2020.11.27
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先生がかける「おまけの言葉」が、その後の生きる糧になる

先日、Café LaLaLa(東京都江東区)のオーナー・中澤照子さんにお話を聞く機会がありました。元保護司の彼女の口からあふれ出た、先生方への真摯なメッセージを、今、伝えずにはいられません。

東京都内公立学校教諭 林 真未

イラスト/有田りりこ

中澤照子さんって?

中澤照子さんのお名前はご存じなくても、「更生カレー」と聞けば「ああ、あの……」とお分かりになる方もいるかもしれません。
若い頃は、歌手・小林幸子さんのマネージャーとしてバリバリ仕事をこなし、ご結婚されて専業主婦となってからも、地域で困っている人の相談にのったり、ネグレクトの子どもたちにご飯をふるまったり。その姿を見込まれ、50代の頃に保護司の道へ。
非行少年たちに無償でカレーをふるまい続ける姿は、たびたび新聞、雑誌、テレビ、ウエブサイト等の各メディアで紹介され、いつしか「更生カレー」という言葉が生まれ、2019年には、カレー・オブ・ザ・イヤー(社会貢献部門)も受賞されました。

メディアを通じて、なんて素晴らしい方なのだろうと思っていましたが、実際にお目にかかった中澤さんは、想像以上に聡明で、魂を感じさせる、そして、とても優しい方でした。


中澤照子さんからのメッセージ

「先生方へメッセージを」という私のリクエストに応えて、中澤さんが語ってくださった言葉の数々を、そのまま、ここに再録します。一人でも多くの先生方の目に触れることを願って。

「先生方には、力になるものは全部使って、相手に思いを伝えてほしい。

せっかく心と身体があるんだから、全部無駄にしないで、それを惜しみなく使って。
とくに目の力。
目線一つで注意をすることだってできるんです。
相槌、アイコンタクト、目線を合わせるなど、目の力を最大限生かしてほしい。」

「自分は教育者だというイメージにとらわれないでください。
演出家でも調理人でも、なんにでもなったつもりでやってほしい。
調理人になったなら、
甘っちょろく育っている子には、辛子やタバスコを。
甘え足りない子には、はちみつやお砂糖。
同じ甘味でも、オレンジママレードがいいかもしれないし、他のものがいいかもしれない。
同じ胡椒を使うにしても、粗挽きがいいのか、粉がいいのか。
その子に何が必要なのか、いろいろな調味料を、心の中に備えていてほしいのです。」

「私がかかわった子達は、みんな先生が大嫌いです。勉強も大嫌い。でも学校は好き、仲間がいるから。
校長、副校長、生活指導の先生、みんな敵だと思っています。
私は『だれか一人でもいいから、あなたのことを気にしている先生がいるはずだから、そういう人を見つけなさいって言うんです。」

「声かけてきてくれた先生のことは、みんな覚えています。
今はたいへんだろうけど、何年後かに気づく子がいるかもしれない。

今は、めげないで種をまいてください。
声かけは種まきです。
芽は出ないかもしれない。雨風に飛ばされて無駄になるかもしれない。
90%以上無駄になるかもしれないけれど、でも、いくつかはどっかで根づいて芽を出すかもしれない。
無駄になるかもしれないけれど、やるしかないんです。」

「声かけは種まき。無駄かもしれないけれど、やるしかない。」
……名言ですね。

先生がかける「おまけの言葉」が、その後の生きる糧になる

このほか、まだまだたくさんのお言葉を頂いたのですが、数々の金言の中でも、私がもっとも心に残ったのは、下記の言葉です。

「その子にとって、自分のことをちょっと気にかけている人になるのです。

ちょっとでも気分のいい時間を作ってやるのです。
おはよう』と言うときに、『今日はどう?』『がんばっているね』と一言添える。おまけをつける。 
先生がそういう声かけを日々心がけていれば、ぜったいなんとかなります。」

学校の先生をしていると、学校にいるときだけの支援では、この子の力になれないんじゃないかと思うことがあります。
とはいえ、教員という立場を超え、その子の家庭生活にまで深く関われるかといえば、その余裕はありません。子どもとその家族の福祉的支援はとても難しく、そして片手間でできることでもありませんし、多くの先生が、すでに、日々の授業準備だけでもプライベートの時間を多く割いてしまっています。

中途半端な支援ほど罪深いことはないので、結局、私たち教員にできるのは、先生の域を超えないでできることだけ。そうなると、担任している間はともかく、担任を外れた後は、校内で見かけたときに声をかけることぐらいしかできません。
そんな自分の無力さに、ずっとやるせなさを感じていました。

だから、「先生がかける、『おまけの言葉』が、その後の生きる糧になる」と、たくさんの非行少年たちを見てきた中澤さんに言っていただいたことは、本当に救われる思いでした。

私にできることはほんのわずか、いや、もしかしたら、まったく無駄なことなのかもしれない。
けれど、中澤さんのありようを見習って、そして、その言葉を心に刻んで、
明日からも、めげずに「おまけの言葉」をかけ続けていこうと思います。

※注;下記サイトでは休業中の案内ですが、現在Café LaLaLaは営業を再開されているそうですので、来店の際は事前にお問い合わせください。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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