アメリカの学校で専科教員「美術教師」として働く
教育現場での出会いは一期一会です。私は日本国内にある米国の国立小学校で教師をしており、今の学校に来て15年目を迎えます。職員の転任義務はありません。職員は移動リクエストを出すと国防教育省に属する全世界の学校(ヨーロッパ、アジア、アメリカ本国など)に転任することが可能です。またこちらに在籍する生徒やその家族は3年から5年の周期で世界中を移動しています。そのような理由で、私は日本に居ながらにして世界中に教員仲間や教え子がいます。私の勤務する小学校では専科と呼ばれる教科(体育、美術、音楽、語学)はラージグループスペシャリストと呼ばれます。そのデパートメントに属する教師は多くの時間を共にします。今日は元同僚のデスティニー・ストーン教諭を紹介します。アメリカならではの教員免許取得方法も教えてくださいました。
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃
1.あなたの教育分野での経歴を教えてください。

デスティニー・ストーン先生
はじめまして、デスティニー・ストーンです。現在、アメリカのテキサス州で美術教師をしています。これまで、さまざまな学校、役職、多様な人種、エキサイティングな場所での経験をしてきました。
2009年春、私は彫刻家を夢見て、スペルマン・カレッジで彫刻を専攻し、美術学士号を取得しました。しかし、その当時アメリカ経済は大不況のため危機的状況にあり、仕事のチャンスがあまりありませんでした。私は教育関係の職に就くことを勧められ、美術教師の道を選びました。
まずジョージア州アトランタからテネシー州ナッシュビルに引っ越し、5年生から8年生を教える中学校の美術教師として教職に就きました。この学校は、低資金、低人員、少ないサポートに苦しんでおり、資金が不足しているため多くのことをボランティアでこなさなければなりませんでした。チアリーディング・コーチを務めながら、生徒を送り迎えしたり、そのボランティアを探すことを誰かにお願いしなければなりませんでした。
私の教育者手当は、画材を注文するのに年間400ドルのみ支給され、そのほかの文房具、鉛筆、消しゴム、クレヨンを購入する十分な予算はありませんでした。その状況下で、拾い物やリサイクル品、寄付金などを利用した、環境にやさしいカリキュラムを考案することができたと思っています。
2.現在までの美術教師としてのキャリアを紹介してください。
現在専科の美術教師として働いていますが、人手不足のため、数学と読解のクラスで共同指導をする経験もあります。リプスコム大学で教職の学位を取得するために勉強しながら、美術、数学、リーディング、コーチングを夜間や週末に教え、時間管理のスキルを身につけました。こちらでは、さまざまな方法で教職の学位を取得することができます。
そして主人の転勤で沖縄という地で美術教師になることになります。沖縄にある米軍基地で、幼稚園から5年生までの小学校で美術を教えることができました。この経験を夢に見ていました!
私は、沖縄の豊かな文化、親切な人々、そして美しい気候に恵まれ、多くの教育的な経験と大成功を収めました。学校の雰囲気は、仕事面でも経済面でも精神面でも、信じられないほど協力的でした。私は美術教育者としての役割を全うすることができました。
3.アメリカに戻った後は?
夫のキャリアが一区切りついたあと、夫と娘と私はアメリカに戻り、テキサス州のカレッジステーションという小さな町に定住しました。私は5年生と6年生を教える美術教育者の職に就き、現在ここで7年目を迎えています。コロナの流行期には、5つの学校で唯一の美術バーチャル教育者としてリモートで働きながら、遠隔で現場の教室を管理していました。
YouTubeのアートレッスンを活用し、リモート授業以外でも生徒がアクセスしてフォローできるような安定したカリキュラムを進めました。コロナ終焉後、私は自分の教室で教え続け、美術部門のリーダーとして美術部門を管理しています。そして現在は、学校のイヤーブック(記念アルバム)の撮影や本の編集に協力しています。 このポジションには中央からの資金援助があり、十分なスタッフがいて、さまざまなサポートがあるので私はここで地域社会とつながり、生徒と1対1の関係を築くことに喜びを見出しています。
4.学校での一日を教えてください。
通常の授業は7時限。私は5年生か6年生に5時限、美術を教えています。1コマは宿題や休み時間のためのアドバイスで、もう1コマはメールでのやり取りを確認したり、成績を入力したり、授業の予習をしたりするのに最適な時間です。
アドバイザリー以外の授業時間は59分で、授業と授業の間に3分間の休憩があり、生徒が教室から教室へ次の教科を受けるために移動していきます。私はこちらの学校で演劇と音楽の授業を学期ごとに交互に教えています。
5.アメリカでの教員免許取得方法を教えてください。
アメリカで教員免許を取得するには複数の方法があります。私は移行型教員免許の道を利用しました。このプログラムでは、夜間や夏季の授業を受けながら同時に教室で教えることができ、教員免許を取得することができます。
教員免許を取得するためには、すべての科目のあるPraxis試験(アメリカの教員資格試験の一つ)に合格しなければなりません。 私はK-12(幼稚園から高校まで)美術の教員免許を取得するため、Praxis Art試験に合格し、テネシー州の移行ライセンス/教員免許を持って教鞭をとっています。これは43の州で適用されています。テキサス州など多くの州では、教員免許はその州でのみ有効です。
6.美術教師としての魅力を教えてください。
美術教師の役割は、時に教員や管理職から、主要科目よりも劣るとみなされることがあります。スケジューリングや生徒へのサポートは、主要科目が優先され、保護者や生徒が美術のカリキュラムを熟知しないので、受講する生徒は少ないです(アメリカでは中学校から教科選択制になります)。
ほとんどの専門能力開発や教授会では、美術教育者が含まれていないか、美術教育者に関係がありません。もちろん学校や管理者によっては、財政的、専門的なサポートが制限されることがあります。しかし、美術教師は楽しい!です。
美術教師は学校に平和と暖かさ、美しさを与えます。美術室では、生徒たちは自分の感情、才能、技術を探求しながら、新しいことに挑戦し、一丸となって創作することができます。
美術の教師は、生徒がよりよい問題解決者、創造的思考者、平和を求める人になるのを助けます。美術教師は、学校を美しいアートで飾り、地域社会への働きかけを促進することで、学校の雰囲気そのものを作り上げることができます。美術教師には、豊かで長期的な方法で生徒と真につながる時間と手段があると感じています。

下條 綾乃(しもじょう あやの)
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。
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