2020.03.05
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担任ができる「吃音のある子」への支援

今回の記事では、担任ができる吃音のある子供達への支援についてまとめました。ちょっとした担任の工夫が、吃音のある子供の大きな支えとなります。もしクラスに吃音のある子がいましたら、ぜひご一読ください。

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士 髙橋 三郎

吃音のある子供の数は少なくない。

吃音は言葉を繰り返したり引き伸ばしたり詰まらせたりする言語の障害です。吃音のある子供は、学齢期であれば、およそ100人に1人程度いると言われています(幼児期はもう少し高いです)。300人程度のあまり規模の大きくない学校でも3人程度はいる計算になります。意外と多いですよね。

吃音に悩む子供達はたくさんいる。

「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」という漫画をご存知ですか。吃音のある高校生の女の子が主人公の漫画で、一昨年、映画にもなりました

吃音のある主人公の志乃ちゃんは高校一年生。高校の入学式の前日に、自宅で自分の名前を言う練習を何度も繰り返しするシーンから物語は始まります。吃音の無い人たちにとって、自分の名前を言うことはとても自然で簡単なことです。しかし、志乃ちゃんは入学式の日の自己紹介のために必死です。事実、自分の名前を言えないと悩む吃音のある子供達はたくさんいます。

私が以前担当した子で、七夕の短冊に「吃音が治りますように」と書いた子がいました。また、「なんで私だけ吃音なの?」と大泣きした子もいました。
また、仕事柄、吃音のある成人の方にお会いすることも多いのですが、十代の頃、吃音に悩んでいました、という方や、今も苦労しています、という方によく出会います。その中には、学生時代に不登校を経験された方もいました。

吃音のある子供達は、成長過程の中で、吃音に対するからかいを受けたり、周囲に笑われたり……という経験を数多くします。そういった経験を積み重ねる中で、吃音のある子供達は、他者とのコミュニケーションに不安を感じたり発話すること自体を避けようとしたりするようになります。前述の志乃ちゃんも、クラスメートとのコミュニケーションに苦手意識を持っており、友達が欲しいという強い気持ちがあるにも関わらず、友達の輪の中に入ることができませんでした。

担任ができることは、たくさんある。

担任の中には「自分たちは吃音のプロフェッショナルでは無いから、何もできることは無い」と思われる方もいるかもしれません。しかし、そんなことはありません。むしろ、吃音のある子供達の一番傍にいる担任こそ、吃音のある子供達に対して重要な支援を行うことができます。具体的には、以下のような支援が挙げられます。

(1)からかいが生じない学級環境作りをする。

まずは、からかいが生じない学級環境作りを行うことが大切です。からかいを発見した時には、基本的には、他のからかいや悪口を発見した時と同じように対応して大丈夫です。ただし、吃音のことをよく知らずに、吃音のことをからかっている子供もいますので、そういう場合には「わざとそのような話し方をしている訳ではないこと」「ついそうなってしまうものであり、自分の努力ではどうしようもないこと」などを合わせて丁寧に説明することも大切です。からかいが繰り返されるようでしたら、毅然とした態度での指導が必要なことは言うまでもありません。

(2)「どもらなかったこと」を評価するのではなく、「発表の内容」を評価する。

吃音があると、どうしても「吃音が出たか、出なかったか」ばかりに注意が向きがちです。しかし、「うまく話せたね」「今回は言葉が詰まらなかったね」という声かけでは、どもった話し方はダメという子供の気持ちを助長してしまうかもしれません。そうではなく、「今回の発表、こんなところに着目したのがすごくよかったね」などと、話の内容のほうを評価するようにしてください。

(3)音読は斉読にする。

吃音のある子は、クラスの音読に苦手意識を持ちやすい傾向にあります。斉読であれば、吃音は生じにくいため、クラスでの音読はクラス全体で一斉に声を出すという形で行うというのも効果的です。

おわりに ~ことばの教室の連携を~

上に挙げた以外にも、吃音のある子に対する支援の方法はたくさんあります。もし、クラスに吃音のある子供がいて、その子がことばの教室に通っているのであれば、ことばの教室の担当に有効な手立てについて相談しても良いです。

髙橋 三郎(たかはし さぶろう)

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士
大学院で博士号を取得し、現在はことばの教室で子供達と向き合う日々を過ごしています。言語障害や発達障害に関する知見や指導方法を様々な先生方と共有できたらと思います。

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