教師の「観察する力」の大切さ
子どもに関わる職にある人は「観察力」のある人であることが望ましいと思っています。思考力や発想力があっても、その元にある子どもの実態をきちんと掴むことができていなければ、その思考や発想も質の高いものではないはずだからです。改めて「観察力」について考えてみたいと思います。
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明
「朝、子どもの小さな変化に気付くことが出来るかどうか」
私は小学校の教師をしていた頃、朝、非常に注意深く子ども達の様子を観察していました。月曜日の朝は特に意識をして見ていました。朝、注意深く子どもを観察していると、色々な変化が見えてきます。朝から嬉しそうな子ども、逆に元気の無い子ども、ケガをしてバンドエイドを貼っている子どもなど色々です。普段とは違っている様子に特に注意するようにしていました。普段と違っている部分には、様々なヒントが隠れています。
もし、いつもは元気な子どもが、その日は朝から元気がないとします。まず、それに気付けることがとても大事になります。気付けなければ次に進むことができません。気付いたら、何が原因なのかを想像します。「体調が悪いのかな?」「登校の途中で転んだのかな?」「朝から親に叱られたのかな?」「宿題が出来ていないのかな?」そういった想像をしながら、その子に声掛けをし、探りを入れていきます。もし宿題が原因などであったならば、その場で適切な対応を取ります。そうすることで解決です。もし体調が悪いということが分かったならば、その日一日、少しだけ気にしながら過ごすようにします。「あまり調子が悪かったら先生に言うのだよ」と言っておくだけで子どもの中での安心感が随分と違ってきます。体育の授業があるような場合は、配慮をしてあげることもできます。また、親に叱られたということならば、その理由を聞いてあげ、フォローをしてあげることができます。
「注意が必要な場面」
教師が子どもの変化に気付いたけれども、子どもが「何でもない」と言う時もあります。これはかなり注意が必要です。教師に言いたくないような事でのトラブルの危険性があります。知られるのが恥ずかしいということも考えられます。いじめなのか、友達関係なのか、理由ははっきりしませんが、良いことではないと捉えるべきでしょう。とにかくアンテナの感度を高くして一日過ごすようにします。同じように教室の中などで子ども達を見ていても「○○さんは注意」という意識が教師の頭の中にあれば、視野の端の方で起こっている出来事なども見えるようになります。
上に書いたようなことは全て子どもの朝の変化に気付くことができたからできることです。気付いていなければ、何もできません。何らかの理由で心がザラザラとしている子どもは、小さなことで友だちとトラブルを起こしてしまうかもしれません。大きな怪我につながるようなことになってしまうかも知れません。
こういった観察を朝の短時間の内に全ての子どもにしていきます。クラスの中には家庭的な事情で、特にケアが必要な子どももいます。そういった子どもにはさらに注意深く観察をしていきます。
こういったことが朝の時間でスムーズにできるようになり、適切なケアができるようになると、学級が一日スムーズに流れるようになります。朝の段階で、トラブルのきっかけとなるものを減らすことができているからです。
「授業における『観察力』も重要」
また、別の意味で授業における「観察力」は大事です。それは授業の評価についてです。その時間の評価は指導案などに記載されています。しかし、毎回の普段の授業では指導案の作成まではしていないと思います。そこで大事になってくるのが、その時間のめあてを達成することができているのかということのチェックです。
一時間一時間の授業において、めあてに対して現在の状態がどのような状態にあるのかを見定める必要があります。学級全体と個々の子どもの学びの状態を見極め、次時のめあてを決めていくことになります。授業は、事前に学習計画を立てて取り組まれます。しかし、その計画通りに進まないこともあります。子どもの理解の状況をしっかりと把握し、やり直しなどが必要な部分を入れた上で、次の授業の計画を立てる必要が出てきます。
授業における「観察力」がないと、事前に立てた計画通りに進めるだけになってしまいます。それでは理解不足の子どもが出てしまい、そういったことを繰り返しているうちに、学習意欲の低い子どもが増えていってしまいます。
「おわりに」
教師の「観察力」について書いてきました。初任者なのか、中堅なのか、管理職なのか、また、学級担任なのか、専科担当なのかによって求められる「観察力」は少しずつ違いがあるのかも知れません。どういった立場であっても、子どもの状況を見極める「観察力」の能力を高める必要性があると思います。「観察力」は、教師の基礎的であり重要な能力の一つだと思います。今まで以上に意識することができたらと思います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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