2020.01.27
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通級指導で語彙を増やす具体的な取り組み

今回は私が実際にことばの教室で行っている語彙指導の具体例をご紹介します。ことばの教室での取り組みですが、ことばの教室以外でも扱える内容だと思います。

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士 髙橋 三郎

前回のおさらい

前回の記事では、ことばの意味と記憶に関するモデルを紹介しました。このモデルでは言葉の意味をノード、言葉の意味と意味を繋ぐ関係をリンクと呼び、言葉の意味は蜘蛛の巣のようにネットワークを形成しています。そして、このモデルを踏まえると語彙指導には二つの方向性(ノードを増やす、リンクを増やす)があるのでは、という話をしました。今回はこの方向性に基づいて語彙を増やす具体的な取り組みをご紹介します。もちろん、ノードを増やす指導とリンクを増やす指導を厳密に区別することはできず、どの指導も両方に関わるものですが、「どちらかといえば……」ということでご容赦ください。

どちらかと言えば「ノードを増やす(新しい語を覚える)」に繋がる指導

(1)絵本の読み聞かせ

一般的に行われていることですが、絵本(や物語文)の読み聞かせはノードを増やすにことに繋がる指導だと思います。ただし、その際には、児童の興味や関心に沿ったものであることが好ましいです。また、絵本も漫然と選ぶのではなく、覚えさせたいターゲットとなる言葉を明確にし、その上で絵本を選ぶことが大切です。

(2)知らない語での文作り

児童が知らない言葉をタブレットなどで視覚的に示します(私はgoogleの画像検索を使います)。児童に語の意味を十分に理解した上で文作りを3つほどさせます。たとえば、「白衣」という語を知らない児童に対しては、給食の白衣の画像を見せ、その上で「給食の時に白衣を着る」「白衣は白い」「給食当番が白衣を着る」などといった文作りをし、その言葉の意味を理解させます。

教える語は、日常生活や学校生活で使うことの多いものから選びます。また、深谷式学年別必修基本語7700「にほんごを使いこなすことばプリント」(小学館)の言葉の中から選んでもよいです。1~2年生用ですが、中学年の指導でも有効活用できます。

どちらかと言えば「リンクを増やす(言葉同士の関係の関連性を理解する)」に繋がる指導

(1)上位語、下位語の学習

上位語(乗り物)から下位語(バス、船、飛行機…)を想起したり、その逆を行うことで上位語と下位語の関係を促します。複数の言葉の中から仲間外れを探す課題を行うことで上位語、下位語の理解を促すのも良いですね(例:りんご、バナナ、みかん、キャベツからキャベツを選ぶ)。その際には、なぜそれが仲間外れなのかを尋ねると、より効果的な指導に繋がります(例:なんで仲間外れなの?→野菜だから、一つだけ果物じゃないから)。

(2)「ことばのネットワーク」プリント

葛西ことばのテーブルから出ている「ことばのネットワーク」は言葉と言葉の関係性の理解に非常に有効です。多くの量のプリントから構成されており、私も使用しています。

(3)ことばの蜘蛛の巣作り

イラスト:髙橋 三郎

最初に、ホワイトボードにお題を書きます(たべもの)。その後に、児童と指導者で関係する言葉を書き加えて、言葉の蜘蛛の巣を繋げていきます。制限時間内で「〇個書けたらクリア」と目標を決めて、取り組んでも楽しいです。

まとめ ~定着のために必ず宿題を~

「一度教えたのに、すぐに忘れてしまう」そういったことが起こらないように、宿題を必ず出し、定着を促すことが大切です。宿題用に新しいプリントを作る必要はありません。そうではなく、指導で取り上げたのとまったく同じプリント(教材)を渡して、家で同じように取り組んでもらうようにしましょう。何事もコツコツが大切です。

髙橋 三郎(たかはし さぶろう)

福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士
大学院で博士号を取得し、現在はことばの教室で子供達と向き合う日々を過ごしています。言語障害や発達障害に関する知見や指導方法を様々な先生方と共有できたらと思います。

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