もうひとつのインターハイ
現在、本県を含む南東北三県でインターハイが行われています。県内各地に会場や案内所が設けられ、すべての高校の生徒や教員が選手や役員として動員されています。本校は定時制ですが、手作りの記念グッズを作成したり、のぼり旗に色を塗ったり、生徒を中心に様々な活動を行いました。町を歩けば、他県から来た選手団とすれ違うことも多く、会場に行かずともインターハイの雰囲気を感じることができます。
他方、定時制・通信制の高校生の県大会や全国大会は、インターハイとは別に開催されます。このたび本校からは陸上部と卓球部が出場を決め、私も卓球部の顧問として大会引率をしてきました。世間ではあまり知られていないのかもしれませんが、定時制の部活や大会の中で感じたことを書いてみました。
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭 山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路
南東北インターハイ
定時制である本校から出場する選手はいませんが、参加選手への手作りの記念品づくりや、県内各地に設置するのぼり旗の色塗り、本校文化祭でのPRブースの設置など、様々なところで関わってきました。生徒たちが記念品に書いたメッセージを見ると、選手への激励はもちろんですが、「ようこそ山形へ!」「山形を満喫してほしい」など、遠方から来た人たちに山形のことを知ってほしいという内容も多く見られました。
インターハイに出るかどうかに関わらず、本県の高校生や教員みんなで支えている大会なので、選手の皆さんには思う存分プレーしてほしいと思います。
定時制の部活
こうした内容を聞くと、「ほとんどやってないんだね」「楽だね」という人もいます。しかし、朝から学校が始まる時間ギリギリまで就労しているという生徒も多いです(ちなみに本校では、現在8割近くの生徒が働きながら通っています)。そう考えると、学校に登校した時点ですでに疲労困憊という状況も見られます。また、学校が終わる時間が近づくと、翌日の出勤のことを考えなければいけません。21:30まで部活をすると、電車で通学している生徒は終電になり、帰宅時間はだいぶ遅くなってしまいます。翌日朝から勤務となれば、まだ高校生の彼らにとってその疲れは大変なものだと思います。
「土日や夏休みは?」といえば、当然就労があります。学校のある日は早めに上がらせてもらっている生徒もいるので、むしろ学校がない日の方が忙しいと言います。部活がしたくてもできないという事情もあります。
全日制に比べて練習時間も短いので、競技としての水準は低いかもしれません。しかし、定時制の部活は、「部活」という部分だけを切り取って見てしまうことはできないものです。これだけ大変な状況でも部活をしたいという強い意志は、本当に素晴らしいと思います。
定時制の県大会
当日は朝に学校に集合し、全員バスに乗って会場に向かいます。定時制の大会は年に1回だけなので、部活のために貸切バスに乗るという経験も貴重なものです。会場は広いところが準備されていますが、生徒の人数が多くないので、だいぶ余裕があります。大会での生徒たちの様子を見ていると、普段よりも生き生きし、穏やかな表情で過ごしています。大会出場という緊張の場面ではありますが、この日ばかりは就労も学校での授業もありません。忙しい毎日から離れて、学校の友達と一緒に部活だけに集中できる貴重なひとときなのです。それは私たち教員にとっても同じで、普段は生徒の就労があると始業前や放課後にゆっくり話をする時間がありません。大会では観覧席や練習会場でいろんな話ができます。それは本校だけでなく、大会全体の雰囲気も、温かでゆったりした感じがあり、どの学校も同じような事情を抱えていることが分かります。
ちなみに本校からは陸上部とバドミントン部、卓球部が出場し、多くの種目で上位に入賞しました。私が顧問している卓球部は数年ぶりに男子シングルスで3位入賞し、陸上部3名とともに全国大会への出場権を獲得しました。入賞した生徒は学校と就労を両立し、部長として部活を引っ張ってきた生徒で、コツコツ練習してきた努力が報われました。本当によく頑張りました!
定時制の全国大会
全国大会に出場するからといって、あまり練習時間を増やすことはできません。それでも、本人の希望で、全日制の練習に混ぜてもらったり、夏休み中も就労後の夕方に部活をしたりするなど、できる範囲で工夫して練習を重ねました。東京に着いてからも渋谷の卓球場を借りて練習しました。
正直なところ、夏休みに入るまでは学校と就労で忙しく、あまり大会に目を向けられない様子でした。私としても、3日間も仕事を休んで参加することに対してどのように思っているのか、やや不安もありました。しかし、当日の東京行きの新幹線の中で「この3日間のことを、ずっと楽しみにしてた!良い試合したい!」と話してくれました。私が選手を励ますべきところ、逆にこちらが励まされた格好になってしまいました・・・。
全国大会に出場している他県の選手も、本校生徒同様、働きながら学んでいる生徒がいます。また、年代も様々で、10代から70代まで、幅広い年代の選手が参加しています。こちらの雰囲気も県大会同様、温かな印象を受けました。運営する方々はもちろん、審判の方も選手に温かく接しており、試合後には非常に丁寧に今後に繋がるアドバイスまでいただきました。きっと大会に携わる方々全員が、選手たちの置かれている現状を理解しているんだと思います。
結果は初戦で敗れてしまいましたが、選手は頑張りました。初めての全国の舞台に物おじせず、堂々とプレーできていたと思います。本人も高校生活あと1年残っているので、「来年もまた全国に出たい!」と話していました。また、一緒に行った練習パートナーの生徒も、「来年は自分も!」とやる気になっていました。
そんな彼らですが、帰りの新幹線の中で「明日も朝から仕事です」と元気に話していました。ちなみに友達だけでなく、職場にもお土産を買ったそうです。定時制の部活や県大会、全国大会を通して、生徒たちも良い経験になっていると思いますが、私自身もあれこれ考えさせられました。インターハイに比べて規模も小さく、あまり知られていない大会なのかもしれません。この記事を読み、全国各地でこういう高校生たちが頑張っているということを知ってほしいと思います。
高橋 英路(たかはし ひでみち)
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭
クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。
同じテーマの執筆者
-
明光学園中・高等学校 進路指導部長
-
陸中海岸青少年の家 社会教育主事
-
広島県公立小学校 教諭
-
石川県金沢市立三谷小学校 教諭
-
岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任
-
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表
-
静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
-
旭川市立大学短期大学部 准教授
-
兵庫県立兵庫工業高等学校 学校心理士 教諭
-
札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授
-
ユタ日本語補習校 小学部担任
-
大阪市立野田小学校 教頭
-
東京都品川区立学校
-
神奈川県公立小学校勤務
-
大阪市立中学校教諭、日本キャリア教育学会認定キャリアカウンセラー
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)