2018.02.13
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言葉の学び:「落としましたよ!」

色々な原因から、言葉に遅れのある子供たちがいます。今回は、Aさんのエピソードから、言葉の学びについて一緒に学びましょう。

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子

色々な原因から、言葉に遅れのある子供たちがいます。
自分の子の発達が遅れているのではないかと疑い始めた保護者が、発達相談に訪れてくる際の最初の主訴は、言葉の遅れが圧倒的に多いです。
言葉は子供の全体的な発達の中から生み出されます。
そして、言葉が組織的に獲得されると、今度はその言葉が、その子供の色々な側面へ大きい影響力を持ちます。
それは、生活を言語化し、人々との交わり方を変え、自分の行動をコントロールし、自我感情を客観化し、概念や知識の形成へと繋がっていきます。
言葉をなんとか獲得しよう!なんとか話すようになろう!と懸命に学習している子供たちがいます。
そして、それを教育支援している多くの保護者や、学校の先生たちがいます。
今回は、Aさんのエピソード、言葉の学び:「落としましたよ!」を紹介します。

劇のセリフ「落としましたよ!」

Aさんは、小学部高学年です。
秋の学校祭「劇発表」の場で、Aさんは劇『シンデレラ』の王子役を務めました。
王子役には幾つかのセリフがありました。
中でも、シンデレラが12時の鐘の音を聞き、慌ててお城を去る時に、靴を落としていく場面。
落としたガラスの靴を拾い、シンデレラの後ろ姿に向かって言う王子のセリフは、名ゼリフでした。
「シンデレラ、靴を、落としましたよ!」
Aさんは、何度もこのセリフを練習しました。
大きな声ではっきりと言えるようにと、またシンデレラや皆に靴を落としたことが伝わるようにと、繰り返し練習をしました。
そして本番、Aさんは見事に「落としましたよ!」とセリフを言うことができ、大成功を収めました。

言葉の学び「落としましたよ!」

それから3カ月過ぎたつい先日のこと。
連絡帳にお母さんから次のようなエピソードが綴られていました。
「昨日はAと一緒にスーパーに買い物へ行きました。そこで見知らぬおじいさんと出会いました。
何気なくそのおじいさんの様子を見ていると、おじいさんは、ひょんな拍子にポケットからカイロを落としました。
私が「あっ!」と声を上げると同時に、なんとAは、おじいさんのカイロを拾ってこう言いました。
「落としましたよ!」
Aからカイロを手渡されたおじいさんは「ありがとうー!」と喜んでくださいました。
こんなことができるようになるなんて!
えらかったね!A!」

新学習指導要領「三つの柱」

Aさんのエピソードは、私達に多くのことを教えてくれます。
劇学習のセリフであった言葉を、そのまま機械的に理解し言えるようになっただけではなく、
Aさん自身が言葉を理解し、
能動的な活動を通して、選択的に自主的に使い、
自ら社会と関わり、役立つことができました。
これは新学習指導要領でいわれる育成すべき資質・能力の「三つの柱」
①「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
②「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」
③「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」
に通じる、学びの姿でした。

未来に向かって成長しようとしている子供たちが、
学びに関して持っている潜在的な力を、教育を通じて洗練させ、社会の中で生き生きと活躍できるように、
私達大人も生き生きと、共に学び合いながら連携し合って、
教育支援をしていきましょう!(*^-^*)

中川 宣子(なかがわ のりこ)

京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!

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