2020.05.25
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同じじゃないことと同じこと YouTubeという選択肢

私のテーマは、算数の学習で「見えない同じ」という視点を大切にしていこうというものです。臨時休校という未曽有の状況。初めての転勤と重なって不安に押しつぶされそうになった4月。今回は、予定を変更して、今の思いを伝えます。「同じ」ことに目を向ける大切さを、算数だけでなく一般的に広げて考えてみます。

名古屋市立御器所小学校 教諭 松田 翔伍

同じじゃないこと

大きな不安

初めての転勤をしました。知り合いが一人もいない。子どもたちのことも全く分からない。このような状況での臨時休校の延長……。私は、つながりがないということが原因で、かつてないほど大きな不安に押しつぶされそうになりました。同じような心境の方もたくさんいるでしょう。特に今年度から採用された新任の先生たちは、私よりもっと大きな不安を感じていたことと思います。

さて、私の勤務先では、密を避けるために時間設定に幅をもたせて保護者と子どもたちに来校してもらい、印刷した課題を渡しました。そして、定期的に担任から電話をして、子どもの声をきいて健康観察を行いました。

世の中は情報にあふれています。授業動画の配信やオンライン授業、ビデオアプリによる朝の会など最先端の情報技術を駆使した華々しい取り組みがメディアで取り上げられました。きっと、保護者の方もそのような取り組みを知って、「なぜうちの自治体ではやらないのか?」と感じた方がいらっしゃったと思います。しかし、できていない現状があります。大きな自治体だからか、環境整備にお金も時間も掛かるということなのか……。原因は、私にも分かりません。ただ、私も保護者の方と同じ思いでした。同僚や先生仲間も同じ思いだろうと思います。学習の遅れを取り戻せる時間をどのように確保するのか不安です。自分自身も含めて生活習慣が乱れてしまうのでは、と考えたこともありました。保護者の方も仕事がある。子供だけを家に残さなければならない場合、防犯上も不安ではないか……。電話だけ一方的にしているけれど、顔も分からない私からの電話をどう思っているのだろうか……。

とにかく、これまでと「同じじゃない」のは、私と子どもたち、私と保護者の方たちとのつながりが小さくなってしまったと、私自身が感じているということでした。

じゃあ、同じことは?

オンライン授業や授業動画の配信では、私たちが大切にしてきた子どもたちとの関わりで授業をつくるということが難しいと聞きます。「なぜだろう?」「例えば、こうしてみたら……」「あ!同じだ!」「だったら、次はこうしてみたいな」「もっとやりたい」。生で授業をしていると、聞こえてくる声、あるいは、表情から読み取れる思いです。それらの声をキャッチすることが難しいのです。未曾有の状況だから仕方のないことかもしれません。

しかし、時間のないあまり、効率良くテクニック的な知識を伝達する授業ばかりが、「よい授業」になってしまうのではないかと不安です。このような状況でも、子どもの思考場面を大切にしたり、学ぶ楽しさを伝えたり、はやりの言葉で言えば「学びに向かう力」を伸ばしたりすることを忘れてはいけません。それが、私たちが大切にするべき「同じこと」なのではないでしょうか。とはいえ、この4月は、大切なことを守ることができませんでした。

YouTubeという選択肢 つながる手段 守りたい「同じ」

算数の面白さを伝えたい!

まっつんのMANABI LABO
そんなある日、尊敬する先生がYouTubeに『タッキー先生の「おもしろ算数ゲーム」』というチャンネルで、算数のゲームを投稿しているのを知りました。「これだ!」と、思いました。調べてみると、著作権や肖像権などに気を付ければ、先生がYouTubeに投稿することは問題ありません。また、YouTubeに投稿して活躍している先生もいると知りました。先駆者たちの姿を見て、勇気が湧いてきました。

YouTubeを使って、学ぶ楽しさを少しでも伝えることができるかもしれない。算数の面白さを伝えたい!

