2021.08.05
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おとなを動かす魔法の言葉

おとなを動かす魔法の言葉。それはまぎれもなく、「こどものため」。このたった6文字。

この魔法の言葉を持ち出されてしまうと、どんなおとなでも敵(かな)いません。

東京都内公立学校教諭 林 真未

「こどものため」に打ちのめされるおとなたち

「こどものため」と言われると、無理をしてしまうおとなたち。
その筆頭はもちろん先生たちでしょう。いつまでたってもブラック稼業を続けているのは、とにもかくにも「こどものため」。残業して丸付けをして、自腹を切って教材を買う。自分の時間を犠牲にして、教材研究や教材準備をする。など、日々の暮らしをふりかえると、とても「こどものため」というワードに勝てる気がしません。
親も似たようなものですね。一昔前は「こどものため」に仕事を止めます、なんて女性は珍しくなかったし、最近は「こどものため」に出世より家族の時間を選ぶ父親も増えました。「こどものため」に離婚を思い留まるなんていう場合もありますし、「こどものため」に働き詰めでも頑張れるという声もよく聞きます。
普段直接子どもと関わらない世間の人々も、「こどものため」という錦の御旗に、反旗を翻すことはありません。むしろ、積極的に「こどものため」になることに協力する方が多いのではないでしょうか。
ただ、先生や親にとっての「こども」は、目の前の具体的な顔も名前も分かる子なのに対して、世間の人々にとっての「こども」は、顔も名前もない漠然としたイメージの「こども」という違いはあるように思います。
どうしてこんなにも、「こどものため」という言葉はおとなを動かしてしまうのか。

子孫繁栄を望む、イキモノとしての性(さが)なのでしょうか……

 

それ、ほんとうに「こどものため」?

ところが最近、私は、今までしてきた「こどものため」が、実際にはちっとも「こどものため」ではなかったのではないか、と疑いはじめました。
まず、教師として。
現代っ子には、学習以前に”サンマ”(3つの間すなわち、自由になる時間・空間・仲間)が足りないと言われています。それなのに私は、「こどものため」に、学びのメニューを充実することにばかりに気を取られ、むしろ”サンマ”を奪ってはいなかっただろうか……。
”サンマ”こそ、子どもにとってなくてはならないものなのに。
次に、親として。
私は子育て中も仕事に夢中で、自分の子はほったらかし。まさに紺屋の白袴でした。そのことを当時からずっとずっと後ろめたく思っていたのですが、先日、成人した息子たちにこう言われました。
「俺ら、おかあが干渉しなかったから、むっちゃ幸せだったよなあ!」
「うん! ホント助かった」
!! ……なんということ。

最後に世間の人々。
今は、動画サイトやZoom等で「こどものため」に子どもの問題を考えるイベントや講座、シンポジウム等が毎日のようにあります。その告知を見るたび思うのです。子どものいないところでおとな同士で語るより、直接近所の子どもに会いに行って、話を聞けばいいのになあって。

これが、ほんとうの「こどものため」

さて、それではいったい、何が「こどものため」なのでしょうか……。
何がほんとうに「こどものため」なのかは、きっと、これを読んでいる皆さん一人ひとりのなかに、答えがあるのだろうと思います。
私のなかにあった答えは、”ひき算”でした。
まず教師として。
学校には、「〇〇教育」「××教育」など、たくさんの責務が背負わされているけれど、もっとスカスカにしたほうが、きっといいのではないかなあ、と考えました。つまり、今ある学校のプログラムからひき算して、子ども自身の発信が広がる余地を残っているほうがよいのではないかと思ったのです。
次に親として。
現代では、親に、子どもに責任を持てとか、早期教育をすべきとか、やっぱりたくさん求められているけど、これも”ひき算”して。
「食べさせて、着せて、遊ばせて、寝かせて、これ以上何しろっていうの?」と啖呵を切った友人がいましたが、まさにその通り。親の役割は、基本的にはそれだけでいいのだと思います。家族支援の考えでは、子どもは、コミュニティの力で自ら育っていくものですから。
そして世間は。
思いきって、「考えること」を”ひき算”してもいいのかもしれないと思います。考えるより、感じて、即行動!
子どもの”サンマ”を取り戻すために、行動できたらいいですね。たとえば公園での木登りを解禁にするとか、子どもが遊ぶ時間帯は通行止めの道路を作るとか、遊びの幅を広げてあげたい。でも、そういうアクションは、各方面にネゴシエーション(交渉)が必要で、たいへんそう。
現実は、ドラマのようにはいかないですね……。
でも、なんとかしたいな、「こどものため」に。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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