2019.01.11
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聖火ランナーの実況アナウンスをつくろう~6年生社会科「新しい日本、平和な日本へ」

6年生を担任していた時分、歴史分野最後の単元が「新しい日本、平和な日本へ」でした。2学期も終わりが近づく中、戦後日本の学習はさっと流して終わり・・・なんて話も聞きます。戦後の日本の様子は子どもたちの興味を引きづらいのかもしれません。しかしながら戦後の日本の歩みは現代の日本を考える上で欠かすことのできない内容です。時間がない学期末でも効率よく、そして子どもたちにとっても興味を引くそんな授業をつくりたいと思い、実践してみました。

佛教大学大学院博士後期課程1年 篠田 裕文

聖火リレー最終走者

2020年に東京でオリンピックが開催されますが、遡ること約60年、1964年にアジア初のオリンピックである東京オリンピックが開催されました。オリンピック開催となるとギリシアのアテネでは聖火が灯され、メインスタジアムまで聖火ランナーが聖火を運びます。聖火台に火をともす役を担う最終ランナーが誰になるか、オリンピックの楽しみの1つでもあります。1964年の東京オリンピックの最終ランナーは坂井義則さんでした。名前を聞いてピンとくる人はかなりのオリンピック通でしょう。しかし坂井さんの生年月日を聞くとなぜ彼が最後のランナーとなったのかわかるはずです。坂井義則さん、1945年8月6日広島生まれ。そう、広島に原始爆弾が投下されたまさにその日に誕生された方です。

東京オリンピックは戦後の復興を象徴しているといわれます。坂井さんが聖火をもって走り、聖火台に灯をともすまでの3分間(生前「人生最高の3分間だった」と坂井さんが語っておられるので)、それは日本が焼け野原から復興していく歩みそのものでもあります。そこで歴史分野最後の単元になる「新しい日本、平和な日本へ」を

〇聖火ランナーの実況アナウンスをつくろう

という課題を設定して学習を進めることにしました。教科書の流れでいうと終戦前後~復興~東京オリンピック。この歴史の流れを実況アナウンスにまとめるのです。

単元の学習に入るにあたり子どもたちに東京オリンピック開会式において聖火ランナーが入場し聖火台に灯をともす様子を見せました(ネットで検索するといろいろヒットします)。見せた上で

〇実況中継って知ってる?
〇どんな実況中継が流れていると思う?
〇オリンピックってどんな役割があると思う?

などと尋ね、色々イメージを膨らませたあとで

〇実況中継をつくってみない?

と投げかけ、本格的な学習へと入っていきました。
ちなみにただアナウンスを考えればいいわけではありません。

・それぞれの時期を代表する出来事、事実は何か
・それらはどのようなものであったか
・それらによって日本は、日本人の生活はどうなったか
・それらをどのように国内外にアピールするか

資料活用能力、思考力・判断力・表現力等、これまで蓄積してきた力を総動員して取り組む、そのような課題になっています。

キーワードを取り出す

いきなり全体を1つの実況中継にするのはなかなか難しい作業です。そこで見開き1ページを取り上げ範囲を狭めた状態でミニ実況中継をつくってみることにしました。終戦後、連合国軍に占領された日本において様々な改革が行われる場面です。実況中継作成に必要なキーワードの整理を行いました。

・民主主義
・戦後改革
・日本国憲法

が子どもたちからキーワードとして出されました。これらが日本に、国民生活にどうような影響をもたらしたのか、それがポイントです。自学としてある子が家で書いてきた文章の一部を紹介します。ちなみにこの子はキーワードをさらに細分化し戦後改革の中の

・女性の選挙権
・軍隊の解散
・言論、思想の自由

をとりあげ書いていました。

(前略)
さらに言論思想が自由になりました。戦争中に「この戦争は止めた方がよい」「この戦争は無意味だ」などの発言をしただけでつかまっていました。つまり自分の意見を言うことができないのです。しかし言論・思想が自由になったことで相手に自分の意見を言えるようになったのです。そうすれば相手に意見を言った人は相手にわかってもらえたと思い幸せになります。そして相手に意見を教えてもらった方はこんな意見もあるんだと今までおもいつかなかったことを教えてもらってうれしくなります。するとみんなが幸せになります。
このように国民の幸せを第一に考え、戦後の改革が行われてきました

授業の中で民主主義とは「国民が主となって国民全体の幸せのための政治をしようとする考え方」という文言に触れました。この子の実況中継からはこの民主主義の思想が色濃く反映されています。

オリンピックの意味を考える

聖火が階段を駆け上がるころ、実況中継もクライマックス。内容としては高度経済成長。ここでのポイントは交通・産業の発展はもちろんですが「オリンピックの日本、日本国民にとっての意味」です。聖火の点火とともに世界に向けて発信されるのは日本人の努力か、希望か、世界に追いついた自身や自負か。実況中継の締めくくりともつながるためどのような言葉でそれを表現するかは極めて重要です。ある子は高度経済成長に関する部分で次のような実況中継を書いていました。

