宮城県で行われている防災教育を紹介しました。

あれから2年が経ち、震災から12年の月日が経過しました。これら3つの地もそれぞれ変化してきました。被害を受けた方やご遺族の方は今でも辛い思いをされており、軽々しく「復興」という言葉を用いることができないと感じる方がいることを承知しています。それでも帰省するたびに、被災した建物が随分と変わったなと感じます。被災直後に山積みになっていた瓦礫は撤去され、今では綺麗な建物に変わった場所も少なくはありません。

福島で進む放射線教育

こうした復興が進む現状の中で、福島の沿岸部を訪れた際に各地に置いてある大きな黒い袋を見ると胸が痛みます。この袋はフレキシブルコンテナバッグと呼ばれ、除染した土が詰められています。常磐道や国道6号を通行する度に見える巨大クレーンや除染水のタンクを見るたび、廃炉作業はまだ道半ばなのだという気持ちにさせられます。

祖父母の実家がある福島市では至るところに線量計が建てられており、ニュース番組や新聞では「本日の放射線量」が示されます。この記事を読まれている福島の方からすると当たり前の日常でしょうが、3つの被災地を比べてしまう立場からすると、「放射線」という言葉があふれる状況に困惑を感じてしまいます。

こうした福島の現状では、放射線に関する正しい知識が求められます。私の友人の多くも福島で教員を務めていますが、福島では、防災教育と共に「放射線教育」が重視されているそうです。

放射線教育とは

現行の学習指導要領では、「放射線」について、学習指導要領 総則の現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の部分で示されています。学習指導要領解説には付録がついていますが、付録6の中で国語科や社会科、特別の教科道徳において扱うことが例示されています。

ところで、防災教育について実施していない学校はないでしょう。地震、台風、洪水などが頻発する我が国において、今や防災教育は欠かせないものです。年に何回も行う学校がほとんどだと思います。私が勤務する浦安市でも液状化に対応した訓練など、様々な形で行われています。

一方で、放射線教育の実施についてはどうでしょうか。文部科学省が令和元年度に行った「放射線教育の実施状況調査」では、抽出された小学校等の中では放射線教育の実施率が69%だったというデータが示されています。言い換えれば、全ての学校では行われていないということでしょう。

放射線教育をどう進めるか

20代前半の先生方が数多く現場に出ています。震災当時は、10歳前後というまだまだ社会事象を認識することが難しい年代です。これからは、少しずつ震災の記憶が少ない年代が教員になるでしょう。

折しもウクライナ危機や原子力発電所の再稼働、そしてALPS処理水などいまだ解決半ばの問題であるがゆえに、とてもセンシティブな内容です。様々な立場や考えがある事柄だけに、どうしても目をそむけて、伏せてしまいたくなります。首都圏など、一見関係のない場所ではなかなか放射線教育について触れる必要性がないのかもしれません。

しかしながら、何十年にも渡る廃炉作業だからこそ、子どもたちやその更に先の子どもたちに伝えていかなければならない内容でもあります。こうした悩んだ時こそ指針となる指導要領に立ち戻り、改めて、総則編解説の付録6に示されている例示を参考にすることが大切だと思います。社会科ではエネルギーの安定供給、特別の教科道徳では差別などについて例示されています。文部科学省のホームページには、放射線教育の副読本もアップロードされていますので、関連リンクに載せておきます。

終わりに

以前も申し上げましたが、こういった記事は、福島で長年放射線教育に尽力された方が書くべき内容かもしれません。「福島県を離れた人間が放射線教育について語るべきではない」とも感じます。

それでも、放射線教育の普及に何かしら協力できればと思い、記事にしました。それぞれの先生方が身近なところから放射線教育を進め、それが大きな絆となることを願っています。最後に、東日本大震災で被害にあわれた皆様にお見舞いを申し上げるとともに、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立美浜北小学校 教諭


一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。

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