2022.09.01
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計算ドリルの違いを比べる

計算ドリルというと定番教材であり、たいていどの学級でも利用しています。かつては計算ドリルの問題をノートに計算することが当たり前でした。ところが最近では、書き込み式や方眼式と名付けられた計算ドリルが増えてきています。今回は、重要な力である計算力をどのように伸ばしていくべきなのかを考えてみたいと思います。

浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹

書き込み式や方眼式の計算ドリル

10年前までの計算ドリルは、ノートに行うタイプのものがほとんどだったと記憶しています。子どもたちは、計算ドリル用のノートを用意し、何度も同じページを反復練習したものでした。子どもたちには、定規を使って筆算の位を書かせたり、答えの数値には下線を引かせたりするなどの指導を行い、徹底的に練習をさせていました。

ところが、各業者から提供される計算ドリルのサンプルがここ数年で変化しています。書き込み式や方眼式と名付けられた計算ドリルが増えているのです。こうしたドリルは、答えを直接書き込むようになっています。

計算スペースも確保されているので、ノートに筆算があちこちに書かれているような状況になりにくく、以前のドリルに比べて計算ミスが減っていると感じます。教師側としてもどの問題をやっていないか、またはどの問題で悩んでいるのかが分かりやすいので、こうした計算ドリルの採用数が増えているのでしょう。

賛否分かれる定規を使用した筆算

書き込み式の計算ドリルには、筆算の位ごとに線が引いてあります。以前のノートであれば、筆算をする場合に定規で線を引かないと位がずれてしまうことが多かったので、「筆算をする場合には線を引きましょう」という指導はよく見られました。私自身、当たり前のように線を引かせており、線を引きやすいように定規を10センチ程度に切らせたものを使わせていました。いわゆるミニ定規というものです。

昨今こうした筆算の際に定規を用いて計算することに対して、様々な意見が出るようになりました。数年前の新聞記事においても、この筆算での定規指導が問題になっていたことを覚えています。賛否が分かれる指導方法になっていると感じます。

書き込み式や方眼式のドリルは、既に計算スペースに方眼の線が描かれているので定規を使わないで計算することも可能です。もちろん、こうした書き込み式や方眼式でも線を引かせている方が多いでしょうが、方眼を参考にすれば線を引くことも容易になりました。

学習塾での計算ドリル

学習塾などに通っている児童からすれば、定規を使うことを億劫に感じる子もいます。彼らからすればスピードが重要な計算において、わざわざ速度を落とすことは無駄であると感じるのでしょう。

少し横道に逸れて、学習塾での計算ドリルについて紹介します。以前紹介した4大塾では、どの塾でも算数のテキストに加えて、計算練習専用のテキストが配布されています。例えば、SAPIXの基礎力トレーニングは、10問ずつ毎日解くようになっており、日付も書いてあります。そのため、今日はどこを練習すれば良いのかが分かりやすくなっており、彼らは、基礎力トレーニング専用のノートを購入して、毎日取り組んでいます。

最も大きな特徴として、毎日似たような構成の問題を解き続けるということが挙げられます。10問という問題構成のうち、2問は小数問題、3問は分数、2問は単位変換、2問は特殊算、1問は図形問題というように固定し、似たような問題文にして一部の数字だけを変化させた類題を出し続けます。

学校で扱う計算ドリルはどうしても単元ごとに区切られており、「わり算」という単元を学習している際には、ほぼ「わり算」の問題しか出ません。その単元を学習している最中は良いかもしれませんが、別の単元に進んだ場合にもう解けなくなっているということもあります。

SAPIXの計算ドリルは、毎日定期的に類題に挑戦することで、計算力が着実に身につくようなつくりになっています。学校現場でもスパイラル的に時折既習の計算問題を行わせたり、週ごとに似たような構成の問題を行ったりするなどの工夫ができるのではないかと感じます。

苦手な子も取り組みやすい書き込み式や方眼式ドリル

算数に苦手意識を感じる子が多いのは今も昔も変わらないでしょう。既に苦手だと感じている子どもに、計算ドリルを普通のノートにさせようとしてもなかなか難しいです。計算をするために筆記用具を用意し、ノートを開き、計算ドリルのページを開くという一手多い動きが初動を遅らせてしまいます。ノートを開くだけではないかと思うこの一手が、どういうわけか子どもたちにとって億劫に感じることもあると思います。

机の整理整頓に手間取ってしまうようなお子さんの場合は、より意欲が低下することが予想されます。右利きのお子さんの場合、左の問題文を見ながら右にあるノートに式や答えを書くわけです。計算する前に「もう面倒だ」と感じてしまうことも多いと思います。書き込み式や方眼式ドリルが流行してきた背景の一つに、こうした算数が苦手な子への配慮というのもあるのかもしれません。

計算力とは何なのだろうか

今回は、計算ドリルに焦点を当て、昨今流行する形式について触れさせて頂きました。

ここで一つ、計算力とは暗記も大切であるという考え方を紹介します。「計算視力」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。鍵本聡さんが発行している「スピード計算トレーニングドリル」という著書で述べている言葉です。例えば、35×18という問題があった際に、問題を見た瞬間にぱっと35×2と9をかければよいのだなと考えるような力のことだそうです。35×2は70ですから、すぐに630と分かるのです。日常的に11×11などの平方数や4×3.14などの円周率の計算を覚えておくと、計算ドリルがすらすらと解けるようになるそうです。

計算力というとその場でガリガリと計算するということをイメージしますが、暗記も大切であるという視点。計算の際には定規でという視点も紹介しましたが、本当に計算というのは算数の基礎であるとともに、深い世界だなと感じます。皆さんも、今一度、計算力とは何かについて考える機会にして頂ければ幸いです。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立美浜北小学校 教諭


一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。

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