2018.01.16
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

留学生と保育園児の交流

保育園の冬の行事に、留学生が参加。
いっしょにお餅つきを体験したり、サッカーをしたりして楽しみました。

近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子

■留学生×保育園児という組み合わせ

留学生は、大学の中でそのほとんどを過ごしますが
よく考えると大学はかなり特殊な世界です。
同じような年齢の人たち、同じ専門領域に関心を持つ人たち
服装や話題がある程度共通している人たちの集まりです。
留学生を見ると「あっ、海外からの学生だ。きっと
普通に日本語を話したらわからないだろう。少しゆっくり目に
しゃべろう」などと忖度(!)してくれる人たちに囲まれています。

でも実際の社会はそうではないし
できればいろんな場所で、いろんな人たちに出会って
いろんな日本を感じてほしいと思っています。

私が「留学生と保育園児の交流」に関わって
15年になります。毎年、クリスマスや節分、お正月などの
保育園の行事に、留学生も参加して、園児と交流するという
プログラムです。
なぜ保育園?と思われるかもしれませんが
保育園児には、なんの先入観もなく、それこそ外国人だからと言って
遠慮も気遣いもありません。
思ったまま、感じたまま留学生と向き合ってくれるからです。

園児が、幼少期から多様な人々と接触することによって
「世の中にはいろんな人がいるんだなあ」と感じてくれればOK。
においやことば、洋服や宗教(ハラール食の留学生もいます)の違いを
当たり前のように受け入れてほしいと思っています。
留学生には、日本の子どもたちと触れ合ってほしいし、
保育園の「子どもを育てる」環境を見てほしいです。
後述しますが、日本の保育園はほとんどの留学生には
衝撃的な場所なんです!

■お餅つき交流

今年は、12月末に「お餅つき」イベントに参加しました。
こちらの留学生は7名
マレーシア、中国、ベトナム、トルコ、インドネシア、オーストラリアの学生です。

入り口で、園児が作ってくれたお手製の
ネームカードをもらって、少し照れながら
「ありがとうございます」とにっこり。

「ようこそ、留学生の皆さん」と書かれた
大きなポスターには、留学生の国旗がずらりと
書かれていて、その熱い歓迎が伝わってきます。

もちろん、留学生はお餅つきは初めて。
本格的な杵と臼に驚きながらも、園児と一緒に
「よいしょ、よいしょ」
「ペッタン、ぺッタン」と声をそろえてお餅をつきます。

後で聞いたら、留学生たちは、「よいしょ」は「よーい、シャウト!」と
「ぺったん」は「べった!」と思って叫んでいたらしい(笑)です。
まあ、それもよしですね。

「(お餅つきの様子を)見ていたら、簡単そうなのに、実際やってみたら
きねが重くて、まっすぐおりない(おろせない)」、
「むずかしい!」
「楽しい」などと感想が聞かれるなか
マレーシアの学生から「どの家もお正月の準備の為に
こんなことをしているんですか」と質問がありました。
そうですね、
お餅つきは、「真空パックのお餅を買う」に代わってしまいましたね。
それにお雑煮も食べない若者も多いとか。
伝統が受け継がれていないことに気づかされました。
今や、お餅つきは、特別なイベントに昇格しています。

そのあとお餅を丸めて、給食のお雑煮としていただきました。
「おいしい!」
「初めて食べました」
「微妙な(!)味です」

■園児の自立した姿に驚き!

保育園は「生活」の場です。
園児は、自分たちでお箸とコップを用意し、小さなお椀を持って
配膳台に並びます。手を洗い、一斉に食べる姿や
おかわりに並ぶ姿、テーブルを拭いたり、友達の
こぼしたものを拾ってあげたりする姿
何より、お椀のなかの食べ物を1つも残さないように一生けんめい
食べる姿を見て
留学生からは感嘆の声が!!
「信じられない」
「マナーがよすぎます」
「私の国では小学生もこんなことはしない」などなど。


さらに彼らを驚かせたのは
その後のお昼寝でした。食事が終わった園児が
歯を磨き、服を着替えて(おもしろいことに
毎年、この着替えに手を貸そうと走っていく学生がいます。
園児に「自分でやるし」と冷たく言われてがっくり)
布団を敷き、さっさと昼寝をするのを見て
「これが日本の教育か」としみじみ。

■子どもに戻りたくなった

帰りの電車の中で
「あー、なんか子どもに帰りたくなったなあ」と言った
トルコの学生の笑顔が印象的でした。
異国に来て、必死に外国語を習得し、アルバイトで疲れ
取得単位を計算する日々。
童心に帰った1日でした。

このような交流は、決して目に見える形でその
成果は現れません。でもきっと、園児たちにも留学生たちにも
何か「目に見えないほわんとしたもの」が残るはず。
園児たちが、小学校で社会の本の中に「マレーシア」という文字を
見つけた時、「あ、保育園でスカーフを被ったマレーシアの女の人と
いっしょにお雑煮を食べたなあ」と思い出してくれればいいし、
オーストラリアの学生に「apple」と言って通じた嬉しさが英語学習に
結びつけばいい。
何より、目の色や顔の形、髪の色や話す言葉が違う人たちと
当たり前のように話したり、サッカーをしたりした経験が
彼らの一部となって、将来何かを決定するときのプラス要因になればいいなと
思います。
例えば、一部の外国人排除などに対して違和感を当たり前のように抱く、とか。

留学生も、大学じゃない場所での新しい体験は
新鮮で、驚きで、刺激的だったことでしょう。
いつかお父さん、お母さんになったとき、我が子の向こうに
日本の園児たちの子どもが見えるかもしれませんね。


そんな思いで始めてあっという間に15年です。
小学校や中学校にも行ってみたいと思っています!
今年1年も素晴らしい経験がいっぱいできますように。

高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop