2019.11.20
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中国を訪れて考えたこと

仕事で中国に行ってきました。生まれて初めての中国です。

行く前は、いろいろ想像していました。実際に中国を訪れるまでは。でも本当の中国は、それとは全く似ても似つかぬものでした。

何よりの大きな収穫は、今まさに発展しつつある空気を浴びて育っている中国の方々の「人にみなぎるエネルギー」を肌で感じてきたことでした。

札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授 荒木 奈美

主体的な学びに必要なのは、学びたくなる空気がそこにあること

仕事で中国に行ってきました。生まれて初めての中国です。

行く前は、いろいろ想像していました。
大学時代(もうかれこれ30年前!)、友人が貧乏旅行で中国に行って帰ってきて面白おかしく大学新聞に書いた記事を読み、「私は一生行くことないな」と思っていました。

LINEもInstagramもTwitterも使えない、いつでも監視されていることに慣らされた窮屈な国。勤勉を強制し、ヒエラルキー型教育に甘んじていて、自由な発想なんてかけらもない。人がたくさんいて、自転車がいっぱい走っていて、いつでも騒がしくて落ち着かなくて、とにかく行きたくない国。行っても仕方のない国。

なんて失礼な……
だけどリアルにそんなふうに思っていたと思います。実際に中国を訪れるまでは。

でも本当の中国は、それとは全く似ても似つかぬものでした。

何よりの大きな収穫は、今まさに発展しつつある空気を浴びて育っている中国の方々の「人にみなぎるエネルギー」を肌で感じてきたことでした。

今回私が出会った人々の心は大方開かれていて、進歩的な空気が漂い前へ前へとグイグイ引っ張っていくその姿に言葉にしがたいエネルギーを感じたとか、長年積み重ねた知識と教養の滲み出る方たちとのやりとりには底しれぬパワーをいただいたとか、とにかく今の日本ではなかなか得られないものを得て帰ってきたという思いに浸っています。

私が訪れたのは北部の大慶(黒竜江省)と青島(山東省)、そして大連でした。もちろん中国は広いですし、私が出会ったのはそのほんの一握りの方と地域にすぎないのですが、私の今回の訪問は、あたかも日本の経済成長真っ盛りの昭和へのタイムトラベルだったようにも思えてきます。

街を見渡せば、建設途中の大きなビルが至るところにありました。

——これからここはどんどん発展していくのだと思わせる空気の中で育ったら、きっと人はその先に未来しか見ないのかもしれないな。きっと私の父母が若かりし頃、日本はそんな街がたくさんあっただろうな。

日曜日の大学は、日曜日なのにたくさんの学生が訪れていて、みんな熱心に勉学に励んでいました。
——日々目まぐるしく更新し続ける場所で勉強していたら、「自分だけは遅れたくないって自然な気持ちで思うのかもしれない。そして必死で勉強したくなるのかもしれない。勉強したことがそのまま明日の社会に繋がっていく、そんな実感を持てる環境——今の日本の大学のどこにあるだろうか。

つくづく生きる環境って大事だなって思いました。

中国はすでに電子マネーが露店にも浸透し、間違いなく日本よりも進んでいます。私は電子マネーに疎いから、自販機でジュースすら買えなかった……
語学力を味方につけてどんどん社会に出て行こうという気概が全体に漲っているし、自国の国際化を応援する国の政策も進んでいるからなのか、中国の大学にはたくさんの外国人が行き来していました(これから発展する国の留学生は、中国の学費でただで留学できるシステムが整っているとのことでした)。私は英語も中国語も話せなくて、その劣等感からか日本語までおかしくなってしまって、完全に置いてきぼりを食らった挫折感に満ち満ちて帰ってきました……

この気持ちを忘れないうちにまずはこの空気感を大学生に伝えて、今度は学生たちにもこの経験をしてほしいと思っています。

それにしてもやっぱり、「大学時代に学外に出てもっといろいろ経験しておいで」っていう言葉は、今まさに自分が体験している、この感覚があればこそのものなのだと改めて思いました。

アクティブ・ラーニングを学生に推奨する立場にある自分こそが何よりもアクティブ全開でいようと深く心に刻んだ、貴重な経験となりました。

荒木 奈美(あらき なみ)

札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授
高校で12年間、大学で8年半、たくさんの高校生や大学生と主に文学作品を通じて関わってきました。自分の好きな漫画やアニメやゲーム、アーティストについて語るとき、彼らは本当に顔を輝かせて熱心に語ってくれます。自分の「好き」を極めたいと思うことは学びの原点。高校生や大学生の「学ぶ意欲」を引き出すために私たち教師ができることは何だろう。「主体的に学ぶ」学習者を育てるための教育のあり方について、今日も実践を通じて、探究を続けています。

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