奇しくも今はゴールデンウイーク。出掛けることもできない。……作ってみよう。

こうして立ち上げたのが、「まっつんのMANABI LABOまなび らぼ」でした。

動画配信と相性がよい 「つくる算数」

一方通行だけど 届けたい思い

虫食い算をつくろう(まっつんのMANABI LABOより)
教科書の学習は扱いません。そこで授業動画を配信してしまったら、それは公教育の公平性に反します。そこで、投稿してみたのが「虫食い算をつくろう」です。計算ドリルで取り組んだ問題を基に、面白問題を作ることを提案した動画です。仲間たちからは、「よくやってくれた。同じような思いをもつ人は多いけれど、実際に行動に移すことがすごいよ」と励ましの言葉を掛けてもらいました。自宅で運動できるようにと、「お家で物を全力で投げても怒られない方法」なども投稿してみました。趣旨とは違うこの動画が今のところ一番人気です、笑。

やってみて気付いたことですが、動画配信と相性がよいのは「つくる算数」です。「折り紙でサッカーボールをつくろう」「1㎥を作ってみた」「ぴったり重なる2つの図形にわけられるかな?」などの手を使って考えながら取り組む算数です。これらの動画は、問題や教具の作り方を私が説明しています。実際に作ってみることで、図形の見方が豊かになったり、量感を高めたりすることにつながります。

YouTubeは、一方通行です。でも、あの有名なYouTubeです。ほんのちょっとでも、ほっこりしてくれれば、少しだけ思いが届いた気がするのです。 (YouTubeに授業動画を投稿している自治体があることは知っていました。私の自治体も「子ども元気・笑顔プロジェクトちゃんねる」というプロジェクトがあります。しかし、授業動画や学習系のコンテンツを投稿することは趣旨とは異なるとのこと。私は、学ぶきっかけを作りたいという強い思いをもっていたので、そちらには投稿しませんでした。)

同じ思いの大切な仲間たち

ほぼ同時に、勤務先の学校でも動画を作成してYouTubeで配信していくことが決まりました(こちらは、限定公開)。子どもたちに元気を届けたいという思いや、学校には居場所があるというメッセージを届けたいという思いは、みんな同じなのです。その手段が、たまたまYouTubeだったというだけ。私が趣味としてYouTubeの投稿を始めたことで、ハードルが下がったのでしょうか。

アイデアを出す仲間、賛同してタレントとして演じてくれる仲間……。同じ思いを共有できた私の心の中には、不安ではなく、安心感が広がっていました。学校再開へ向けて、カリキュラムの再編成や教材研究、消毒・除菌などの環境整備などで忙しい中、時間を割いて笑顔で取り組む姿を見て、目頭が熱くなったのはここだけの話です。

学校再開 この経験を生かす

この原稿を仕上げているのが、5月14日の夜。私の自治体で、学校再開が早まるかもしれないという情報が入りました。教室で授業ができることを考えると、本当にうれしくて、最初の授業では感動して涙が出てしまうかもしれません。

YouTuberになってみて、動画配信という手法やYouTubeの企画っぽい取り組みのアイデアは、実際の教室でも生かせるのではないかと考えています。例えば、段ボールで作った1㎥を展示してみたり、YouTubeで紹介した算数ゲームをいつでもやれるように掲示してみたり。もちろん、自宅でYouTubeを見られない子でも不公平にならないように、オフラインでミニDVDプレーヤーから動画を流して、ゲームのルールを説明したり……。まだまだアイデアがありますが、実現してから紹介できるようにしたいと思います。

見方・考え方の同じ

子どもたちに身に付けさせたい力は何か?

今回の記事では、状況が変わっても、子どもと接する時に大切にしなければならない「同じ」(=子どもの思考場面を大切に。学びに向かう力を伸ばすことを大切に。)について考えました。私のテーマに話を戻します。私はこれまで、一つの教材に含まれる「見えない同じ」に着目して授業をつくる良さを提案してきました。

「見えない同じ」は、状況が変わった時に、今と過去を比べることで見えるようになってくることがあります。見方・考え方の同じです。今回は、算数に限らず、「未来を生きる子どもたちに身に付けさせたい力は何か」に着目すれば、大切にしなければならない価値観が見えてくるということをお伝えしてきました。

次回は、算数の学習において「見方・考え方の見えない同じ」を発見した子どもたちとの話を書きたいと思います。

学校が再開し、少しでも早く元気な声が教室に戻ってくることを信じて。

松田 翔伍(まつだ しょうご)

名古屋市立御器所小学校 教諭
すべての子が考える楽しさを味わえる算数学習を目指し、面白い問題の開発や指導法、子どもとの関わり方について毎日考えています。「できる」「分かる」だけではない、「楽しい」算数授業について私と一緒に考えてみませんか?未来を生きる子どもたちの笑顔のために。

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