2019.10.28
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教育支援連携で「教育共生」

3年越しで育ったシイタケ。時間と手間をかけた分、育ちは嬉しい。子供達の育ちは、共に支援をした分、嬉しさ倍増。

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子

皆の共通の願い

色々な教育事件が後を絶たず、他人事ではないと心痛みます。学校は子供達のためにあり、私達教師は子供達の自立と社会参画を目指し、子供達の成長発達を教育支援する為にあるということを強く感じています。

子供達一人一人が、今日と明日を明るく楽しく過ごせるように!このことは学校もご家族も地域も、皆の共通の願いです。この願いを象徴するエピソードが「デジタル連絡帳」に届きました。

エピソード「一人下校」

小学部のAさんは電車通学をしています。登下校にはご家族の方がAさんに付き添い、家とスクールバス停車駅間の送迎をされています。
高学年になると、自立と社会参画を目指した取組の一つとして「一人下校」という学習に多くの子供達がチャレンジします。これは、下校時、スクールバスの停車駅から自宅までを、子供が一人で帰るという学習です。

「一人下校」は、昨日今日の一足飛びでできることではありません。最初は、解散場所から一人で駅の改札口に向かう練習、その次は一人でICカード等を使って改札口を通る練習、次はホームまで階段を一人で降りる練習、そして次はホームの決まった位置で電車を待つ練習、電車に一人で乗る練習、電車の中でマナーを守る練習、自宅の最寄駅で降りる練習、駅から家まで安全に気をつけて歩く練習等々。

一言で「一人下校」と言っても、幾つものスモールステップがあり、これらの一つ一つをご家族が中心となって子供と共にチャレンジしていきます。

大切なのは、子供自身がこれら一つ一つのチャレンジを負担や不安に思わないように支援すること、つまり「できた!やったね!」を積み重ね、安心して自信をつけながら次のステップへ進めていくことです。
支援の中には、ご家族が駅の柱の影に隠れて見守る事もあります。同じステップを3カ月続けることもあります。どれも、とても気の長~い支援あっての学習です。

Aさんも高学年になった今年から、「一人下校」にチャレンジしてきました。順調にステップは進み、Aさんは解散場所から乗車する電車のホームまで一人で行けるようになりました。そしていよいよ、一人で乗車する練習が始まり、まず乗車位置を確認しました。

いろいろな状況を考え、たとえ誤って違う電車に乗ったとしても、すぐに安全確認、対応ができるようにと、乗車位置は先頭車両、車掌さんの近くにしようと決めました。

早速、ホームの先頭にAさんを連れていきます。ところがAさんは強い意志で3両目に乗りたがりました。Aさんがなぜ3両目を好むのか、その理由を知ることができないまま、何とか先頭車両に乗せますが、動く電車の中でAさんは3両目まで移動してしまいます。

動く電車の中での移動は危険です。私達は悩みました。安全確認ができる先頭車両に乗車するか、それともAさんが好む3両目に乗車することをよしとするか。

悩んだ挙句、Aさんのご家族は、先頭車両に乗車することをAさんが時間をかけて学習すること、その学習のために支援することを選択しました。次の日、Aさんはお母さんと一緒に先頭車両に乗りました。そして座席に座りました。その時です。次のようなエピソードが起こりました。以下、お母さんの「デジタル連絡帳」からです。

・・・・・駅で通過の電車を待つ間、車掌さんの様子を見ていると、Aが「こんにちは!」と車掌さんにご挨拶しました。すると車掌さんも「こんにちは」と返してくださり、それがきっかけとなって、今「一人下校」を練習中だという事を話しました。すると車掌さんはAに向かって「練習頑張ってね。1人でできるようになるよ」と言いながら、車掌さんの帽子をAにカポッと被せてくださいました(Aさんが車掌さんの帽子を被っている写真が添付されていました)。Aも私もびっくりして、喜びました。その後、電車は発車し、自宅の最寄駅で下車する時に、軽く会釈をすると、車掌さんは警笛を可愛く鳴らして行かれました。
・・・・・(Aさんの「デジタル連絡帳」より)

教育共生

Aさんやご家族は、車掌さんの言動によって、どれだけ励まされたことでしょう。きっとまた、「明日も頑張ってみよう!」と思ったに違いありません。

学校・家庭・地域の共通の願いは、子供達一人一人が、今日と明日を明るく楽しく過ごせるように!です。Aさんの「こんにちは!」の一言の発信とご家族の日々の頑張りが、車掌さんの心を動かしたこのエピソードはまさに、「教育共生」共に教え合い、共に育ち合い、共に生きる姿でした。

学校は子供達のためにあります。一つ一つの働きが、子供達のためになるかどうかで判断され、行動に繋がらなくてはいけません。子供達一人一人が、今日と明日を明るく楽しく過ごせるように!・・・このことは、学校もご家族も地域も、皆の共通の願いです。

これからも、子供達を中心にした学校・家庭・地域が繋がる教育支援連携の実践を、明るく強く楽しく、共にし続けていきましょう!(^-^)!

中川 宣子(なかがわ のりこ)

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!

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