ICTを利活用した教育支援連携モデルの教育的効果Ⅲ<子供と保護者と教師の安心の絆を結ぶ>
春の入学式から3ヶ月。日に日に暑さが増し、夏が近づいてきました。新入生の子供達も暑さと共に日に日に、先生や友達、学校、学習に慣れてきました。今夏は暑い!夏休みまであと少し!子供達も先生達も元気に過ごしましょうね!
京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子
「怖くて入れない!」
春、入学式の朝、校内に泣き声が響きました。
新一年生のAさんにとっては、おめかしした服装も、見たことのない建物も、初めて出会う先生達も、目に映るもの、聞こえる音全てが真新しくて、いつもと様子が違う!何が起こるかわからない!怖い!と泣き叫んでいるように聞こえました。
結局、Aさんは入学式の会場となった体育館に入ることはできませんでした。
「怖くて入れない!」
毎日の学習情報を共有していくと・・・
入学式からしばらく経っても、Aさんは教室に入ることを拒んでいました。
先生達が両腕を抱きかかえて教室へ連れていっても、すぐに飛び出したり、外で泣いたりする日々が続きました。
先生達は、どうしたらAさんが教室に入ってくれるようになるか、泣かずに過ごすことができるか、そして教室・学校は安心な場所である事をどうしたら理解してもらえるかを考えました。
担任の先生は、毎日、Aさんの学習の様子の写真を沢山撮って、「デジタル連絡帳アプリ」を通じて、保護者に知らせました。
また保護者からは、放課後や休日にAさんが大好きな公園で遊んでいる写真を届けて知らせてくださいました。
こうしてAさんの毎日の学習情報を、学校と家庭とで互いに共有し確認し合いながら、そして学校、家庭それぞれの役割の中で教育支援を積み重ねていきました。
すると、少しずつ、Aさんは泣く時間が短くなっていきました。
教室にいる時間は、長くなっていきました。
「Aさん行こうか。」と誘いかければ、自分から教室に入るようにもなっていきました。
「もう怖くない!」
そして、入学式から3カ月が経った6月末の参観日。
Aさんはクラスの子供達と一緒に「朝の会」に参加し、参観日の授業「体育」では、体育館で先生と一緒にボールを転がしたり、保護者参加の大玉リレーをしたりと、最初から最後まで皆と一緒に学習できるようになっていました。
怖くて入れなかった体育館で「体育」の学習ができた!これはまさに、Aさんの成長の姿でした。
参観日翌日、Aさんのお母さんからの「デジタル連絡帳アプリ」には次のように書かれていました。
「参観日ありがとうございました!最初はパニックになりましたが、次第に落ち着いて、参加できて良かったです。「朝の会」に自ら椅子に座って参加できていて、びっくりしました。主人と一緒に喜んでいました。「体育」の時間も楽しんで参加していて嬉しかったです。大玉もボールも大好きですね。先生方が細やかに助けていただいて、うまく誘っていただいていて、ありがたかったです。いつも本当にありがとうございます。いつも参観日はちょっと落ち込んだりもするんですが、今日はAちゃんが参加している姿を見て、嬉しかったです。Aちゃん、がんばっているなぁと思いました。」
Aさんのお母さんの言葉は、教師冥利に尽きる言葉でした。
入学式初日から今日まで、Aさんの写真を通じて毎日情報共有しながら「あーでもない、こうでもない。」と試行錯誤し合い、「今日は頑張ったね。」「明日は少しだけ頑張りましょう。」「焦らずいきましょう。」と、互いの教育支援を励まし合ってきました。
その結果、Aさんはこの数ヶ月の間に、確実に学習し、成長しました。
教室・・・・・・ここは私の居場所。
先生、友達・・・この人達といれば大丈夫。
学校・・・・・・ここは安心できるところ。
「もう怖くない!」
子供と保護者と教師の安心の絆
「デジタル連絡帳アプリ」は、子供の今日の家庭・学校での学習情報を伝えることができます。
写真一枚の中には、子供の表情、しぐさ、周囲の学習環境等、多くの学習情報が含まれています。
保護者や教師が子供の学習をリアルタイムに互いに知り合うこと、子供のことを一緒に考えること、そして教育支援していくこと・・・これらを毎日継続しているうちに、不安は安心へと変わっていきます。
つまり「デジタル連絡帳アプリ」は、子供と保護者と教師の安心の絆を結ぶ一つのツールになるといえます。
安心の絆を結ぶことができれば、子供はまた一歩、次の学習に進む事ができます。
次の成長に繋がります。自立と社会参画に繋がります!
今回はICTを利活用した教育支援連携モデルの教育的効果Ⅲ<子供と保護者と教師の安心の絆を結ぶ>をお伝えしました。
「デジタル連絡帳アプリ」の利活用による教育的効果は、まだまだあります。
次回、教育的効果Ⅳもお楽しみに!
さぁ、暑い夏、ゆっくり深呼吸して、明るく強く楽しく教育支援連携をしていきましょう!
今日も、子供たちの自立と社会参画のために!(^^)!
参考資料
- 「デジタル連絡帳アプリ」:サイボウズ株式会社 kintone

中川 宣子(なかがわ のりこ)
京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!
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