2019.05.28
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「お勉強」も教育支援連携で

「先生、我が子にもっとお勉強をさせたいのですが・・・」と保護者から相談されることがあります。この「お勉強」って何でしょう?

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子

「お勉強」って?

「お勉強」と言えば、どのようなことをイメージするでしょうか?多くの方が一番にイメージするのは、机上の「読み書きそろばん」でしょうか?もちろん、この机上の「読み書きそろばん」も「お勉強」の一つですね。しかしすぐさま、「お勉強」はそれだけではない!と誰もが考えるはずです。
新学習指導要領でいわれる「主体的・対話的で深い学び」や「アクティブ・ラーニング」、「プログラミング的思考」や「論理的思考力」も、今の時代の「お勉強」を示しています。

「遠足に行こう」という「お勉強」

例えば、特別支援学校小学部中学年の「遠足に行こう」という単元を例にとって、「お勉強」を考えてみましょう。

①まず「遠足」に行くことを知らせるために、「行く日、行き先、行程、持ち物、注意点」等について、「遠足のしおり」等を使って学習します。子供達は「遠足のしおり」の写真を見たり、文字を読んだり、カレンダーで日付を確かめたり、物の名称を書いたりしながら、遠足をイメージし、遠足への参加意欲を高めていきます。

「お弁当」という「お勉強」

更に、「自立と社会参画」を目指した学習として、次のように発展することができます。例えば、「遠足」の持ち物の一つである「お弁当」に焦点を当てます。「お弁当」を選択したのは、子供達に「遠足」を伝えた時、「お弁当」が大きな楽しみの一つ、興味関心の高い教材だったからです。

②そこで、「お弁当」という言葉と数枚の「お弁当」の写真を見ながら、「これがお弁当というものなんだ」というように、言葉とイメージを結びつけます。写真には、おにぎり、ウインナー、卵焼き、トマト、ブロッコリー・・・と色々な具材が入っています。一つ一つの具材の名称を学習することもできます。

③次に「お弁当を作ってみよう」と題して、実際に作らなくても、具材や空のお弁当箱を印刷した絵カードを使って、貼り絵工作をします。子供達は好きな具材絵カードを選んで、空のお弁当箱絵カードに貼っていきます(写真)。その学習活動は自己選択・自己決定・・・まさに主体的な学びです。

④出来上がった「お弁当の貼り絵作品」は写真に撮って、「デジタル連絡帳」で保護者に伝えます。

⑤すると保護者からは、次のようなコメントが届きました。「お弁当の貼り絵、子供に説明してもらいながら 笑いながら見ました。技術不足で(笑)期待には及ばないかと思いますが、近づくべく明日のお弁当作り頑張ります!」「我が子のチョイスお弁当、色とりどりでバランスもよしでしたね(^^)明日、お弁当を作る方も楽しみです」など、嬉しいコメントをいただきました。このように子供の学習情報をリアルタイムに共有することができると、教育支援の協働作用が誘発されます。まさに教育支援連携の姿です。

⑥ここから更に「じゃあ明日、お弁当に入れる物を買いに、一緒にお買い物へ行こうか?」となれば、更に学習は広がり、深まります。例えば子供とお母さんと一緒にスーパーへ行ったとすれば、子供は自分がお弁当に入れてほしい具材を選ぶ、自己選択・自己決定の主体的な学びができます。選んだ具材をレジに持っていき支払いをすれば、お金の使い方や数の学習ができます。お店の人とのやりとりから対話的な学びができます。買った物を袋に入れる、家まで持って帰る、家に着いたら冷蔵庫に入れる・・・・「お弁当」に関連した買い物学習は、まさに自立と社会参画に繋がる学習になります。

⑦遠足の朝、少し早起きをして、卵焼きを一緒に作る、電子レンジで具材を温める、お弁当箱に具材を詰めるといった調理学習をすることもできます。「お弁当」を作るというゴールに向かう過程は、まさにプログラミング的思考を育みます。

⑧「遠足」当日、待ちに待った「お弁当」の時間。「お弁当」のふたを開ければ期待通りの「大好きな物、自分が選んだ物が入っている!」ことを確かめることができます。美味しくいただく中で、感謝の気持ちが育ちます。

⑨そしてできれば「お弁当」の写真を撮っておきます。遠足翌日、「お弁当」の写真を見ながら「遠足」を振り返ります。あらためて、「お弁当」が美味しかったことや具材の名称、お母さんとやり取りしたこと、お買い物に行ったこと等のエピソードを振り返ります。このように「遠足・お弁当」についての対話的な学びを通じて、次はどんなことに挑戦したいか、次学習への意欲に繋ぎます。

自立と社会参画に繋がる「お勉強」

「遠足へ行こう!」という一つの単元の中にも、「主体的・対話的な学び」や「アクティブ・ラーニング」、「プログラミング的思考」、言葉や数の学習・・・と、子供達の自立と社会参画に向けた幾つもの学習を設定することができました。

「お勉強」とは、子供達の日々の学校生活や家庭生活を軸として学習できること、そして子供達の生活の中で役立つこと、次への意欲に繋がること・・・これらを積み重ねていくことが、子供達の自立と社会参画に繋がる「お勉強」ではないでしょうか。
今一度、日々の生活の中にある「お勉強」を、学校も家庭も共に見直し、チームとなって教育支援連携を実践していきましょう!(^^)!今日も明るく強く楽しく!

中川 宣子(なかがわ のりこ)

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!

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