2022.12.23
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給食とICTで昆布ロードをつなぐ(3) 【食と文化・ICT】[小学校全学年]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。
第191回目の単元は
「給食とICTで昆布ロードをつなぐ」交流学習の最後の報告です。前回は、昆布の収穫や昆布料理についてのやり取りをしながら利尻と渡嘉敷の小学校の子どもたちが昆布への理解と関心を深めた場面を報告しました。今回は、その後の展開をお伝えします。

授業情報

テーマ:食と文化・ICT

学年:小学校全学年

1 昆布ロードと給食献立の話

玉城栄養教諭からの説明

阿波連小学校の玉城栄養教諭から、月曜日には旧暦の大晦日に食べるソーキ汁、火曜日には旧正月のクーブイリチーを給食に出したことなど説明しました(画像の赤丸で囲んだ部分が昆布料理)。スーパーの食品売り場の昆布の写真を通して、たくさんの昆布が並んでいることから沖縄県では昆布は身近な食材であることを確認させました。
利尻小学校の小笠原栄養教諭は、利尻小では月曜日にソーキ汁とそっくりな肉汁を食べたことを取り上げ、おいしかったこと、肉が厚くてあごが疲れたとの感想を児童から引き出しました。

昆布のよさ

続いて、玉城栄養教諭が『ぞくぞく! 目からウロコの琉球・沖縄史』(上里隆史著 ボーダーインク)をもとに琉球王国時代の王様の日常食の献立を紹介。その献立の中から「昆布」を見つける活動を行わせました。「昆布は沖縄県ではとれないのに昔からどうやって食べていたか」と問いかけ、北前船によって北海道でとれた昆布が富山県、鹿児島県を経由して、沖縄県に来ていたこと、その後、中国へ運ばれ、中国の漢方薬を手に入れていたことを紹介しました。
琉球王国は富山県と中国をつないでいたこと、沖縄の人は相手の国の人をもてなすのがとても得意なので食文化を取り入れながら独特の食文化をつくったことを説明し、海の道を昆布ロードと紹介しました。

海の道を運ばれ、高温多湿の沖縄に根付いた昆布のよさを整理し、大切な食文化を守り続けるため行事食などを給食の献立に取り入れていることを伝えました。

2 利尻にとっての昆布の大切さ

昆布干し

小笠原栄養教諭からは、たくさんの人が働いて昆布を収穫して乾燥させていること、形や大きさを揃え、15キロの箱に入れて検査に出して合格したものを届けていることの説明がありました。
最後に、2021年度の利尻富士町の昆布の生産額は、2億7779万円であり、利尻島の人々にとって大きな収入源であること。
現在は養殖昆布の割合が増えていて、利尻昆布は利尻島の生活を支える大切な収入源であることを伝えて、授業を終えました。

3 2つの小学校の児童にとっての昆布

「学習前と学習後を比べて考えてください。 学習前と学習後の自分の考えを比べて昆布についてあなたの考えは変化しましたか。どんなことが変わりましたか。できるだけ詳しく書きましょう」の問いについて、利尻小学校の児童は、以下のように回答しました。

学習前と学習後の自分の考えを比べて、昆布についてあなたの考えは変化しましたか

利尻小学校

・学習前は大切だとは思わなかったけど、昆布は大切なんだなあと思った。

・そんなめずらしくないと思っていたけどコンブは大切なんだなあとあらためて思った。

・沖縄で昆布をこのように使うんだということを知っておもしろいと思った。

・変わりました。 昆布は料理によって好き嫌いがあったけど今回の交流を通して昆布はとても大切なものだということがわかりました。これからは苦手な昆布料理もしっかり食べようと思いました。

・昔からも食べられていたので大切にしようと思った。

・昆布は北海道とか限定的なところで食べてると思ってたけど富山とか鹿児島でも食べているのを聞いて、意外と昆布は国民が食べるものだと思った。

・昆布は自分の町だけでなく、遠い沖縄でも大切にたくさん食べられているんだなあと思いました。

・昆布が昔からあるのが分かったり、食べ物にどうやって使われているかが分かって楽しかったです。

・沖縄では昆布が大切な食べ物で、みんながこんぶが好き。

「コンブは大切なんだなあとあらためて思った」「今回の交流を通して昆布はとても大切なものだということがわかりました」「遠い沖縄でも大切にたくさん食べられているんだなあと思いました」の言葉にあるように阿波連小学校の児童との交流を通じて、身近な昆布を改めに見つめ直している児童の姿がありました。

阿波連小学校の児童は、以下のように回答しました。

阿波連小学校

・昆布の生産地について考えが変わりました。それは、昆布は沖縄県にも育っていると思っていたけど、この授業を通して北海道から来ていると分かったからです。

・昆布の取り方の考え方が変わりました。なぜなら昆布はハサミで切っていると思っていたけど昆布は、かまやねじりなどの道具を使って海底から巻き取っている大変な食品と分かったからです。

