2017.07.21
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個人内評価の大切さ

 高校にいる生徒たちは選抜試験を経て入学してくることもあり、小中学校に比べるとクラス内での個人差は小さいという見方もあるかもしれません。
 それでも私の勤務校である高校の定時制には多様な生徒たちが学んでおり、一人ひとりが強い個性を持っていると感じています。
 私たち教員は、そんな多様な生徒たちを正しく評価しなければいけません。
 今回の記事は、日ごろから大事だと感じている「個人内評価」について書いてみました。

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭  山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路

絶対評価と相対評価

学校における評価には様々な方法があります。よく用いられる「絶対評価」と「相対評価」について確認したいと思います。それぞれに長所・短所があるので、そこを踏まえた上で適切に使い分けていくことも必要だと思います。

1.絶対評価
 目標に対する到達度合いは、「絶対評価」「目標に準拠した評価」などとと呼ばれています。生徒が属している集団内の位置に関わらず、目標に到達していれば高評価が得られます。生徒にしてみれば、何ができればよいのかが分かりやすいので、また頑張ろう!という気持ちにもなると思います。
 他方、目標の設定が適当でない場合、全員が高評価または低評価を受けてしまう恐れもあります。同じ出来具合であっても、担当者が設定する目標によって評価が変わってしまう場合があるということです。そうした場合、外部から見た客観性という点でも課題があると思います。

2.相対評価
 集団の中での位置を示す評価は、「相対評価」「集団に準拠した評価」と呼ばれています。それぞれの評価ごとに人数枠を設けるもので、上位〇人(〇%)が「5」、〇人(〇%)が「4」…といった具合で評価します。こちらは同じ出来具合であれば、誰が担当者であっても同じ評価になります。
 ただ、集団全体が好成績の場合はどんなに努力しても高評価を得られないこともあります。逆に、集団全体の成績が悪いと、大して努力せずとも高評価になってしまいます。いずれにしても、自分の成績は周囲の生徒の成績に左右されるため、何ができるようになれば高評価が得られるのかが分かりにくいということになります。


個人内評価

前述の「絶対評価」「相対評価」に加え、「個人内評価」というものがあります。
 これは、生徒個人にスポットを当て、その生徒の様々な状況に応じて設定した目標に対する達成度合いや、以前の状況と比較した進歩の度合いを評価するものです。自分に合った目標を設定してもらうことができ、自分の頑張りをそのまま評価してもらえるので、生徒にとってのメリットは大きいと思います。
 また、個人内評価の目標設定にあたっては、その生徒の特性を丁寧に把握する必要があります。さらに、目標を達したか否かというAll or Nothingではなく、進歩の度合いも評価するため、途中経過も注意深く見守る必要があります。教員が生徒一人ひとりを丁寧に見ていないとできない評価であると言えます。逆に言えば、個人内評価をしようとすると、生徒一人ひとりをしっかり見ることになるので、教員にとっても非常に意味のあることだと思います。点数だけを見れば同じ80点であっても、生徒一人ひとりの特性や普段の授業での様子、授業外での様子など、様々なことを見れば見るほど、80点という点数の中に、まったく違った印象が見えてくることもあります。その過程で思わぬ発見をしたり、次の指導に繋がるヒントを得たりすることもあります。
 一方で、外部から見た信頼性や、他の生徒との整合性など、クリアしなければいけない課題は多く、成績票などに記載する最終的な評価として活用するのは難しい状況にあります。

勤務校での個人内評価

私の勤務校は1クラスの定員は40名ですが、実際に在籍している人数は1クラス10名程度で、高校では特殊な環境かと思います。生徒の人数が少なくなると、学校行事や部活動などの実施に支障をきたすなど、悪影響もあります。
 しかしながら、少人数の強みを生かしてできることもたくさんあります。また、少人数だからこそマッチする手法などもたくさんあると思います。その一つが、「個人内評価」ではないかと考えています。
 1クラス10名といっても、まさに十人十色、個性豊かな生徒ばかりです。日中働いていて1日の生活時間の中心は学校でなく就労先という生徒も多くいます。夜遅くまで部活をしたのに翌朝早くから勤務になったり、連休といっても逆に就労が忙しかったり、「働きながら学ぶこと」は言葉以上に本当に大変なことだと思います。そうした中で、いわゆる多くの高校生を対象としているような一律の基準を当てはめることは難しい状況にあります。
 こうした生徒たちを個人内評価という視点で見ると、生徒たちの頑張りがよく見えてきて、声掛けやアドバイスもしやすくなったと感じます。全員に同じことを求める必要はないので、この生徒にはどんな目標が適しているのかを考えることになります。そのために、他の科目の授業の様子を聞いて、「この生徒は、〇〇のような活動が苦手で、▲▲のような活動は得意みたいだから、それを踏まえて…」といった具合に、職員間の会話の中でも生徒の様子についてのアンテナを高く張れるようになりました。
 ただ、最終的な「評定」に個人内評価を適用することは難しいので、そこは工夫が必要だと思います。とりあえずは授業プリントなどに、個別コメントを書く機会を増やし、そこには個人内評価を目一杯書くようにしています。また、試験の答案を全員に面談して返却したこともあります。そこでは、点数の良し悪しだけでなく、普段の頑張りや成長度合いについて私が感じていることを生徒に伝えるようにしました。ちなみに、個別コメントも面談での答案返却も、肯定的なことだけに絞り、否定的なことは言わないようにしています。「先生と一対一で面談=説教」というイメージを持つ生徒もいるようで、そうでないことが分かると驚いた様子でした…。意外と自分の頑張ったところやその度合いに気づいていない生徒も多く、言われて初めて自覚し自信を持ってくれるということもありました。
 せっかく頑張っていても、成果が出ないと自分の頑張りを自覚しづらく、周囲からも何も言われなければ、努力をやめてしまう危険性もあります。これからも「〇点とってスゴイ!」「〇位おめでとう!」という評価以上に、個人内評価の視点での声掛けを大切にしていきたいと思います。

高橋 英路(たかはし ひでみち)

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭


クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。

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