2020.09.02
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適度な距離で見守ってみよう

「主体的・対話的で深い学び」とか、「自ら学び自ら考える力の育成」の機会である探究型学習とか、学びの主役が生徒であることがより強調されるようになっています。「生徒が自分たちで企画して〇〇する」といった場面も増えてはいますが、教員はどのくらい関わったら良いのでしょう?

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭  山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路

子育て四訓

「子育て四訓」というのを聞いたことがありますか?
(1)乳児はしっかり、肌を離すな
  ……生まれたばかりですから、いつも一緒にいる時期だと思います。抱っこなどで物理的に肌を離さないということもありますが、それだけ愛情でしっかり包んであげようということだと思います。

(2)幼児は肌を離せ、手を離すな
  ……幼児となると好奇心旺盛で行動力も出てきます。いつまでも抱っこしていたい気持ちもありますが、親以外の様々なものを見たり触れたりする経験が必要な時期でもあると思います。他方、まだまだ危険なことも多いので、とっさのときに手が届かないところまではできないということでしょう。

(3)少年は手を離せ、目を離すな
  ……少年の範囲はだいぶ広い気がしますが、自分で危険かどうかの判断も行動もできるので、四六時中そばについていなくても良いということでしょう。ただ、幼さから悩みやストレスを抱えやすい時期でもあるので、いつでも気づいてあげられるように目は離さないということだと思います。

(4)青年は目を離せ、心を離すな
  ……青年と呼ばれる年齢になれば、もはや自立して生活していけると思います。実家暮らしをしないケースも出てくると会話の機会も減るかもしれませんが、心の中では互いを気遣い、必要なときに電話したり会いに行ったりできるような状況を指しているのではないでしょうか。

以上の四訓の解釈の部分は私の個人的な考えによるものなので、親子関係やその他の環境によっても変わってくると思います。また、乳児から青年までの区切りについても、一人一人異なる場合もあれば、内容によって区切りが違ってくる場合もあると思います。今回の記事では、高校生は「少年」に入る部分もありながら(当然「幼児」ではない)、もうすぐ「青年」へと入っていく段階にあるとして考えます。

指導か、過干渉か…

「生徒主体で」と言われるようになって、よく聞くのが「生徒たちだけでなんてできるはずないんだから、裏で大人がしっかり指導してあげないと!」という声と、「失敗するかもしれないけど、生徒がもがきながら納得解を出そうとしてるんだから、まずはやらせてみたらいいのに!」という声です。

例えば、探究型学習をしている中で「外部の方と連携したい!」という話になり、電話で連絡を取ることになったとします。次のうち、どちらを支持しますか?
 ① 事前に教員が電話で内諾をとっておき、その上で生徒から電話させる。
 ② 事前の根回しはせず、最初から生徒に電話させる。

では、実際に電話する場面になりました。次のうち、どちらを支持しますか?
 ① 電話をかける際の言葉遣いなどのマナーを指導しておく。電話で話す内容は原稿として準備させ、事前にチェックを入れる。
 ② 電話のマナーについては全体に軽く注意を促す程度で、事細かには指導しない。話す内容は生徒に任せる。

先生によって、①・②どちらのパターンもあるのではないでしょうか?それぞれ理由もあるので、「①以外はあり得ない!」とか「②しか認めない」というのは少し乱暴な意見だと思います。

①の意見は、相手に対して失礼がないようにという配慮や、生徒自身が何も教えられないままに行動して恥をかいてしまわないようにといった考え方から来るのだと思います。学校ですから、生徒をある程度のところまで引き上げたいという指導責任といったものも感じているのかもしれません。

一方、②の意見は、探究型学習に当たって最低限の知識・技能は身に付けた上での実践になっているはずなので、それを踏まえて生徒から出てきた活動は自由にさせてあげたいということです。相手にうまく伝えきれないことや不十分な点があったとしても、それはやり取りの中で身をもって知ることになります。また、学校を離れれば、公共施設や店の予約などは未成年であっても生徒が日常的に行っていることです。そこまで口出しするのは過干渉ということかもしれません。

ちなみに私の個人的な考えでは、②を支持します。従来の授業であれば、教員がすべてコーディネートして、生徒はそれに乗っかるだけというケースも多かったと思います。現在は、それよりも、生徒から出てくる発想・問いを出発点として学習が進んでいくケースが増えています。そうした学習で、大人の事情を知る我々があまりに干渉してしまうと、せっかく出てきた高校生ならではの視点が薄れ、いつの間にか、その教員の枠を超えない無難なものになってしまいます。多少粗削りでも、多少失敗(学びがあるので正確には失敗でないですが…)しても、自由に突き進んで、その場その場で様々な大人と出会い、その多様な価値観から多くのことを学んでほしいと思っています。

ただ、この「指導」と「過干渉」のバランスは難しく、探究型学習だけでなく、生徒指導やクラス経営、部活動など、場面に応じてうまく判断していく必要があるとは思います。

皆さんの学校では、①・②、どちらが多いでしょうか?
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

高橋 英路(たかはし ひでみち)

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭


クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。

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