はじめに
4月を迎えるにあたって,教師は期待と不安でいっぱいになりますね。
特に若い時のプレッシャーは,計り知れないものだと思います。
教育の世界では,新年度が始まって3日間を,よく「黄金の3日間」と言います。
この時期の子ども達の多くは,教師の話を素直に聞き,すごくやる気に満ちています。
これは,子ども達も,大きな期待と不安をかかえ,緊張感を持っているからだと思います。
だからこそ,その集団のスタートを,いかに意図的に仕組み,作るかによって,1年間が左右されるといっても過言ではありません。
そこで,ここでは私の実践している学級開きで大切にしている事の一部を整理したいと思います。
子ども達の実態に応じてご活用いただけましたら幸いです。
〇学級開きのヒント①「人間関係づくり」
何よりも大切なのは,人間関係だと思います。
特に上級生になればなるほど知り合いも増えますので,勝手なイメージからスタートしたり,友達の噂で,相手の性格を判断したりしてしまいがちです。
そしてこの先入観こそが,後々いじめやトラブルの原因になることが多く,最初に,お互いの人間関係をほぐし,柔軟にしていく必要があります。
そこで,私は以下の様な活動を入れることで,人間関係を見つめるきっかけを作ります。
・バースデーチェーン
目的:表情や身振り手振りのコミュニケーションを促す
方法:時間を計りながら,無言で身振り・手振りを使って誕生日順に一つの大きな輪を
作る
・さいころトーキング(自己紹介)
目的:相手に自分の考えを伝える
方法:さいころをふり,出た目のお題の自己紹介をする
例)1自分の家族について 2好きな食べ物
・聖徳太子ゲーム
目的:協力のよさを感じさせる
方法:班のメンバー(4人~7人程度)が,「せーの」で同時に単語を叫ぶ。
その単語を他の班があてる。
例)トマト きゅうり なす ピーマン を同時に叫ぶ
・心地の良い聞き方トレーニング
目的:相手を受容する心地よい聞き方で,相手を受け止める人間関係をつくる
方法:2人1組で,向かいあった状態で,片方がお題に関する話題を一生懸命話す。
もう片方の子どもは,最初は適当に聞いてもらう。2回目に,うなずくなど,
話す人がうれしい聞き方で聞く。
いずれの活動でも,必ず活動の最後には振り返りを行い,価値付けを行います。
まるでゲームの様でありながら,教師の意図的な活動によって,4月の当初の緊張感を一気に良好にすることが大切だと考えます。
〇学級開きのヒント②「組織づくり」
「係活動」や「会社」など,様々な呼称で学級組織を作っていると思います。
私は,低学年のうちには「どんな係が必要なのか」をしっかり見渡せる力をつけ,中学年では係を自分達で何が必要か考えさせ付加・修正していき,高学年では学級で何の役に立てるか,係+アルファーのことに挑戦させます。
また,中学生は逆に集団に埋もれていくと,班の中にも序列が生まれ,係の中でしっかり活動をする人と,人任せな人が出てきます。
なので,係の中で一人一役以上の「責任」を感じて活動するようにします。
いずれの学年でも大切なのは,「組織」を意識させることで,所属感や必要感を感じさせることです。
「仕事があるから仕事をする」という意識ではなく,「学級をよりよくするために・・・」という立場から,係を活用してはいかがでしょうか。
高学年以上では,係とは別に,自分が学級組織のためにできることを考え,実行します。
このことで,自分が組織に貢献しているという自己効力感が生まれます。
「大きな声で10人以上あいさつ」「無言で掃除をする」など,一見自分のためのように見えますが,その頑張りを教師が集団に還元することで,組織がみるみるうちに変わります。
「あいさつを元気にしましょう」という教師の指示よりも,「Aさんのあいさつ素晴らしいよね。みんな真似してみようか」の方が,よりよき姿が具体的で,全体の向上に繋がるようです。
〇学級開きのヒント③「指標づくり」
まず1年間を見通した,一貫性のある「教師の指標づくり」を行う必要があると思います。
学級訓(スローガン)づくりをすることが,その第1歩です。
私はとにかく,いち早く学級訓を作成し,掲示します。
クラスの向かう指標がないと,学級の目指す方向が定まらず,一貫性がないからです。
私は,「教師のメッセージを伝える」→「子ども達の思いを出し,具現化する」という順番で,いつも作っています。
子ども達は,教師の意図を組みながら,さらにそこに自分の意見も加えながら,クラスの方向を思案できるからです。
しかしよくあるのは,その学級訓が,絵に描いた餅になっていることです。
「みんななかよし」「ベストフレンド」「みんなは一人のために一人はみんなのために」
せめて教師の話の中で,時折話したり,意識させたりしなければ,子ども達にはただの風景の一部にしかなりません。
私は,様々な活動で,必ず学級訓などと繋げ,意識させます。
例えば「つながろう 心の ピース」という学級訓を作ったとします。
2組だからピースで,手の絵をピースで書き,さらには,背景はパズルのピースをつなぎ合わせます。
ピースは英語で平和ですから,裏の伏線にもなっています。
運動会では,「あなたの1ピース」として,頑張ることをつないだ掲示物を作ります。
また,「私のピース宣言」と書いた紙に,2つ自分が今週頑張ることを書きます。
このように,学級訓を,活動をつなぐ1年間の指標として,大切にしてみてはいかがでしょうか。
〇学級開きのヒント④「ルールづくり」
ルールがない学級は,トラブルやけんか,いじめが多くなる傾向があります。
よって,きちんとルールを教師が教えたり,子ども自身が考えたりする必要があるのですが・・・
例えば,「赤信号は渡らない」という交通ルールがあったとして,「誰も見ていないから赤信号だけど渡ってもいい」という考えがあるとします。
しかし,ルールを守らなければ,それ相応のリスクがあります。
そのことが分かっていれば,赤信号の例えでも,「見ていないけれど,赤で渡ると車とぶつかるリスクが大きい」ということを考えることができますよね。
つまり,ルールには必ず目的や意味があります。
まずは,この3日間でルールの大切さや意味を確認し,事前にそのような場面を想定した予防的生徒指導が必要ですよね。
教師が事前に,ルールについての種まきをすれば,ルールが守れて上手くいったことへの「ほめる指導」ができます。
しかし,その指導がなければ,ルールが守れなかったことへの「叱る指導」になってしまいます。
例えば,移動教室の際に「無言で移動しよう」というルールがあったとします。
理由を明確に伝えることで,守る事への意識が高まります。
理由は,「ほかのクラスが授業をしている邪魔になるから」です。
出来た時にはほめる事,出来なかった時にはルールを守らなくて誰に迷惑をかけたか気付かせていく必要と,改善策・次の目標設定をするとよいと思います。
「おい,廊下は静かに歩け!」「しゃべったら引っ張り出すからな!」
いくら怒っても,いつまでたってもルールとして身に付きませんよ。
おわりに
ここに挙げたのはほんの一部の指導についてですが,最初の3日間はやることも多いですし,何となくお互いのペースをつかめずにいると思います。
しかし,ここで学級風土の土台が出来なければ,子ども達の好きな方向性に学級の舵を委ねることになります。
ポイントを押さえながら,ご自分の手立てを見つめてみてください。
今年も素敵な出会いに,期待しましょう!

今林 義勝(いまはやし よしかつ)
福岡市立千早西小学校 教頭 今林義勝
小中人事交流での小学校と中学校の両方の経験を活かし、9年間を見通した教育活動を行っています。また、「活用型問題解決による理科」の実践研究が現在のテーマです。
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