2019.05.31
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ベトナムで考えたこと(第2回)

共に生きる国際理解教育の一環として世界を見ておきたい。そして,どのような海外経験をすることで「教師」として成長することができるのか。単なる観光で終わらせないために,子どもたちに伝えられることを探してこよう!そんな思いをベトナムに持っていきました。暑い環境で暑いと文句を言わない人たち・理念をもって取り組む人たちに出会い何か大きなものを持ち帰ってきたことは確かです。でも言葉にするのが難しい。

兵庫県立兵庫工業高等学校 学校心理士 教諭 藤井 三和子

ベトナムの教育事情

市民の足となっているバイク便

ベトナムでは,1998年に初めて「教育法」が制定されて,2005年には改正が行われ,9年間の義務教育が行われています。

小学校5年・中学校4年・高校3年の学校制度であると聞きました。しかし,省や地域によって若干の違いがあるかもしれません。

小学校から高校まで,ホーチミン市とベンチェ省に視察に行ったので,そこで見てきたことでの報告になります。海外の情報というのは,その当人が,行った時期や見たこと・聞いたことに左右されます。事実ではあっても,時期や場所が違えば変化することもありますので,ご了承のうえ読んでいただければと思います。

ベトナムあるある

2015年9月にもベトナムを訪問していたのですが,わずか4年余りで,目に見えて国の成長度合いがわかりました。

その1:AEONが至る所に進出。そうです,あのイオンです。2015年当時もありましたが,商品の充実度が上がっています。

その2:外資系のショップが多く進出。化粧品からスポーツ,衣料関係までそろっており,ピカピカキラキラのショーウインドーがあるのですが,側面の数メートルは,昔ながらのベトナムの住居であったりします。

その3:地震がないといわれており,建物の屋上にはなぜか,オープンスペースの空間が庭園のように造られています。

その4:ICTの導入が進んでおり,Wi-Fiは店舗だけでなくタクシーにもついています。通りの広告も電子版で夜はキラキラしています。

その5:ホーチミン市内には公共のバスもあるのですが,交通渋滞がひどく,人々の足となっているのは,携帯のアプリで呼べるバイク便。携帯のGPSで居場所が特定され,近くのバイク便が迎えに来たら後ろに乗って,タクシー代わりに使います。緑のヘルメットがトレードマークです。

その6:きれいなブランドのお店でも下町風の路上のお店でも,みなさん店番をしながら食事をしています。営業中のお食事タイム時間に遭遇率高すぎ。

その7:ベトナムの学校にチャイムはなく,大太鼓をドンドンと鳴らして,授業の始まりと終わりを伝えるのは,小学校から高校まで共通でした。

現在のベトナムは急速に進んでいる近代化に従来の生活が混ざり合い,1年1年変化しているように感じます。携帯電話が不可欠な社会というのは日本と同様で,日本のように徐々に切り替わってきたのではなく,一気に最新のものがどっと入ってきている面では,日本より思い切った進み方をしていくのではないかと感じました。

ホーチミンのタン・ニャン・トン高校

高校生の英語のノート

11年前に設立された私立高校で,生徒数は220人。高校は義務教育ではないが,毎年学生は増加傾向にあり,年間100人の生徒が入学している。生徒は,袖に学校のマークが付いた白シャツとベージュ色のスカートまたはズボンの制服を着ています。

先生は,女性はアオザイを着用し,汗をかきながら授業をされています。5月のホーチミンの気温は30度前後ですが,訪問の日は30度を超えていました。しかし,タン・ニャン・トン高校の教室には空調はついていません。ついている学校もあるようですが,私たちの訪問した中ではそのような学校には出会いませんでした。この高校の職員は50人で,そのうち30人は正規職員,残りの20人が非常勤。優れた教師は2,3の学校を掛け持ちする傾向にあるらしい。この学校では,授業は基本ティームティーチングで,一人が教えて一人が補助という形態。

ホーチミン市内の学校は,どこも通りに面して,交通量の多いところにあり,校門をくぐって,校舎まで歩く日本の学校のイメージとは違い,道路沿いの門をくぐると即校舎で,校庭と呼べる場所は少しです。

高校は,全日制ですが,午前の部だけ・午後の部だけ・両方と3種類あり,これは授業料の差にもなっています。午前の部は7:30から授業が行われており,昼休みは11:00から13:00まで。多くの生徒は家に帰り,食事をし,昼寝文化もあり,校内に昼寝をする場所もありました(自宅に帰らず昼休みも学校にいる生徒用)。教室には,壁に「努力か後悔か」なんて刺激的な標語が掲げられていたりするところが,社会主義の国であることを思い出させてくれたりします。「社会主義だから」は言い過ぎかもしれませんが。

英語の授業を見学させてもらいました。クラスは男子9名,女子17名の計26名のクラスです。日本と同様,外国語として英語が導入され,日常で使わない状況も同様です。街中では観光客が行くところ以外では,英語は通じません。日本と同様です。生徒のベトナム語と英語が書かれているノートを見せてもらうと,私が授業で書くような文法説明があったりしました。

