2018.03.27
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教育の質を上げるために ~学校は破裂寸前の風船~

私は大学卒業後22年間、小学校の現場で働いてきました。
そして、一年前、現在の職に移りました。
少し離れた所からこの一年間、学校現場のことを見てきました。
小中高とたくさんの学校を訪れました。
そこで感じたことをまとめました。

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明

「学校は破裂寸前の風船?」

私は、今の学校現場は「破裂寸前の風船」のように思えてなりません。風船には始めのうちはどんどん空気が入ります。ある程度まで大きくなると少しずつ空気が入りづらくなっていきます。今の学校はぎりぎりまで空気が入っている状態の風船のように思います。風船は破裂するまでは一応そのままの姿をとどめています。だましだまし少しずつ空気を入れることもできます。

しかし、一度限界を越してしまうと、一気に破裂してしまいます。ぎりぎりまで大きくなった風船はほんの少しの刺激でも破裂をしてしまう可能性が高くなっています。今、ほとんどの学校でいっぱいいっぱいまで空気が入っています。小さな刺激がきっかけとなって、大問題へと発展してしまわないように心配しています。

このことで本当に難しいのは、破裂するまでは「破裂していない」ということです。言葉にすると当たり前なのですが・・・。学校における大きな不祥事やトラブルなどが起こってしまった所でも「たぶん大丈夫なのではないか・・」と問題が大きくなるまではそう思っていたはずです。学校も風船に似たような状況なのだと思います。

例えば、20177月に広島で中学生が転落死(自殺?)した事故(事件)がありました。第三者委員会の調査結果では、学校側は周りの友達から意地悪をされている事実は知っており、本人や親からの訴えもあったそうです。それにも関わらず、学校側は「いじり」「遊び」だと認識し、本格的な対応はしなかったということです。その出来事があった中学校では、いっぱいいっぱいまで空気が入った状態だったのだと思います。そうでなかったとしたら、何かできたことがあったかもしれません。想像をするに他にしなければならない事(事務仕事や部活など)があり、本来最も大事にしなければならない子どもへの対応が少し疎かになってしまったということでしょう。

これは、他人事ではありません。私も学期末などで忙しさがピークの時に、通常時であれば丁寧に対応するような子どものトラブルを「多分大丈夫だろう・・」と都合良く判断してしまっていた経験があります。幸い私は大きなトラブルにならずに済んだのは運が良かったということでしょう。

「学校が今できること」

今、学校に求められていることは、破裂を恐れながら、びくびくしながら過ごすことではなく、適正な大きさまで空気を抜くことなのではないかと思います。現在、中学校における部活の問題などを発端として教師の働き方が世の中で大きな話題となっています。こういったことを経る中で適正な大きさまで学校という風船を小さくしていく必要があります。

学校の文化において「行事などを増やす」ことは簡単です。「子どものためになるからやってみよう」という感じです。そうやってどんどん行事を含めた活動が増えていきました。

「交通事故が多いから警察などと連携して交通安全教室を実施する」

「地域のお年寄りの施設との交流を深める」

「市のお祭りに鼓笛隊が参加する」

「夏休みに水泳教室を開催する」

こういった事はそれぞれはどれも意味がある事ですし、子どもの育ちにもつながる事です。しかし、それらが塊となり、学校教育の中で核となる部分と絡まる中で、教師が本来大事にしなければならない部分が大事にできなくなってしまっているように思います。

先程のいじめの際にきちんと子どものケアができなかったことによって子どもが亡くなってしまったという事例は正にそれを示しています。いくら良い授業をしても、様々な交流をしても、いじめで苦しむ子どもにしっかりと寄り添い、ケアすることができなければ学校教育は根本から崩れていってしまうように思います。

学校において「行事などを減らす」ことは、本当に困難を伴います。「子どものためになるのだから残した方が良いのでは・・・」という意見が出てきます。先程も書いたように学校で行われることは、全て「子どものためになる」ことです。そういった視点では、どれも「子どものためになる」ので、減らすことができません。

ここで大切になるのが「優先順位」です。多くの学校がやっているからやるのではなく、それぞれの学校の置かれた状況(地域性、子どもの特徴など)によって、何をすべきなのかを取捨選択していくことが求められます。そういった中で学校の独自性、特色のようなものが定まってくるのだと思います。

「今が大きなチャンス」

こういった作業は非常に困難を伴います。しかし、今は大きなチャンスです。社会が学校での教師の働き方に関心を持っています。また、約10年に一度の学習指導要領の改訂の時期です。物事を一気に進めることのできる可能性を秘めています。より良い学校を作り、そこでしっかりと子どもの成長に寄り添い、教師自身も生き生きと過ごせるような状況になることを心から願います。私も微力ながら手伝いが出来たらと思っています。

鈴木 邦明(すずき くにあき)

帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。

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