学び多き研究授業
6月16日に筑波大学附属小学校、20日にお茶の水女子大学附属小、23日に千葉大学附属小学校の研究授業を参観しました。
ちょうどその二週間は、私が担当している学生が教育実習でした。
通常の授業がなかったので、多くの学校を訪れることができました。
そこでの学びについて書きたいと思います。
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明
「はじめに」
筑波では「決める」がテーマでした。
お茶の水では「てつがく」が学校教育活動の中央にありました。
千葉では「楽しい」をテーマに全校で取り組んでいました。
それぞれの学校でテーマは違っていても共通していたことが「思考」しているということです。
学びの主体者である子ども達がどの学校でも深く「思考」していました。
「『決める』 筑波大附属小」
筑波でのテーマである「決める」ためには、考えなければ「決める」ことができません。
いかに子ども達が考える場を設定し、自分なりの考えで「決める」ことができるのかということがポイントだったのだと思います。
また、「決め直す」ことの大事さも話題になっていました。
一般的な言葉では「ゆさぶりをかける」に近い感じでしょうか。
一度、子どもが「決めた」後、色々な体験によって「決め直す」というものです。
子どもが状況判断をし、自分にとって何が必要であるのかを判断することが求められます。
こういった学びの積み重ねが子どもを成長させていくのだと思いました。
授業を参観した体育においても、子どもが様々な場面において自分で「決める」ことをしていました。
学びの場を作ることが、教師の大きな役割なのだと改めて感じました。
「『てつがく』 お茶の水女子大付属小」
お茶の水で見せてもらった6年の国語の授業は衝撃的でした。
一般的に目標とされる「学習規律の徹底」などとは、違った次元での学びが行われていました。
授業の中での子ども達のやり取りは、本当に質の高いものでした。
説明文に対して、それぞれが自分なりの意見を持ち、解釈などについて議論を行っていました。
「てつがく」を学校教育活動の中心に据え、「てつがく」の教科だけでなく、他の教科においても、積極的に取り組んでいました。
低学年からとても丁寧に積み上げているという印象です。
答えが無いものについてじっくりと考え、合意形成をしたり、それぞれの課題を見出したりということの積み重ねでしょう。
世の中にある問題の多くはたった一つの答えがあるものばかりではありません。
「一方を立てれば、もう一方が立たず」という問題がたくさんあります。
そういった中で、より良い答えは何なのかということを考えていくことが大切なのだと思います。
これからの時代は小学校段階からそういったことに積極的に力を入れて取り組んでいくことが求められてくるのだと思います。
学習指導要領の改訂、大学入試制度改革などによって、学校における学びのあり方が変わろうとしています。
そういった際にお茶の水の「てつがく」の実践は非常に参考になるものだと思います。
「『楽しさ』 千葉大附属小」
千葉では、私がこの所ずっと関心がある「楽しさ」がテーマでした。
「楽しさ」というものを学校教育において推進していこうとすると様々な難しさがあります。
日本語の「楽しさ」には、様々な意味が含まれ、それぞれの人の受け取り方が違ってくるからです。
例えば、funny(おもしろおかしい)もinteresting(興味深い)も日本語では「楽しい」という意味になります。
「楽しさ」の定義をきちんとしないと議論が噛み合わなくなります。
また、体育であれば「基礎基本の技能の習得」はどうするのだという問題も出てきます。
ところで、「体育授業における楽しさ」は、私が研究テーマにしているものの一つなので、授業を見たり、研究会に参加したりする中で「楽しさ」とは何なのだろうと考えていました。
一般的に「体を動かすことが楽しい」というものがあります。
しかし、これは運動が得意な子どもにとっての「楽しさ」なのだろうと思いました。
運動が苦手な子どもにとっては、体を動かすこと自体が楽しいことではないのだと思います。
体育における「楽しさ」は他の教科以上にそれぞれの子どもによって違うのではないかということを今考えています。
運動が得意な子どもは得意な子どもなりの「楽しさ」があります。
運動が苦手な子どもは、得意な子どもとは違った「楽しさ」があるのだと思います。
あまりこういったことに関する研究は進んでいないと思われます。
運動があまり得意でない子どもは、生涯体育の視点でとても重要な存在です。
彼らは将来、生活習慣病のリスクの高い層だとされています。
最近の研究では、成人での運動経験と子ども時代の運動好意感は関連があるとされています。
簡単に言うと「大人で運動をしている人は、子ども時代に運動が楽しかったと思った人」ということです。
子ども時代に運動の楽しさを味合わせることの大切さがよく分かります。
子ども時代に運動嫌いになってしまうとそれが一生涯影響を与えてしまいます。
それらは、生活習慣という形でその人を形作っていきます。
子どもの運動指導に携わる人の責任の大きさを感じます。
本当に多くのことを考えさせられた千葉の授業でした。
また、千葉では、午前中の研究授業の後に、午後から教育フェアというものが開催されていました。
二部構成で、前半は実技研修、後半は新学習指導要領についての講師の話でした。
どちらとても良く練られた内容で、良い学びがありました。
様々な学びのあった千葉での授業研究会でした。
ところで、それぞれの研究授業では、子どもの「思考」だけでなく、教師の「思考」もありました。
千葉において私が「運動の楽しさ」について様々に考えたように、良い研究授業は参観者に考えさせる授業なのだと思います。
「授業者が考えていること」と「参観者が感じたこと」が互いに刺激し合い、教師の良い学びにつながるのだろうと思います。
そして、講師などからのコメントも学びの良いきっかけとなります。
どの研究会においても、質の高い議論がされていました。
ただ聞いているだけの研究会は主流ではないのでしょう。
少人数で、疑問点や改善点などを出し、それらを全体化していくというやり方がやはり学びがあります。
参加者がお客さんではなく、主体者として参加していくような研究会が望ましいです。
「新しい教具の発見」
筑波では、体育の授業における興味深い用具の発見もありました。
写真にある小さめのマットです。
サイズは60センチ×120センチです。
通常、小学校で使われているマットの1/3位の大きさです。
非常に便利そうでした。
持ち運びが容易ですし、重ねて使うことで高さを出すこともできます。
実際に見ることで、感じることがあります。
カタログだけでは分からない良さを実感できます。
こういった新しい発見があるのも研究授業などに参加する良さです。
「終わりに」
これまで小学校の学級担任をしており、空き時間が少ないということから、今回見たような研究授業をたくさんは見てきませんでした。
若い先生たちにおすすめしたいのは、なるべくこういった授業を見てみることです。
土曜日に研究授業を設定してくれている学校もたくさんあります。
やはり質の高い授業を実際に見ると、感じることがたくさんあります。
また、教員を志望する学生は、時間のある学生のうちに出来る限り多くの授業を見ることをお勧めしたいです。
自分の中での授業のイメージを作っていく上でとても参考になると思います。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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