指導言・事務作業にプログラミング的思考を取り入れる~教師よし~
プログラミング的思考を育てる教育が各先生方によって実践されています。このプログラミング的思考は、私たち教員にとっても重要な力だと感じます。
私たちは、プログラミング的思考をどのように日々の実践に取り入れていけばよいのでしょうか。
浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹
授業の原則10か条とは
向山洋一先生の「授業の原則10か条」をご存じの方は多いでしょう。私も学生時代にこの原則を知り、感銘を受けたことを覚えています。特に第2条の「一時一事の原則」、第3条の「簡明の原則」は、ある程度経験を経た今でも重要だと感じています。発問・指示・説明のような授業中に使う言葉のことを指導言と言います。指導言においては、特にこの2つの原則を大切にしてきました。
大西忠治先生を取り上げさせていただいた記事と同様に今回も授業の原則について解説をしてもよいのですが、向山先生を慕う方々を中心に、非営利活動法人TOSS(Teachers' Organization of Skill Sharing)が結成されています。私のような外部の人間が説明するよりも、数多く発行されている書籍やTOSSのウェブサイトをご覧になったり、検定を受けられたりしたほうがよりその教えについて学べると思います。
指導言にプログラミング的思考を取り入れる
それでは、何故紹介したのかというと、こうした授業の原則はプログラミング的思考そのものであると感じているからです。先に紹介した「一時一事の原則」、まさにコーディングを行って一行ずつコンピューターに命令を与えることと同じように感じます。私は、Python(パイソン)というプログラミング言語の触り程度しか理解していませんが、一行のコードにはコンピューターへの指示を一つだけ組み込みます。こうした一行のプログラミングに一つの動きのみを命令していく作業が、一時一事の原則と似ていると感じたのです。
第3条「簡明の原則」では、指示や発問を短くしていくことの重要性が述べられていますが、こちらもシンプルで分かりやすいコードを構築していくことと共通したものを感じます。例えば、Pythonではリスト内法表記という長いプログラミングを短くするテクニックがあります。他にも私のような初心者にとって何行もかかるプログラミングでも、上級者の方は三項演算子などのスキルを用いて、短縮することができます。シンプルなのでエラーも少なく、プログラムがバグを起こすことも減ります。
理解しやすいプログラミング思考を生かした指導言
もちろん、大切な子どもたちをコンピューターと同じように考えるわけではありません。更にコンピューターは人間と異なり、命令をいくつ与えたとしてもその指示を受け取ることができます。恐らく向山先生はマジックナンバー7のように、人間の短期記憶の限界を計算した上での一時一事の原則を考えられているので、少しプログラミング的思考と異なるかもしれません。
人間はコンピューターではありませんが、子どもたちにとって分かりやすい指示を考えていく過程において、一行ずつ・簡潔に説明するプログラミング的思考が教師に求められるような気がします。私たちが指示や説明を考える際には、手順を考えたり、短く説明したりするために余計な説明をそぎ落としていきます。これこそ先に説明したプログラミング的思考ではないでしょうか。
多くの教員が初任者のころに「発問や指示は短く」と指導を受けた経験があるでしょう。作業のフローを考え、達成していない児童にはループで繰り返し説明を行う、もし達成した場合には次の指示を提供する(if文)。説明・指示・発問といった指導言には、プログラミング的思考が求められると感じます。
事務作業をどうオートメート化していくか
指導言に関して話をしましたが、ワードやエクセルなどの事務作業もプログラミング的思考を生かして取り組むことができます。そもそも事務作業はパソコンを使うので、こちらこそ更にプログラミング的に手順を組み、業務改善を進めるべきだと思います。
そのためのソフトとして「Power Automate Desktop」というソフトがあります。このソフトは、RPA(Robotic Process Automation)」と呼ばれるパソコン上の作業を簡単に自動化できるソフトです。プログラミングスキルがない人でも扱える設計になっており、Windows 10を搭載したパソコンであれば無償で使うことができます。
学校現場で使われているOSの多くがMicrosoftでしょうから、このソフトを使いこなすことができれば、作業を効率的にすることができます。本市が導入しているMicrosoft365のサービスの中にもPower Automateが入っており、こちらを使うことでMicrosoftのオフィス系のソフトやTeams、Outlookなどのメールソフトを自動で組み合わせて活用することができるようになります。例えば、エクセルで入力した情報を別のエクセルに反映させたり、Formsでの児童のテストの点数をエクセルに自動で保存するようにしたりと様々な活用方法が考えられます。
私も管理職や教育委員会の方々からご助言をいただき、本校の公開研究会の受付システムに活用しました。これまでならば、研究授業の参加者の情報やメールアドレスをエクセルなどで管理し、こうした情報を一つ一つ処理する必要がありました。マクロや関数に慣れている方は良いですが、そうした方ばかりではないでしょう。しかしながら、Power Automateでは、ノーコードで手順を組むことが可能で、ほとんど自動で作業を行ってくれます。しかも有志の方が作ってくださったフローも既に用意されており、そのまま応用することもできます。自動返信メールなどのシステムを簡単に構築することができたのがとても便利でした。
RPAが教育現場に浸透するためには課題も
まだまだPower AutomateのようなRPAソフトを教育現場に取り入れるにはハードルが多いですし、個人情報保護の問題もあるでしょう。ただ、事務作業における一連の作業をプログラミングなしで“ロボット"のように自動処理してくれる、こうしたソフトの活用を更に進めていければ、私たちの働き方改革も進むのではないでしょうか。少しずつですが、私もこうしたソフトの教育への応用を考えていきたいと思います。
属人化から脱却するために
昨今話題となっている言葉に「属人化」という言葉があります。特定の社員が担当している業務の詳細内容や進め方が、当人以外では分からなくなってしまう状態です。どちらかというとネガティブな意味で使われることが多い言葉です。
学校現場で例えると、その担任しかクラスの状態を把握していない状態や担任の言うことしか聞かない学級となるのでしょうか。学級王国と揶揄されることが多い小学校の学級担任制では属人化が進みやすいのかもしれません。
一部の名物先生の力で問題を解決するというのではなく、誰にでも習得できるような技術で子どもたちを育てていくという法則化の考えは、属人化の脱却に通じるものを感じます。誰が急に担任になっても引き継げるような状態を目指すことが重要であるし、それが業務改善を進めるのでしょう。
今回は、優れた指導言にはプログラミング的思考が必要ではないか、また事務作業にプログラミング的思考を活用していくことができるのではないかをご提案しました。もちろん、確かな教育理論や哲学に裏打ちされてこその、こうした法則や業務改善と考えております。向山先生の本来の教えとは異なるというご指摘もあるかもしれません。私自身、まだまだこれらの指導言やRPAについて学んでいる最中であることをご理解頂ければ幸いです。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)
浦安市立美浜北小学校 教諭
一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。
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