・変化しました。 なぜなら沖縄では昆布を料理に使っているけど、採れたての昆布を初めて見て、こんなに人が協力してできているのと分かったからです。

・変わりました。なぜなら最初は、ハサミで切ってとるかと思ったけど、本当はかまで切ってとっていると分かったからです。

・初めはハサミで昆布を取っていると思っていたけれど、本当はくるくるするねじりやかまでとっているとわかりました。それを知って昆布の収穫は楽しそうなイメージに変わりました。

利尻昆布の出荷

阿波連小学校の児童も「北海道から来ていると分かったからです」「海底から巻き取っている大変な食品と分かったからです」「採れたての昆布を初めて見て、こんなに人が協力してできているのと分かったからです」の言葉のように収穫の様子を知ることで昆布を捉え直していることがうかがえました。

「富山とか鹿児島でも食べているのを聞いて、意外と昆布は国民が食べるものだと思った(利尻小)」「昆布は自分の町だけでなく、遠い沖縄でも大切にたくさん食べられているんだなあと思いました(利尻小)」「この授業を通して北海道から来ていると分かったからです(阿波連小)」の言葉のように昆布ロードの内容に関わる記述もあり、2つの地域を結び付けた海の道の教材としての価値も確認することができました。

「食べ物にどうやって使われているかが分かって楽しかったです(利尻小)」「沖縄で昆布をこのように使うんだということを知っておもしろいと思った(利尻小)」「昆布の生産地について考えが変わりました(阿波連小)」「沖縄では昆布を料理に使っているけど、採れたての昆布を初めて見て、こんなに人が協力してできているのと分かったからです(阿波連小)」の言葉のように生産と消費が結び付くことで昆布への理解が高まることがうかがえました。「昆布の収穫は楽しそうなイメージに変わりました(阿波連小)」の言葉も昆布の収穫の実際、その内容を具体的に知ることで昆布への理解が深まった姿として説明できます。したがって和食文化の理解を深める食育実践においては、食材の生産の場と消費の場をつなぐような授業が必要となること、その意味からも交流学習は大きな意味をもつことが確認できました。

利尻小学校の児童にとって昆布は、だしを取る食材であり、阿波連小学校の児童から年中行事や毎日の生活に欠かせない食材としての昆布を教えられることによって昆布を見つめ直すことができたと考えます。一方、阿波連小学校の児童にとっては、年越しやお正月の料理に欠かせない昆布がどのように収穫され、沖縄に届けられているかを知ることで、身の回りにある昆布の当たり前を問い直す機会になったといえます。

4 昆布を通じて地域へのまなざし

利尻小学校の児童に「私たちが暮らす利尻島にとって昆布と同じようなものは何だろう。その理由も教えてください」と聞いた回答が以下です。

私たちが暮らす利尻島にとって昆布と同じようなものは何だろう

利尻小学校

・ウニ。利尻といえば昆布とウニだから。自然。花とかで観光しに来るから。

・身近にあるけど大切なもの。それでお金も稼げるし他の人も幸せになれるから。

・利尻でも沖縄でも昆布を昔から大切にしていたことがわかった。

・自然。他の地域とは違う自然いっぱいの利尻らしさが消えるのはいやだから。

・自然や魚が大切。

・利尻山。利尻といえば昆布と山というイメージがあるから。

・利尻は昆布以外にもウニが取れるのでウニが同じようなものだと思います。ウニもとても有名で大切にされています。

・どっちも昔から昆布があったこと。

・「白い恋人」。パッケージが利尻山でとても美味しいから。

設問が分かりにくく、昆布について回答している児童もありましたが、「利尻は昆布以外にもウニが取れるのでウニが同じようなものだと思います。ウニもとても有名で大切にされています」の回答のように、児童が昆布を通して利尻の地域を見つめ直していることがうかがえます。

阿波連小学校の児童には、「私たちが暮らす渡嘉敷島にとっての利尻島の昆布と同じようなものは何だろう。その理由も教えてください」と聞きました。回答は以下です。

私たちが暮らす渡嘉敷島にとっての利尻島の昆布と同じようなものは何だろう

阿波連小学校

・渡嘉敷島の特産品の「まぐろジャーキー」や「島むんゼリー」に似ています。理由は渡嘉敷でとれているものを使って加工をしているからです。

・ぼくが住んでいる島は「まぐろジャーキー」が昆布と同じようなものと思います。なぜならこの島の特産品として売られているからです。

・渡嘉敷島は、マグロだと思いました。なぜなら渡嘉敷島には観光客に「まぐろジャーキー」が売れているのでマグロだと思いました。

・「まぐろジャーキー」です。島で取れたマグロで1から作るからです。

・私たちの暮らす渡嘉敷島にとって利尻島の昆布と同じくらいの特産物は「まぐろジャーキー」とシークワァーサーゼリーです。よくお土産で買っています。

阿波連小学校の児童も「渡嘉敷でとれているものを使って加工をしているからです」「島で取れたマグロで1から作るからです」など利尻の昆布の大切さを理解した上での渡嘉敷の大切なものに目を向けている姿があります。

