支援を支援する~一枚の写真から~
寒暖の差が激しいですね。子供が風邪をひかないようにと、ご家族が気を配ってくださっている季節です。今回は、子供達の一番の支援者であるご家族の支援を支援することについて発信します。
京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子
この写真を見て・・・

この写真は、「デジタル連絡帳」の家庭通信を通じて、Aさんから送られてきた一枚の写真です。
この写真には「今日は夕飯づくりのお手伝いで、卵を割ってくれました。」という文章が添えられていました。
皆さんはこの写真を見て、どう思われましたか?
「上手に卵が割れているな。」「お手伝いをして、えらいなぁ。」
Aさんは、確かに上手に卵を割っていますね。
でも、この写真から何か他のことにも気がつきませんか?
そうなんです!
「卵を割る」というお手伝いの活動に対して、お椀が3個と手拭きが用意されている状況に気がついたと思います。
一枚の写真から
この一枚の写真から、次のようなことが推測できます。
Aさんはお母さんから声をかけられました。
「Aちゃん、ちょっと卵を割るのを手伝ってくれる?」
Aさんはお母さんに呼ばれて台所へ行きます。
すると、手前の小さいお椀に4個の卵が入っています。
その状況を見てAさんは、「今日のお手伝いは卵を4個割ること」であることを理解します。
お手伝いの活動の内容がわかる、つまり活動の見通しが持てるわけです。
次にAさんは横においてある黄色いお椀を見ます。
「割った卵の中身は、黄色いお椀に入れる」ことがわかります。
そして、「割った後の卵の殻は、ピンクのお椀に入れる」ことがわかります。
途中、手の汚れが気になったら、手拭きで拭けばよいこともわかります。
手前の小さなお椀が空になったら、お手伝いは終わり。
A さんは、写真のように「卵を割る」ことができ、家族から「ありがとう!」と褒められました。
もし、これらの状況がなかったら
しかしもし、これらの状況がなければ、Aさんはどうなっていたでしょうか。
「卵はいくつ割るんだろう?」
「割った卵はどこに入れるんだろう?」
「卵の殻はどうするんだろう?」
「手が汚れてしまった。気持ちが悪い。どうしたらいいんだろう?」
「いつになったらお手伝いは終わるんだろう?」
Aさんはきっと、不安でいっぱいになっていたことでしょう。
そしてもし、不安になったAさんの様子を見たら、こう言われたことでしょう。
「そこに殻を入れるんじゃないよ。」
「割っている途中で手を洗ったら水が入るじゃない。」
「4個って言ったでしょ。」
「もうやらなくていいわ。」
支援への気づき
この一枚の写真を見たとき、私たち教育者なら気づきます。
「お母さんの支援って、すごいなー!」
そして、このことをAさんのお母さんに伝えると驚いておられました。
「私はそんなつもり、全然なかったです。」
Aさんにお手伝いをさせてみよう、そうだ卵を割らせてみよう、というお母さんの思いが、自然にこのようなAさんを支援する状況を作っていたのです。
Aさんの特徴をよく知り、Aさんができるようにという願いのあるお母さんだったからこそできた、Aさんにとっての最高の支援でした。
これは「卵を割る」というお手伝いの活動だけでなく、日々の生活の中で、沢山ちりばめられている家族の支援の姿です。
私たち教育者は、子供達を支援している家族や周囲の人たちの支援に気づき、そのことを支援することも大事な役割の一つではないでしょうか。
支援を支援する
Aさんはその後、「卵を割る」お手伝いから、夕飯づくり、食卓のセッティング、ごみ出し等、今ではたくさんのお手伝いをして、家族から喜ばれ頼りにされています。
もちろん、その一つ一つにご家族の最高の支援があることは明らかです。
一枚の写真を共有することで、家族の支援に気づくことができました。
そして家族の支援に気づくことで、さらに次の支援に繋がりました。
このことは子供の成長・発達へと繋がりました。日々の教育支援をお互いに認め合い、連携・協力することによって、子供も家族も教師も、共に教え教えられ、共に育ち育てられる教育共生の姿となります。
さぁ、これから寒い季節に向かいますが風邪をひかないように、そして明日も子供たちの成長・発達のために、教育支援連携を実践してまいりましょう!

中川 宣子(なかがわ のりこ)
京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!
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