2022.01.25
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学校での心理検査を考える(前編)

心理検査とはなんでしょうか?そして、なぜ学校で子どもたちに心理検査を行うのでしょうか。心理検査にはどのようなものがあって、そこからわかる事には何があるのでしょうか?学校で心理検査を行うにはいったいどのようなことに注意が必要なのでしょうか。 私は心理学が専門というわけではありませんので、「心理検査とはこうあるべき。」ということをお話しすることはできませんが、公認心理師、学校心理士という心理について、少し学んだ立場の教員として、「学校現場における心理検査」について、自分なりの考えについて話をしてきたいと思います。 「検査全般にかかわる話」を前半に、「その活用についてのお話」を後半に分けて説明をしていきます。今回は前半の内容になります。写真がなく、文章の多いお話になり、大変申し訳ないのですが、お付き合いいただければと思います。よろしくお願い致します。

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭 丸山 裕也

検査全般にかかわる話(1)

心理検査の種類

学校で働いていてよく聞く検査名としてはどのようなものがありますでしょうか。
WISC-Ⅳ(ウィスクフォー)と呼ばれる検査は聞くことが多いかもしれません。これは「子ども」の「知能」について検査で、「言語理解指標(VCI)」「知覚推理指標(PRI)」「ワーキングメモリー指標(WMI)」「処理速度指標(PSI)」の4つの指標の得点から「FSIQ(全検査IQ)」を検査しています。また、知能についての検査はほかにもあり、療育手帳(愛の手帳)の交付に当たってはビネー式と呼ばれる検査で「知能指数(IQ)」を検査しています。

会社などの採用試験の適性検査で使われることもある検査にYG(矢田部ギルフォード性格検査)と呼ばれるものがあります。これは質問用紙に回答をしていく検査で、質問に対し「はい」「いいえ」「どちらでもない」と答えていきます。地域によっては教員採用試験でも用いられていますね。この検査は「個人」の「性格の全体構造」を把握するのに使用される検査です。性格の検査の中でもMMIP(ミネソタ多面人格目録)と呼ばれるものは、YGよりも質問の数が多く、「自分を好ましく見せようとする傾向」や「逆に自分を悪く見せようとする傾向」なども妥当性の尺度に示されます。

また、内田クレペリン精神検査というものがあります。この検査も会社の適性検査で使われることもある検査で、皆さんの中にも行ったことがある方も多いのではないでしょうか。隣り合う数字をひたすらに足していくというもので、この検査は「計算」を行いますが「計算の能力」を調べているものではなく、作業を通じて、その人の「職業、作業面での性格」や「性格の基礎」を検査しています。

心理検査は「知能」や「性格」だけでなく、「行動・社会性」に関する検査や「知覚」に関する検査、「感覚」に関する検査、「記憶」に関する検査など、検査には様々な種類があり、用途や年齢によって細かく分かれています。学校で子どもたちに心理検査を行うのであれば、多様にある検査の中から最適なものを、選択していく必要があります。

検査全般にかかわる話(2)

検査を実施する際の注意事項

ではどのようなことに注意をしながら心理検査を選択していけばよいのでしょうか?私なりにまとめてみました。
もし学校で心理検査を行うのであれば、当たり前のことですが「①どのようなことを検査したいのか?」ということを明確にした上で、「②その検査が、その対象の生徒の年齢などに合ったものであるか?」ということを確認しなければなりません。ということは前提条件として、検査を行う人間は「心理検査についての専門性」が必要になってきます。検査によっては要件を満たしていないと実施ができないものもあり、細かくレベル分けがされているものもあります。いくつかの心理検査の実施可能要件については、同じ公認心理師の資格をお持ちの髙橋三郎先生がつれづれ日誌の方で分かりやすく説明をされておりますので、ご覧いただければと思います。

また心理検査を行うことは、対象の生徒にとっては負担になることが予想されます。
「③本当にその検査が必要なのかどうか?」もよく考えて実施していきましょう。教員の興味本位でいたずらに検査を行うことはあってはなりません。私は「学校での心理検査は、その後の子どもの支援に活きるものであるべき」だと考えています。その検査が本当に必要なものか、よく考えて実施をしましょう。

その取扱いにも注意が必要になります。販売されている心理検査は複製を禁じているものが非常に多いです。「④取り扱いには最大限の注意をする」ようにしてください。
なぜ、検査用紙をコピーしてはけないのか、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

この記事を読んでいる皆さんが、「これまでにない新しい検査を作りたい」と考えたとしましょう。
心理学などに知見のある先生方を交えて「このくらいの年代の、こういった人の、〇〇についての検査を作りましょう」と方針が定まってきました。その検査を正確で安定したものにするためには、サンプルをとらなければなりません。それも数人のサンプルではなく、たくさんの人に協力してもらい、たくさんのサンプルをお願いすることになるでしょう。
当然協力してくださった方には謝礼を支払います。更にサンプルがとれて終わりではなく、それらのサンプルを分析して、ここから統計的に本当に正確なのかも調べます。
たくさんの人の労力、コスト(お金)、時間をかけて、やっと素晴らしい「心理検査」が出来上がりました。ばんざーい!

さて、そんな素晴らしい心理検査を見た丸山が「これはいい検査だ。コピーして使おう」と印刷機でコピーをし始めたとしたら、皆さんはどう思いますか?

きっと怒りの気持ちで「ふざけるな、二度とつくるものか!」と思われるのではないでしょうか。

それに加え心理検査は一般の方に販売されないものも存在しています。そんな検査が簡単にコピーされ広まってしまうとどのような影響が考えられるでしょうか。
本番の検査で望む結果を出すために、コピーされた心理検査を使って、練習(トレーニング)してしまう人が出てくるかもしれませんし、逆にわざと「この検査は間違えよう」と考える人も出てくるかもしれません。
そうなってくると、その心理検査は意味がなくなってきてしまうと思いませんか?
心理検査を行う人はその検査を安易に複製しないことや、他の人に見せないことなど、取り扱いに注意をする必要があります。当然、検査で得られた情報は個人情報になりますので、施錠できる場所で保管するなどして、漏洩がないように努めましょう。

さて、今回のお話は、これまで話をしてきた「特別支援学校での実践」とは違って、文字だらけで内容も退屈なものであったかもしれません。ですが、心理検査について知ることは、インクルーシブ教育の場面ではとても大切になってくることであり、今後の学校教育で求められることであります。しっかりと胸に留めておきたいですね。

丸山 裕也(まるやま ゆうや)

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
公認心理師、学校心理士、障害者スポーツ指導員(初級)、福祉用具専門相談員
「あした、またがっこうでね。」と、子どもも教師も伝え合うことができるような、楽しい学級づくりを目指しています。また、障害のある子どもたちの心の健康について、教育と心理の二面からアプローチしていく方法を考えています。
特別支援学校で出会ってきた子どもたちとの学びを、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。


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