5 栄養教諭と学校給食の貢献

利尻昆布を干す

本事例のように栄養教諭が関わることによって学校給食の献立として地域の食文化を取り入れた献立を提供することができるよさがあります。遠く離れた交流校との距離を縮めるために肉汁や、どさんこ汁が大きな役割を果たしていました。
食べる体験が実感や手ごたえとして学習を深めることに大きく貢献することが確認できました。給食が遠く離れた相互の地域を結びつける大きな役割を果たし、オンラインと食べる体験を重ねる交流学習の形の有効性が確認できました。昆布ロードをテーマにした給食が交流先の場所への実感を引き出し、「昆布」「給食」という共通性が交流により実感を持たせることができたと考えます。

玉城栄養教諭が利尻小学校の児童に説明する、小笠原栄養教諭が阿波連小学校の児童に説明する形を授業の基本的な構成として展開しました。しかしその中で、それぞれの栄養教諭が自校の児童に昆布や和食文化の価値や大切さを語っていることも見逃せません。和食文化を継承していくことの大切さを他の学校の児童の存在を介して、自校の児童に語っていることが重要です。

低学年の子どもたちは、市場見学での昆布、中学年では郷土料理、高学年は年中行事と歴史のつながりとそれぞれの学年に応じた展開が可能な昆布の持つ豊かな教材性が本事例から確認できました。

阿波連小学校の児童(1~4年生)からは、以下のような振り返りがありました。

振り返り

阿波連小学校の児童(1~4年生)

・売っているこんぶは短いけど、とれたては3メートルくらいあるからびっくりしました。こんぶは3メートルの長さだとわかりました。

・こんぶは、かまやフォークみたいなので取ることがわかりました。

・ハサミで切らないで、かまで切ること、そのまま海に入るわけではないことがわかりました。

・昆布は2個取る方法があるのが分かった。

・こんぶは、あみの上でかんそうさせると思っていたけど小石の上でかんそうさせていることが分かった。

・漁師さんは、朝早いことがわかった。3時30分で早い時間だからすごい。

1年生から6年生までの発達段階に応じて学習の教材となる昆布の豊かな教材性について、今後検討したいと思います。阿波連小学校1~4年生の「こんぶの学習をして良かったと思いますか。その理由も教えてください」の振り返りからは、昆布を教材として取り上げることが低・中学年の児童にも可能であることの示唆を得ることができました。

こんぶの学習をして良かったと思いますか

阿波連小学校

・きょう、りしりとうの5・6年生と話を話してはじめてしったことがありました。こんぶを乾かす時は小石の上でかわかすということです。

・こんぶの長さや取り方を教えてもらったのでよかったです。

・りしり小とこうりゅうしてよかったと思います。りゆうはこんぶのことやりしりのことが分かったからです。私もりしりとうに行ってみたいです 。

・はい。クイズでわかりやすくて楽しかったし、たくさん知らなかったことがわかるようになったからです。

・こんぶは、やく3 メートルで取れていることがわかったし、取れたこんぶはぬるぬるしていることが分かってよかったです。

・よかったと思う。理由は利尻島の温度は5℃で利尻小学校の人は、だいたいこんぶを干したことがあって、乾燥の時はこんぶがぬるぬるしていてあついことが分かった。

・こんぶの取り方などが分かってこんぶ漁の人がたいへんなんだなと知ってよかったです。

6 新しいことに挑むことでコロナを乗り越える

昆布を教材として2つの小学校の交流学習を栄養教諭が支援しました。学校給食の献立とICTの活用を通して実感のある交流が実現し、伝統的な和食文化への理解を深めることができました。
玉城栄養教諭と小笠原栄養教諭の交流は現在も続いています。

6月23日は、慰霊の日。 同じタコライスを給食に提供。
  • 利尻小学校の給食

  • 阿波連小学校の給食

7月15日は、「北海道みんなの日」に合わせてアイヌ料理と北海道献立を提供。
  • 利尻小学校の給食

  • 阿波連小学校の給食

コロナ禍でたくさんのモノやコトが失われました。それでも手に入れた新しい教育実践の可能性としてオンラインによる和食文化の交流学習の事例となりました。給食の献立の提供はもとより、事前学習の実施、ビデオレターの交換、発表資料の作成など学校全体を巻き込んでいくことができたのは、日常的な栄養教諭の取組の蓄積の成果があったからです。日々の実践を通した理解が支えた交流学習であると言えます。そして、栄養教諭の熱意が交流学習をより豊かな学びにつなげました。
二人とも「初めて挑戦することなのでワクワクしました」と授業後、語っていた。日々の取組を蓄積しながら新しい試みに挑むことが、令和の日本型学校教育で指摘されている「栄養教諭の専門性」であることを付しておきたい。

授業の展開例

昆布には、利尻昆布、羅臼昆布、日高昆布、真昆布などたくさん種類があります。北海道各地の沿岸を主要な産地としています。それぞれの昆布の特長を調べてみましょう。

だしは、昆布やかつお節などの食材からうま味成分を取り出して作ります。日本の伝統的な食文化である和食の基本です。だしの種類と特徴を知って、だしを取ってみましょう。

 

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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