2021.12.09
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STEAM教育につながる造形遊び~ 造形大会レポ~

「答え」があることが多い小学校の学び。既に知られている公式や考えを効率的に習得させようとすると、問題解決型の探究活動よりも知識伝達型の活動に注力せざるを得ない場面があります。

問題解決能力を高めるために、近年STEAM教育という考えが広まっています。今回は、本校を会場に行われた造形大会での事例を取り上げ、STEAM教育と造形遊びに関する内容をお届けします。

浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹

STEAM教育とは何か

Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つを大切にする指導をSTEAM教育と呼んでいます。問題解決型の自主的に課題を見つけ出し、解決に導くための力が養えると言われています。 

以前、Google社はウインドウアートなどのようにアート感覚を重視しているという記事をお伝えしました。Googleの検索画面は毎日日替わりで遊び心やアート感覚にあふれた画面に変わります。「Doodle」と呼ばれるこれらの画面は、「落書き」と訳されることもあり、Google社の遊び心やアート感覚を大切にする姿勢が表れているように感じます。 

STEAM教育は、元々STEM教育と呼ばれており、近年A(芸術)が追加されるようになりました。GAFAを始めとする巨大IT企業ほど様々な場面でアートを意識しています。科学技術や数学的な考えを突き詰めるだけではなく、アート感覚を大切にしているその姿を私たち教育者も学んでいきたいところです。 

造形教育部会研究発表大会の実施

第 72 回千葉県教育研究会造形教育部会研究発表大会浦安大会が11月26日に本校で行われました。ICT関係の仕事を担当していた私は、大会運営者及び管理職の指示のもとで大会のHP運営やメール業務などを行っていました。高学年を指導する教員として授業者を支援しながら、微力ながら5・6年生の指導に関わらせていただきました。 

千葉県教育研究会造形教育部会の研究主題「かかわる つながる つくりだす」を設定して行われたこの大会では、 

①造形活動を通して、もの、こと、ひとに自らかかわろうとする子ども(かかわる) 
②造形活動を通して、もの、こと、ひとと相互に触発、共鳴しあう子ども  (つながる)
③造形活動を通して、かかわり、つながり、思いを基に色・形・質感等を楽しむ子ども(つくりだす)

の3つの児童像を目指しました。 

コロナ禍ということもあり、子どもたちの学び合いが制限されています。本大会では、このような未曽有の危機をSTEAMの本丸とも言えるテクノロジーを活用して乗り切ろうと考え、Teamsなどのコミュニケーションツールを積極的に活用しました。今回は高学年の実践を紹介していきます。 

~異世界の入り口が開いたら~

思わず入ってみたくなる異世界への扉

「もし突然異世界への扉が開いたらどうするか」 

いきなりこんなことを聞かれたら戸惑う方も多いでしょうが、今の子どもたちはこうした発想に慣れています。「異世界転生もの」と呼ばれるこのような異世界に転送されてしまうという話が現在、ブームを巻き起こしています。書店に行けば数多くの異世界へ転生してしまった主人公の冒険譚が発売されています。書棚の多くを異世界転生ものが占めており、その人気の高さが感じられます。 

ゲームやアニメーションの人気作を見ても、「転生したらスライムだった件」など多くの異世界転生作品が上位を占めており、現在の子どもたちはこうした異世界というものへの憧れを多く持っていることが推測されます。特に「異世界」と「学校」という組み合わせは、人気が高いです。児童と親和性が高い学校という空間に、異世界というファンタジーが出現する面白さがあるのでしょう。「小説家になろう」などの投稿サイトでは、異世界を舞台にした小説が日々発表され続けています。 

テクノロジーとアートの融合~高学年の実践から~

入口を抜けると宇宙空間が広がる

「海」や「戦国時代」などの入り口のイメージを共有する際には、言葉だけでは難しい場合があります。海といっても荒波や凪など様々です。プールなどの場所をどのように活用して、イメージを具現化させていくのかをグループで議論することが重要になります。 

その時に鍵となったのがICTでした。タブレットでプールや体育館などの場所を撮影した後、ペンでイメージを画像にどんどん描き込ませます。子どもたちはICTを使って何度も考えを書き直しながら、グループのメンバーと考えを昇華していきました。 

実際に用具や材料を使って作成する際にもタブレットは大いに活躍しました。場所が多岐にわたるので、教師が子どもたちに指示するのも一苦労です。体育館から教室、はたまた校庭など、学校中をキャンバスにするわけですから教師が児童を集めるのも大変ですし、作業が中断されてしまいます。そこで、教師からの指示をTeamsの投稿機能を使って行いました。どの場所にいても教師からのメッセージを確認できますし、めあてや板書を添付しておけば作業の工程もスムーズに把握することができます。 

また、作業の途中経過をこまめに写真に撮って共有しました。児童はお互いのグループの造形活動の様子を見ながら、自分たちの実践を振り返ったり、上手に自分たちの作品に活かしたりしていました。画像だけでは伝わらない部分もあるので、直接自分たちの目で他のグループの様子を確認する時間も数分確保しました。 

終わりに

当日授業をした先生による板書

完成した児童の造形作品はどれも大変独創性にあふれた素晴らしいものでした。子どもたちに感想を聞いてみると、実際にイメージしたことを表現するのが楽しかったと答えていました。 

造形遊びというと、かつて低学年を中心に取り組まれていた学習指導要領の歴史から、どうしても高学年では取り組みにくい印象を与えてしまうような気がします。しかしながらSTEAM教育というこれからの教育において、アート(A)が求められるように、どの学年でも自分のイメージを具現化していくことが必要だと感じました。 

  

今回は、第 72 回千葉県教育研究会造形教育部会研究発表大会浦安大会での高学年の造形遊びの様子をお伝えしました。各学校において、アート感覚を大切にした教育活動を進める一助となれば嬉しく感じます。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立美浜北小学校 教諭


一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。

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