2019.07.02
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教育支援連携で、コミュニケーション能力の見える化!

子供達のコミュニケーション能力とは?「デジタル連絡帳アプリ」で見える化できました。

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子

新学習指導要領の願い

2020年度から始まる学習指導要領には、「学校で学んだことが、子供たちの『生きる力』となって、明日に、そしてその先の人生につながってほしい、これからの社会が、どんなに変化して予測困難な時代になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。そして、明るい未来を、共に創っていきたい。」という願いが込められていることが示されています。
子供達の「生きる力」とは?これからの時代にどんな力が必要か?そのための教育支援は何ができるのか?といった話題は尽きませんが、その中の一つとして、「コミュニケーション能力」に関するエピソードに着目してみましょう。

コミュニケーション能力とは?

まず、「コミュニケーション能力」については様々な定義がありますが、文部科学省の有識者会議においては、次のように定義されています。「いろいろな価値観や背景をもつ人々による集団において、相互関係を深め、共感しながら、人間関係やチームワークを形成し、正解のない課題や経験したことのない問題について、対話をして情報を共有し、自ら深く考え、相互に考えを伝え、深め合いつつ、合意形成・課題解決する能力※」です。

※平成28年実施の『教育課程部会 言語能力の向上に関する特別チーム(第3回)配付資料5 言語能力について(整理メモ)』より引用

「デジタル連絡帳アプリ」活用エピソード

私は特別支援学校(知的)に勤務しており、一般的にはコミュニケーション能力に障害があるといわれる子供達の教育支援に携わっています。しかし子供達と接する中で、彼らは本当にコミュニケーション能力に障害があるのか?と思うようになりました。それは「デジタル連絡帳アプリ」というICTをコミュニケーションツールとして活用したエピソードからです。
まず少し次のような日常の場面をイメージしてみてください。
子供が学校から帰ってきました。家族であるあなたは、子供に声を掛けます。「〇〇ちゃん、お帰りなさい」そして次に、あなたは子供に何を話しかけますか?いかがでしょうか?多くは「今日、学校はどうやった?何をしたの?」ではないでしょうか。
教師も同様です。朝登校してきた子供に「おはよう。昨日はどうやった?何をしていた?」と問いかけることが多くあるのではないでしょうか。
そうです。家庭でも学校でも、子供とコミュニケーションをする時、「今日(昨日)、子供が何をしたのか?」について話題にすることが多いはずです。
普通なら、「今日なぁ、体育でプールに入ったわ。いっぱい遊んで気持ちよかったわ」とか、「昨日、家族でバーベキューした。楽しかった」等、答えることでしょう。ところが特別支援学校の子供は、その問いかけになかなか答えてくれない。そもそも何を尋ねられているかがわからなくて黙っている子供もいれば、「何したの?」と尋ねた言葉をオウム返しする子供もいる。しばらく考えて「うーん、わからない」と首をかしげる子供もいれば、「〇△□※・・・」と答えてくれる子供もいますが何を言っているのかがわからない。そう、この子供達はコミュニケーション能力に障害があるから、「何をしたの?」と尋ねても、上手く答えられない。このコミュニケーションが毎日続くとそのうち、聞いても仕方がないと思えてくる・・・多くの人がそうであろうし、かつての私もそうでした。
ところが、「デジタル連絡帳アプリ」を活用することで、子供達のコミュニケーション能力は明らかになります。「デジタル連絡帳アプリ」についてはこれまでの「学びの場.com」で何度も触れていますが、子どもの学習情報を写真や動画、文字によって、リアルタイムに家庭と学校とで情報共有することができるツールです。
では「デジタル連絡帳アプリ」を活用した場合、最初にイメージした場面を思い返してみましょう。まず子供が家庭に帰ってくる頃、学校から「デジタル連絡帳アプリ」で、今日の学習情報(写真や文字)が届きます。家庭ではスマホやタブレット、PCで学習情報をキャッチすることができます。「〇〇ちゃん、お帰りなさい。今日プール入ったでしょう。これ(写真)」子どもは写真を覗き込みます。そして、頷いたり、指差したり、「〇△□※・・・」と話し出したり、身振り手振りで伝えようとしたりします。「そう、楽しかったんだね。よかったねぇ」子供は頷いて満足そうです。これはまさに、子供と家族が共感した瞬間です。
学校ではどうでしょう。子供達をTVの前に集合し、家庭から届いた子供の昨日の様子をTV画面に映します。「○○さんは、昨日(バーベキューをしている写真)、家族でバーベキューをしました」子供達はTV画面に集中です。「わー」「いいなぁー」自分の写真がTVに映った子供は立ち上がり、TV画面を指差します。「これ!」「〇△□※・・・」「(バーベキュー)した」子供の表現の仕方は一人一人違いますが、そこにいる皆が「バーベキューをしたんだ。楽しかったんだな」ということを理解できます。これはまさに、子供と子供、子供と教師が共感した瞬間です。

コミュニケーション能力の見える化

初めに示したコミュニケーション能力の定義を思い出してください。「相互関係を深め、共感しながら、人間関係やチームワークを形成し」「対話をして情報を共有し、自ら深く考え、相互に考えを伝え、深め合いつつ、合意形成・課題解決する能力」だとすれば、上記のエピソードはまさに、子供達がコミュニケーション能力を発揮した学習場面であるといえるでしょう。「デジタル連絡帳アプリ」というツールがあることで、子供達のコミュニケーション能力の見える化ができたのです。

教育支援連携で、明るい未来を!

私は、子供達には「生きる力」があると考えています。「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現する力」が、一人一人の子供に備わっていると考えています。しかしそのことが、社会の中で、或いは子供自身も、気づかずに発見できないまま、ある時は障害として、評価してしまっているのではないかと思うのです。
子供達の力を発見し育むためには、明るい未来を共に創っていきたいと願う、私達の教育支援連携が必要です。
さぁ一緒に、今日も、明るく強く楽しく、教育支援連携をしていきましょう!(^^)!

中川 宣子(なかがわ のりこ)

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!

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