前略
日本は高度経済成長へ向かっていきます。下水道が作られたおかげで街が美しくきれいになりました。重工業も発展し目に映ります。高速道路は普通の道路と比べてとても速いスピードがでます。新幹線にはみなさまお乗りになられましたか?あのマイナスからスタートした日本が今、プラスへと上がっていきます。わずか19年でオリンピックへと進みました。
さあ、いよいよ聖火がともります。今までの苦しい思い、悲しい思いをこの聖火でかきけしましょう。この聖火はいつまでも消えることなく私たちの心の中で燃え続けることでしょう。この国を希望であふれさせましょう。

この子が考えたオリンピック意味は「希望」。オリンピックが日本国民の「希望」の象徴であるととらえていたのでしょう。他にも次のような言葉で実況中継を締めくくっている子どもがいました。

〇アジアで初めてのオリンピック。このオリンピックが東京の、いや日本の復興を世界に伝えています。みなさん今一度大きな拍手を
〇オリンピックの成功は日本の自信と希望につながります。日本はこのオリンピックにむけてたくさんのことをやってきました。これまでの努力とともに日本は世界に近づいたのです。

復興、世界への接近。上記2つの締めくくりはそのような子どもたちのとらえを表しています。

高度経済成長、つまり、実況中継の締めくくりの部分を考えた子どもたちはいよいよこれまで書き溜めたものを取捨選択し1分30秒の原稿にまとめます。(3分は長いので、1分30秒で坂井さんの聖火リレーが終わるビデオを実際には用いました。)

いざ!!実況中継

写真は(加工してあります)実況中継の練習に励む子どもたちの様子。画面に映し出された聖火リレーの様子に合わせ自身の作成した実況中継を読んでいます。1分30秒に収まるように、映像と声の調子が合うように、日本の戦後復興の歩みが伝わるようにそれぞれが工夫をしています。社会科とちょっと離れるような気もしますが実況中継に書いた言葉の意味を考えながら読むというのは社会事象の意味を考えることにもつながります。

最後に子どもたちが考えた実況中継の全体像を紹介します(複数の子どものものを合成して1つにしてあります。)

最終ランナーは坂井義則。1945年8月6日生まれ。そう広島に原爆が落とされたその日に生を受けました。大きな音と同時に街を一瞬にして吹き飛ばしたあの日を私たちは忘れることはないでしょう。
ゼロからのスタートを切った日本。大きな戦後改革を実行しました。あれだけ街を闊歩していた軍隊が姿を消しました。人々は「もう戦争は終わったんだ」と実感したことでしょう。言論思想の自由も生まれました。みなさん今までつらかったことを口に出してみましょう。「戦争は、戦争は絶対にやってはいけない!!」と。そう、この国は平和への第一歩を踏み出したのです。

国際社会への復帰も果たしました。世界が2つに割れる中、48カ国と平和条約を結び日本は主権を回復しました。アメリカの協力もありながら産業を発展させていきました。テレビや冷蔵庫などたくさんの物が作られました。国民の努力によってここまでやってきました。
日本は高度経済成長へと向かっていきます。下水道が造られ街が美しくキレイになりました。重工業もその製品が街にどんどん溢れていきます。高速道路も張り巡らされより速いスピードで人々は移動できるようになりました。あのマイナスから始まった国が、今プラスへと変わっていきます。わずか19年でオリンピックが開催できるまでに発展した日本。

さあ、いよいよ聖火がともります。今までの苦しい思い、悲しい思いが聖火によって希望へと変わっていきます。この火はいつまでの私たちの心の中で燃え続けることでしょう。この聖火とともにこの国を希望であふれさせましょう。

映像とともち1人ひとりが意味を考え、伝え方を考えた実況中継。聞いているとまるで1964年のスタジアムに立っているかのようでした。実況中継までふくめこの単元は5時間で終えました。実況中継というパフォーマンスを課題にすることで、子どもたちは出会う社会的事象の意味、役割を短い時間の中でも考えることができたように思います。ついつい時間がなくなっている学期末の単元。ちょっぴり工夫することで子どもにとっても教師にとっても魅力的な単元になる可能性を秘めているともいえるかもしれません。2020年のオリンピック開会式ではどのような実況中継がなされるのか。2020年のオリンピックは日本に、日本国民にどのような意味を持つのか。そこへと意識をつなぐ子が1人でもいたら・・・うれしいなあと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

篠田 裕文(しのだ ひろふみ)

佛教大学大学院博士後期課程1年
修士課程を修了し博士課程に進学しました。修士時代に学んだこと、学校現場で実践したことを書き綴りたいと思います。

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