2023.02.10
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外国の文化に関心をもってもらうために〜ESSから学ぶ英語劇〜(前編)

新型コロナウイルスの流行によって、海外へと留学をする学生の人数が98パーセント減になったという日本学生支援機構発表のニュースが話題になりました。今ではインターネットを通じて様々な情報が入るようになったとはいえ、海外の様子を直接体験する機会は貴重です。私自身も高校時代に3か月ほど、アメリカに留学していたことが大きな経験となっています。

今回は、子どもたちが少しでも海外の生活や風習に興味を持ってもらえるように、英語劇に取り組んだ実践を2回に分けて紹介します。

浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹

外国語科の学びが進む小学校現場

新学習指導要領では、「外国語教育の抜本的強化」が示されています。小学校現場では、高学年からの外国語科が行われるようになりました。自治体によっては以前から先行してスタートしていたり、1年次から外国語学習が行われていたりする場合もあるでしょう。高学年では、「教科型」といわれる「読むこと」や「書くこと」を加えた指導の系統性を確保した学びが求められます。業者によるワークテストを導入し、評価の一助としている学校も多いはずです。 

チャンツやゲームが中心の外国語活動

一方で、中学年における外国語学習は、「外国語活動」と呼ばれます。外国語活動は「活動型」と言われる「聞くこと」や「やり取り」の学習が中心であり、外国語を学習したいという動機付けが大切とされています。 

私もこれまで3・4年生を担任した際に、活動型の学習を意識して「Hi,freinds1・2」を活用しながら英語のゲームやチャンツなどを中心にして授業を構成してきました。子どもたちは楽しそうに歌やゲームに取り組んでいるものの、その時間限りの単発的な学習が多くなっていました。もう少し時間をかけて取り組めるような実践がないかと、悩んでいました。 

ESS(English Speaking Society)での4活動

ESSと呼ばれる部活動やサークル団体があります。これは、English Speaking Societyの略称で、全国各地の大学に設置されています。私立の中・高等学校の中には、部活動に指定されている場合もあります。ESSの歴史は古く、例えば、早稲田大学のESS(W.E.S.S)は約130年続いているなど、日本の英語教育を支えている団体の一つです。英語の部活動やサークルと聞くと、皆で英語検定やTOEICなどの対策をして就職に備えたり、TOEFLなど留学への準備をしたりしていると考える方も多いのではないでしょうか。 

実は、ESSでは単に英語の学習をするのではなく、主に4つのセクションに分かれるそうです。それが、英語でのディベート、ディスカッション、スピーチとドラマ(英語劇)です。ドラマが各学校や大学のESSの活動の中で最も人気が高く、2時間ほどの大作を公演する場合、裏方や脇役も合わせると30名以上のスタッフを必要とします。実は、ハリウッド映画にも出演された別所哲也さんや昨年度に紫綬褒章を受賞された内野聖陽さんらもこのESSのドラマセクション出身とのことです。

英語劇で身に付く力とは

外国語を学ぶための教材は巷に多くあふれています。現代ではYoutubeやオンライン学習などを活用することも流行しており、一人で英語を学ぶ環境は十分に整っていると思います。 

それでは、日本の英語教育の中で長い歴史を持つESSがなぜ単なる英語の学習ではなく、仲間と関わり合うようなディスカッションや英語劇のような活動を大切にしてきたのでしょうか。それはESSが英語部ではなく、「Speaking Society」と示されているように「英語を話し合う社会」を形成することを目的にしてきたからなのだと思います(Societyには、様々な訳があります)。英語というツールを用いて話し合ったり、やり取りをしたりという活動は、中学年の外国語学習の活動型に通じるものがあると感じます。 

英語劇を小学校で取り入れるには

ESSのこうした活動を参考にして、これまで何回か英語劇を実践してきたので、今年度も、英語劇に取り組むことにしました。学習指導要領でも簡単な英語劇に取り組む良さが示されていますが、どんな劇に取り組むかが児童の興味を引き出すために大切なことだと思います。 

まず台本探しに取り組んだ私は、「童話」に着目しました。幼稚園児がお母さんと読むような題材にすることで、必然的に英語の構文や単語も易しいものになります。また、話の内容もある程度知っているので、児童の興味や関心が高まりやすくなります。どの話にするかは子どもたちと考えるのも面白いでしょう。 

さて、「桃太郎」などの童話を選んだら、Googleなどの翻訳サービスを用いて、台本を作ります。有名な作品は、有志の方が既に翻訳をしてくれているものも多いです。なお、昔話などは大半が作者不詳であったり、著作権切れであったりしますが、訳者の著作権もありますので、文章をそのまま使うことは避けてください。 

こうして英語の台本が完成した後は、ALTや英語が堪能な職員に校閲してもらうことも大切です。ご存じの通り、ウェブ翻訳はまだまだ完全な英訳になるとはいえないからです。 

ピーターパンの主題に迫る

私の学級での今年度の演目は、「ピーターパン」の英語劇に取り組むことになりました。ピーターパンというとディズニー版が有名で、テーマパークなどで慣れ親しんでいる作品です。ピーターパンやティンカーベルなど、魅力的なキャラクターが登場します。 

こうした童話を日本語の劇で表現しようとするとどうしても受け手に幼さを感じさせます。子どもたちの中にも幼さを嫌って、少し恥ずかしさを感じることもあるでしょう。ところが、英語劇にすることによって、熱心に練習に取り組みます。自分が外国人になったかの感覚を味わうことができるのです。執筆時は、まだ数回の練習ですが、子どもたちは楽しそうに活動に取り組んでおり、英語を話している自分に自信を持ち始めているそうです。 

また、園児の頃には気がつかなかった主題に改めて気づくきっかけにもなりました。原作でのピーターパンは「大人にならない少年」という面が強調されています。子どもたちと図書館にあった童話から作品を探していると、ピーターパンのこうした部分が卒業する6年生にピッタリだという意見が出てきました。6年生を送る会という目的意識がはっきりとしているから出てくる意見でしょう。劇を見てもらう相手が保護者や幼稚園児、地域の高齢者などでしたら、また違う意見が出てきたと思います。 

ウェンディがいつまでも子どもでいられるネバーランドを離れ、あえて大人の世界に入ることを選んだ姿と、小学校という場所を離れて新たなステージへと旅立つ6年生の姿が重なって見えたのでしょう。改めて童話を読むことで、様々な角度から作品を味わうきっかけにもなりました。 

To be continued.

台本が完成した後は役割を決めていきます。ここからは通常の劇の指導とあまり変わりませんが、大切なことが二つあります。それは、台本をALTに読んでもらい録音することと、日本語字幕を用意することです。ALTに読んでもらった台本を一人一台端末で共有できるようにすると、子どもたちも簡単に台詞や発音を覚えることができます。 

また、日本語字幕は体育館などで実際に劇をする場合に鑑賞している児童が理解を深めることにつながります。プレゼンテーションソフトなどで一文ずつ日本語の文章を表示すると良いでしょう。 

今回は、英語劇に取り組んだ実践について紹介しました。現在進行形の実践ですので、また第2弾を執筆したいと思います。今回もお読みいただきありがとうございました。 

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立美浜北小学校 教諭


一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。

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