「できない」から「できる」へ!私たちができること
子ども達は「夏休み」に入りました。今年度も4月からバタバタと、突っ走った毎日でしたね。子ども達が「夏休み」の間に、これまでの教育実践を振り返り、自分自身の掃除をして、今後の教育実践計画の改善、具体的な教材研究等に励みたいですね。
今回は、『掃除の時間』の事例をもとに、「できない」から「できる」へ!私たちができることについての話です。
京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会 中川 宣子
『掃除の時間』
小学校では、「特別活動」の一環として、『掃除の時間』を設定している学校があります。
本校においても、「掃除を始めますよー!」という放送の合図とともに、各教室や廊下の『掃除の時間』が始まります。
各学期末には「大掃除」の時間も設定し、日頃使用している教室等に感謝の気持ちを込めて、清掃しています。
「掃除って、できないのかな?」
『掃除の時間』が始まると、子ども達はそれぞれに、ほうきやちりとりを手にします。
しかし、ある教室では、しばらく時間が経っても、一向にゴミが集まりません。なぜなら子ども達は、ほうきやちりとりを持ったまま教室中を歩いたり、その場に立ちすくんだりするだけだからです。
「さぼってないで、しっかりほうきで掃く!」
と、先生達の声が高まります。
そのうちA先生は、一人の子どもに寄り添い、子どもと一緒にほうきを持って掃き始めます。
一人に寄り添っては、また次の子ども、そして次の子どもへと順番に指導していきますが、子ども達はなかなか自分から掃除をしようとしません。
「掃除って、できないのかな?難しいのかな?」
「そうか!」できない理由「なぜ?」
そこである時、子ども達の様子をよく観察することにしました。
すると、一つの事に気がつきます。
それは、子ども達の視線が、ゴミの落ちている床に向いていないのです。
教室に落ちているゴミのほとんどは、小さい埃や紙くずですから、注意して床を見なければ、ゴミを発見することはできません。
「そうか!子ども達は、ゴミの存在に気がついていなかったのかもしれない。それなら…。」
この事に気がついたA先生は、新聞紙を持ってきて細かくちぎり、教室中に撒き始めました。
するとどうでしょう!
子ども達は、足元の新聞紙に目をやり、ほうきで掃き始めたのです。
さらに、新聞紙を集める先には、一辺30センチ程の正方形の印をつけておいて、
「この四角まで、持ってきてね。」と伝えました。
すると、教室のあちこちから、子ども達一人一人によって、新聞紙の破片が、正方形枠に集められてきました。
同時に、教室に元々落ちていた小さな埃や紙くずも集まりました。
おかげで教室はピカピカです。
『ゴミの視覚化』
A先生は何をしたのでしょう。
新聞紙の破片を教室中に撒いて、あえて見つけやすいゴミを作ったのです。
つまり、『ゴミの視覚化』を行なったのです。
この『ゴミの視覚化』によって、子ども達はゴミの存在に気づき、ゴミを意識できたことでゴミを掃くことができ、結果、掃除をすることができたのです。
子ども達は、掃除をさぼっていたのでもなく、掃除ができないのでもなかった。
本当に「できない」?
私たちはとかく「何回も言わなければできないな」とか、「やっぱりできないかぁ」と、子ども達はまだ「できない」ものと思いがちです。
ご家庭からの情報の中でも、着替えや整理整頓、お手伝い等、毎日の生活場面の内容について、我が子はまだできないと思い込んでいるところがあって、ついついお母さんが手や口を出してしまったという事例が多々あります。(『デジタル連絡帳』より)
しかし、ちょっとそこで立ち止まって考えてみましょう。
子どもは本当に「できない」のでしょうか?
私たちにできること!
今回の『掃除の時間』の事例のように、できない理由「なぜ?」を考えることで、
「そうか!もしかしたら…こうすれば、できるかもしれない。」
といった、子どもが「できる」ための支援に繋がるはずです。
この「できる」るための支援によって、子どもは持てる力を、十分に発揮することができます。
そして、「できる」ことが一つ二つと増えていくと・・・
それは、子どもにとって嬉しいこと、ご家族にとっても嬉しいこと、まさに子どもの成長・発達そのものです。
「できない」から「できる」へ!
私たち教育支援者ができることです。
夏休み・・・私たちも一つくらい、「できない」から「できる」ことが増えるといいなぁ。
中川 宣子(なかがわ のりこ)
京都教育大学附属特別支援学校 特別支援教育士・臨床発達心理士・特別支援ICT研究会
「特別支援教育とは、子ども達の特別な才能を学校・家庭・地域の連携により支え、教え、育てること」と考えています。日々の教育実践を、情報発信・交流し合い、共に子ども達の成長・発達に役立てていきましょう!
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