2018.04.24
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質の高い教員を育成するために大学や学校現場ができること

 私は、22年間小学校の教員をした後、昨年の春から教員養成の場に移りました。昨年度は主に保育者養成を担当し、今年度からは小学校の教員養成を担当しています。そういった中で感じていることは、学校現場と養成の場(大学や短大など)との様々な意識の違いです。今回は学校現場と大学の関係や大学における教員養成について書きたいと思います。

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

「教員養成学部は特殊な学部?」

 教師は世の中にたくさんある様々な職種と比べて、特殊な面があります。それは、採用され現場に行くと、即戦力として働くということです。比較をしてみます。まず「銀行」について考えてみます。大学を卒業し4月1日に銀行に採用された人は、まず新入社員が集められた場で様々な研修が行われるはずです。それは、銀行などにもよりますが、数ヶ月になると思います。そういった中では、様々な部署を巡り、銀行の仕組みなどを学ぶことをして行きます。実際の現場に行き、邪魔にならない範囲でフォローのようなこともすると思います。次には「レストラン」について考えてみます。レストランに入った人は、まず皿洗いや掃除などの仕事から始まります。徐々に包丁を使う簡単な仕事(皮むきなど)をさせてもらうようになります。時間を掛け、段階を踏んで、お客に料理を出す仕事に取り組むようになります。

 改めて教師の仕事を見てみると、教師に採用された人達は、数日間の研修だけでいきなり銀行で最重要顧客の対応を一人でしたり、レストランでお客が注文してきたものを調理し、お客が満足してくれるものを提供したりしなければならないようなものです。銀行やレストランではあり得ないようなことが実際の学校現場では行われているのが現状です。

 そういったことを考えると教員養成系の学部においては、他の学部以上に実践的な能力の育成が求められます。一人で学級経営をし、授業ができる能力を身に付けた形で現場に赴任することです。

「教員養成学部に求められているもの」

 大学で学ぶものを便宜的に「教養的なもの」と「実務的なもの」に分けた場合、教員養成系の学部では、より「実務的なもの」の重要度が増すのだと思います。私は23年前の大学を卒業しました。教育学部の小学校教員養成課程でした。振り返ると実際の現場と関わりのある授業は非常に少なかったように思います。その頃と比べると、今、私が勤めている大学も他の大学も実践的な学びが多くなっています。学生がボランティアなどで学校や子どもと関わる場を設定している大学が多くあります。また、授業の中で学校と関わるというものもあり、大学4年生が一年間、毎週決まった曜日に決まった学校へ通い、学校での様々な仕事の手伝いをするというものも聞いたことがあります。それらはきちんと大学の授業の中に位置付けられ、単位も認定されているとのことでした。教育実習ではどうしてもお客さんのような扱いの中で終わってしまうことも多いです。クラスの子どもも担当教員もしっかりとしていることが多いです。このボランティアでは、様々なクラスと関わることもできます。とても良い仕組みだと思います。現場の校長も人手が増えるのでとても助かるということでした。

 しかし、大学で実践的な学習が増えてきているとは言え、それは十分ではありません。自分が担当する授業の関係で、色々な大学のシラバス(授業の内容などを詳しく書いたもの)を少し調べたことがあります。驚いたことに「学級経営」に関する授業はほとんど行われていないのです。現場においては、いかに学級をまとめていくのかという事は、非常の重要な事項です。教科の指導はもちろん大事ですが、その前提となるのが「学級経営」なのだと私は思っています。関東地方の複数の国立大学、私立大学の教員養成系学部について調べた所、学部においてはほとんど見られず、選択科目で設定している大学が少しだけありました。教職大学院では、「学級経営と学校経営」という名前で設定されている大学が多かったです。

 シラバスを細かく見てみると、学級を経営していく能力については、他の様々な授業、例えば、児童心理、教職教養などで少しずつ取り組んでいるようでした。しかし、それらは十分なものだと言えるものではないと感じます。大学としては、そのような実践的なものは教育実習において学ぶものだと考えている部分もあります。しかし、現場において実習生を何度も担当してきた立場としては、実習では日々の様々なすべきことの中であっという間に時間が経過し、きちんとした形で「学級経営」について伝えていく事はできていない部分もあると思います。

 こういった現実に加え、現在は都市部を中心に大量採用が続いています。若い教員がどんどん採用され、各学校に配属されています。それによって、若手が学校の中で学ぶ期間が短くなっている傾向があります。例えば、3年に一度、初任者が配属される状況と毎年、2人ずつ初任者が配属される状況では、明らかに前者の方が、じっくりと力量育成をしていくことができます。私が初任者として赴任した23年前はあまり若い人がいない時代でした。私自身は6年ぶりの初任者でした。大規模の小学校ですが、同僚に20代は1人しかいませんでした。ずっと下っ端でした。ありがたいことに多くの先輩方から何年もたくさんの指導をしてもらっていました。それらは今の自分の仕事に確実に役立っています。

「学校現場ができること」

 これまで書いてきたような状況において、現場の教師ができることはたくさんあります。先程来、大学での養成が大事であると書いてきましたが、それと同様に現場でのOJT(On-The-Job Training)は非常に重要です。今回はこの文章の主旨とは外れるので、その事は省きます。

 現場の教師はもっと大学などが持っているもの(ソフトやハード)を活用すると良いと思います。困っていることがあれば、気軽に相談してみると良いと思います。教員養成系の学部の教員は、より良い教師を育てたい、学校をより良くしたいと思っている人が集まっています。学校現場を経験した人(実務家教員)も以前よりも随分と増えています。様々な形でそういった人達にコンタクトを取ってみることと何か新たな展開があるかもしれません。

 これまでも行なっているものでは、実習の際の大学教員の訪問の際などにもっと積極的に意見交換をしていくことです。「学校現場ではこんなことで困っている」「こんな教員を育てて欲しい」などです。そういった話の中で、大学にある資源(人やもの)を有効活用できるような話が進むかもしれません。それらは学校現場にとって役立つものであるだけでなく、大学においても意味のあることとなります。大学生や大学の教員が学校現場を訪れる事は、学生や大学教員にたくさんの刺激を与えます。

「最後に」

 期待のできる動きがあります。上越教育大学の先生が中心となってこの春「日本学級経営学会」というものが設立されました。この学会は、大学の研究者だけでなく、現場の実践者も参加し、学級経営について考えていこうという組織です。早速、私も入会しました。

 こういったことの中で、大学での教員養成における「学級経営」の意味、学校現場でのOJTのあり方などが議論されていくことが期待されます。これから現場に出ていく学生たちにとって、現場にいる教員たちにとって、意味のある会になっていったらと思っています。そういったことが結果として、苦しむ子ども、悲しむ子どもが減ることに繋がっていって欲しいと切に願います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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