教材など限られた中で,基礎的な英会話の授業でしたが,テンポよく,情報量は多く提供されていました。面白みのある活動ができるわけではありませんが,生徒も忍耐強く授業についていく様子は,学ぶことが貴重であるからかもしれません。貴重といえば,クラブ活動も,スポーツがサッカー・バドミントン・水泳が週2回,学校から10分ほどの体育施設で,他校と共同で放課後行われます。ホーチミン市には184校の高校があり,それを8グループに分けて,スポーツの大会を行っているそうです。放課後は塾に行く生徒が多く,ほとんどの生徒が行っていると言う人もいました。日本とベトナムの学生の違いは、日本の学生が放課後は部活動中心である一方で,ベトナムの学生は自分の住む地域に帰っていくという放課後の過ごし方にあるように感じました。生活しているという感じが強く感じられます。

ファ・ドゥ幼稚園(公立)

ホーチミン市から南のメコンデルタ地域にあるベンチェ省にある幼稚園です。
先生方は皆女性で,ベテランの40歳前後の先生ばかりでした。とても活気があり,遊具は先生方による手作りで色鮮やかに,工夫が至る所にされていました。ココナツの殻を使った,こっぽりとかぽっくりという足に履くおもちゃや,お店屋さんごっこで使う色とりどりの品物やお絵かきコーナーなど,子どもたちは笑顔いっぱいで楽しく遊び,私たちにも笑顔を向けてくれました。この幼稚園は,今回の研修をコーディネートしていただいたA社の代表者が,15年ほど前に市当局に150万円ほどを寄付する代わりに,幼稚園の理念を理解する園長を指名し,彼に幼稚園の経営と運営を任せる条件でつくられました。遊びを通して子どもを育てたいという願いや理念をA社が持っており,その実現のために大切に育てた幼稚園のようでした。教室の整頓のされようや,子どもたちの歯ブラシがきれいに並べられていたり,階段に歩く方向を示すための矢印が描かれていたり,日本の幼稚園に劣らない工夫の数々に驚きました。何より,先生方の笑顔と教育者としての風格のようなものを感じることができ,同じ教育に携わる者としてベトナムで出会えた連帯感にうれしくなりました。子どもを思う教師のまなざしは世界共通です。

ベンチェ小学校

小学校の校門

ベトナムの学校制度は小学校5年・中学4年・高校3年となっています。ベンチェ省にある訪問先のベンチェ小学校は,在校生1784名,クラス数40,教員数65名の大規模な小学校です。ただ,生徒の半数が全日登校で,残りの半分が午前の部,午後の部の半日の登校となっているようです。ここでは,同行した小学校の教諭の方2名が小学校4年生のクラスで授業をさせてもらいました。40名ぎっしりの教室で,エアコンのない状況で,30度を超える暑さの中での授業でした。まず,日本で勤務している学校の紹介をパワーポイントを使って説明します。ICT環境は日本と同様一応整っています。授業は英語と通訳の方のベトナム語で行いました。教室の机といすがそれほど機能的に作られていないのですが,暑さの中でも,落ち着きのない子どもは見られず,一生懸命話を聞いてくれていました。授業中に先生の話をしっかり聞くということがかなり徹底されているように感じました。そこは,いま日本の教育が進もうとしている方向とは違うところかもしれません。しかしベトナムの社会の現状を考えると,学校が足りなかったり,家庭の事情で午前や午後だけ学校に来る子どもがいることなど課題も多い中で,先生方や教育省の官僚の方も真剣に考えていらっしゃる。そういう方々と話をする機会が得られたことも貴重な経験でした。

授業では,日本の子どもたちが作った折り紙をプレゼントして,折り紙や新聞紙を使った工作を紹介しました。何をするかがわかると子どもたちはベトナムの子どもも日本の子どもも同じです。楽しく作ることができました。
 
授業に関しては,事前に何度も確認して,二人の先生が40分ずつ授業をすると聞いていたのですが,いざ始まってみると,二人で40分ということが判明するアクシデントがあったり,教室環境が違っていたということもありました。海外に視察に行くと,日本では考えにくい行き違いがあったりします。それも含めて,国際交流というのは,想定外を受け入れることでもあるのだと感じます。計画通り進むことが必ずしも成功ではない世界もあるのではないでしょうか。

今回のベトナム研修では

想定外を学ぶことも国際交流の一つでした。

想定外というのは自分の常識の外ということです。自分の価値観の外にあるものとは何でしょうか?ベトナムで教師がまなべることはなんでしょうか?次回はそんなことを書きたいと思います。

藤井 三和子(ふじい さわこ)

兵庫県立兵庫工業高等学校 学校心理士 教諭
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 専門職学位課程 教育実践高度化専攻 グローバル化推進教育リーダーコース 在籍
生徒の心の成長を促す存在でありたいと,教育の力を信じて,工業高校で英語を教えています。大学院での学びと学校現場での実践で感じたことを紹介していきたいと思っています。

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