2020.02.26
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教育支援連携で、子供達を応援しよう!

子供達にとって、本当に必要な「自立」とは何なのでしょうか?皆さんは、考えたことがありますか?

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子

「自立」とは自己実現力があること

「言われなくても、自分で何でもできる子にしなければ。ちゃんと自立させなければ」と、我が子に対しては私もそう思っていました。子供にとって、本当に必要な「自立」とは何なのでしょうか?皆さんは、考えたことがありますか?

私がその時、漠然と思っていた「自立」とはこういうことです。朝はタイマーをセットして自分で起きて、言われなくても自分で顔を洗って、食事をしたら自分で歯を磨き、自分で着替えて、自分で学校の支度をして……。帰ってきたら自分でうがいと手洗いをして、遊ぶ前に自分で進んで宿題をやり始め、次の日の支度も自分でして、遊んだら自分で道具を片づける、整理整頓がバッチリできる……。いちいち言われなくても、こういった生活習慣的なことが自分でできる。これが子供にとっての「自立」だと思っていました。

しかし、これはむしろ、親である私が、子供にやらせたいことをやってくれる子供の姿に過ぎなかったのです。もちろん、こういった生活習慣的な身辺自立はできたほうがいいです。できるにこしたことはありません。でも実は、これらのことは、その時にできないことがあっても、それほど心配することではなかったのです。なぜなら、これらのことは、本人がその気になれば一瞬にしてできることがあるからです。

そこで「自立」について考えていくと、子供達に必要な「自立」とは、自分がやりたいことを、自分で見つけて、自分でどんどんやっていくということ、つまり、自己実現力ではないかと思うようになったのです。親や先生がやって欲しいことではありません。

自分の人生を自分で展開できる人・・・これが、自立している人です。
自立している人、つまり自己実現力がある人は、同時に自己肯定感も高いので、「これをやりたい。自分ならできるはずだ」となり、自分で決めた目標や夢に向かって努力します。するとその途中で、苦手だったこともだんだんできるようになることが多いのです。大人も子供も同じです。

次のようなエピソードがあります。

小学部低学年のAさんは、上着のトレーナーやTシャツの前後・表裏を、大抵間違って着替えていました。そこで先生はどうしたらAさんがどうしたら間違わずに一人で着ることができるか試行錯誤しました。そして、「Aさん、洗濯マーク表示が左にくることを確かめてから着てごらん」と指導します。左手で洗濯マーク表示を握らせたり、写真を貼って一緒に確認したり・・・この指導が3カ月続き、正答率は5割になりました。「まだAさんは難しいかな」と思いかけていた頃、Aさんが「見て見て!」と嬉しそうに更衣室から出てきました。なんと一人で間違えなく着替えられているのです。次の日もその次の日も「先生、見て見て!」と更衣室から出てくるAさんは、その後間違えなく着替えられるようになりました。なぜか?それは、TシャツやトレーナーがAさんの好きなキャラクターがプリントされているものに変わったからです。Aさんは好きなキャラクターを「見て見て!」と言っていたのです。そして、それを着ることが嬉しくて見せたくて、結果的に前後・表裏を間違えずに一人で着られるようになったのです。
このように、親や先生がいくら指導してもできなかったことが、本人がその気になれば、一瞬にしてできるようになることがあるのです。

教育支援連携で、子供達を応援しよう!

では、どうしたらこのような自己実現力がついて、本当の「自立」ができるようになるのでしょうか?
そのためには、子供がやりたがることをやらせてあげるのが一番です。そして、さらに深められるように応援することが大事です。

Bさんはブロック遊びが好きで、お母さんは、まずブロックを買い足して数を増やしました。それから、作品ができたら子供の説明をしっかり聞くようにして、がんばりや工夫をほめました。作品を玄関に飾ってみたら、Bさんは大喜びしました。それを見てお父さんがほめました。作品をバラバラにする前に、写真を撮って「デジタル連絡帳」に写真を添付して学校に送りました。学校では、Bさんが「デジタル連絡帳」を見ながらブロックの説明をすると、クラスの友達や先生方が「すごい!」と言って大拍手しました。更におじいちゃんやおばあちゃんにも写真を送ると、「がんばったねー」と喜んでもらえました。その後、Bさんは作った作品をインスタグラムに投稿するようになりました。すると、多くの人から「いいね!」がつくようになりました。

これは一つの例ですが、誰かが応援してくれると、子供は好きなことをどんどん深めていくことができます。すると、「自分はこれが得意だ!」と思えるので、自信がついて自己肯定感が高まります。一つの事がそうなると、他のことでも「できる!」と思えるようになります。同時に、自分がやりたいことを自分で見つけて、どんどんやっていく自己実現の喜びを味わうことができます。こういう経験をたくさんすることで、自己実現力がつき、「自立」できるようになります。

私達は、子供の気持ちに寄り添い、子供が優れたところを発揮できるように、子供の情報を共有して、環境を整える・・・・こうすれば、よい循環が始まります。

OECD Education 2030 プロジェクトでは、Student Agency という概念が鍵となり、それは「学習者が自ら考え、主体的に行動し、責任をもってより良い未来の創造に向けた変革を実現していく力」の育成を指しています。これはまさに「自立」です。
更にここで共有しているビジョンは、「私たちには、全ての学習者が、一人の人間として全人的に成長し、その潜在能力を引き出し、個人、コミュニティ、そして地球のウェルビーイングの上に築かれる、私たちの未来の形成に携わっていくことができるように支えていく責務がある」と示されています。これはまさに「教育支援連携」です。
おおらかな気持ちで子供達を見守り、応援していきましょう!
子供達の喜びを自分自身の喜びとして分かち合えたなら、私達、教育支援者もきっと幸せになると思います。まさに、教え教えられ育ち育てられ共に生きる「教育共生」です。
さぁ今日も、子供達の「自立」と「社会参画」のために、明るく強く楽しく教育支援連携をしていきましょう!

中川 宣子(なかがわ のりこ)

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!

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