2018.01.24
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サツマイモだいさくせん(vol.2) 【食と生命、食と感謝】[小1・生活科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第134回目の単元は「サツマイモだいさくせん(vol.2)」です。

サツマイモだいさくせんvol.2イラスト

小学生の子ども達が幼稚園・保育園で経験してきた幼児期の「遊び」には、たくさんの学びのヒントが隠されています。ただ、「遊び」では、活動の結果、何かができるようになることや一つ一つ活動を効率良く進めるようになることは目指されていません。それぞれの子ども達が自分の思いや願いを持って活動し、試行錯誤を繰り返していく過程そのもの(=「遊び」)の中に、学びがあります。また、そこでの教師の役割は、子ども達が持つ疑問や課題に対してすぐに答えを与えることではありません。子ども達の思いに寄り添い、子ども達と共に試行錯誤をし、子ども達が成就感や達成感を持って活動を終えられるように支援していくことこそが教師の役割であると考えます。

1年生の子ども達と共に作り上げてきた「サツマイモだいさくせん」の学習。vol.1では、「サツマイモの葉が黄色くなる」という問題に直面したことで、自分の問題としてサツマイモに向き合い始めた子ども達の姿を紹介しました。vol.2では、自分達で決めた作戦を実行していき、さらなる問題に直面しながらも乗り越えていく子ども達の姿を紹介していきます。

さくせんの実行

「サツマイモだいさくせん」の内容が決定し、いよいよその実践が始まりました。まず子ども達と行ったのは、「パイナップルをおくさくせん」。パイナップルを畑から離れた場所に置けば、その甘さに釣られて虫が集まり、虫はサツマイモの所には来ないだろうという子ども達の作戦です。大人が一言「それは効果がないよ」と言ってしまえばそれまでの作戦ですが、子ども達の思いを大切にしたいという考えの下、子ども達と作戦を実行しました。

「ここなら大丈夫かな」
「サツマイモから近すぎても、離れすぎてもだめだね」
「あ、アリが寄ってきた」
「やっぱり効果があるんだ」
「大成功だ!」
など、作戦に一定の効果があったことに手応えを感じているようでした。

  • 手作りの看板も完成

    手作りの看板も完成

  • 1人1切れずつパイナップルを置きます

    1人1切れずつパイナップルを置きます

  • 場所を考えパイナップルを置く様子

    場所を考えパイナップルを置く様子

  • 置かれたパイナップル

    置かれたパイナップル

また、子ども達が家で調べてきた「つるがえし」の作戦も行いました(「つるがえし」により、つるから出てくる小さな根っこが土に入り込んで栄養を奪ってしまうのを防ぎます)。

その後、毎朝のサツマイモのお世話は続きました。朝の準備を終えた子から
「先生、畑に行ってきます」
と、友達と誘い合いながら畑に行って、朝のチャイムが鳴るまでサツマイモ畑で過ごすことが子ども達の日課になりました。サツマイモの葉っぱに虫がついていないか確認したり、虫がついていればはらったり、雑草抜きをしたり、パイナップルに虫が集まっているか見たり、「元気にな~れ」とパワーを送ったり、自分達で考えた作戦を楽しみながら実行することができていました。毎朝欠かさず畑に行く子ども達の姿から、サツマイモへの愛着心が日々高まっているのがわかりました。

  • 「つるがえし」をしている様子

    「つるがえし」をしている様子

  • 毎朝の葉っぱチェック

    毎朝の葉っぱチェック

  • 要らない雑草も抜きます

    要らない雑草も抜きます

  • 雨でもお世話は欠かしません

    雨でもお世話は欠かしません

台風からサツマイモを守る

お世話を続けてから2週間が経った頃、9月の3連休に大型台風がくるということを子ども達が伝えました。そこで、
「台風が来るらしいけど、サツマイモは大丈夫かな」
と子ども達に投げかけてみました。すると、
「台風からサツマイモを守るために、何とかしてあげたい!」
となり、台風からサツマイモを守る方法を学級全体で話し合うことになりました。

まず、教室に置いてあったサツマイモの絵本に、「大雨が降るとサツマイモ畑が海のようになり、サツマイモが腐ってしまう恐れがある」と書いてあったことを思い出し、大雨から守る方法を考えました。子ども達からは、畑に黒いビニールを敷くという案が出ましたが、それについてはクラスで賛否が分かれました。

【賛成派】黒いビニールなら雨が入ってこないし、雨から守れるから。
【反対派】黒いビニールを被せると、葉っぱの息ができない。重さでつぶれる。飛んで行ってしまう。

休み時間も黒板で話し合います

休み時間も黒板で話し合います

チャイムがなり授業が終わっても、黒板に絵を描きながら
「やっぱり葉っぱの息ができないよ」
「葉っぱだけビニールから出せばいいんじゃないかな」
など、説明し合う姿が見られ、子ども達の関心の高さが見て取れました。結局、その日は結論が出なかったため、翌日にビニールの実物を持ってきて、その実物を見ながらもう一度話し合うことにしました。

翌日の話し合いでは、倉庫にあった「黒いビニール」(黒マルチ)と他の先生からいただいた畑用の細かい網目の「網」のどちらがよいか、実物を見ながら話し合う所から始まりました。

【黒いビニール派】
「ビニールだと雨が入らないけど、網なら雨が入ってしまいます」
「ちょっとの雨だと網でも大丈夫だけど、今回は台風だから網だと心配です」
「ちょっとだけ穴を空けたら、ビニールでも息はできる」
「空気も心配だけど、今回一番大事なことは台風の大雨からどうやって守るかだからビニールがいいと思う」

【網派】
「網の方が丈夫です」
「サツマイモは息をしているから、人間と同じで空気がないと枯れてしまいます」
「ビニールだと空気が入らないから息ができないけど、網なら息ができます」
「網の穴は小さいから、雨は通さないけど空気は通します」

網に水をかける実験

網に水をかける実験

「黒いビニール」派と「網」派の人数はちょうど半数ずつで、子ども達もどうすればよいのか頭を抱えていました。しばらく考えた後、ある子が
「じゃあ、水をどれくらい通すか実験してみたら」
と提案してくれました。その提案に、他の子ども達も
「うん、やってみたい!」
となり、実験が始まりました。

黒いビニールに水をかける実験

黒いビニールに水をかける実験

まず、網の実験をすると少しずつではなく、一気に水を通してしまうことがわかり、
「これでは網じゃだめ」
「やっぱりビニールかも」
となりました。次の黒いビニールの実験では、全く水を通さず、少し穴を空けてみてもちょっとずつしか水を通さないことから、
「やっぱり黒いビニールに決定だね」
となり、全員の納得の上で黒いビニールを敷くことに決定しました。

黒いビニールを敷いている子ども達

黒いビニールを敷いている子ども達

実際には、この時期に土の中のイモがしっかりとできていれば、多少の雨ではイモは腐らず、放っておいても問題はありません。しかし、子ども達の思いや願いを大切にしながら授業づくりをしていくという観点からも、黒いビニール(黒マルチ)を敷き台風からサツマイモを守ることにしました。子ども達も自分で決定したということもあり、黒いビニールに杭を打ったり、空気穴を空けたりする姿は真剣そのものでした。

3連休が明けた火曜日。学校に来るなり子ども達の口から、
「サツマイモ、大丈夫かな」
という心配そうな声が聞こえてきます。早速、朝から黒いビニールを外しに行きました。恐る恐るビニールを取り、慌てて土を少し掘ってサツマイモを確認すると、そこには大きく育ったサツマイモの姿がありました。子ども達もサツマイモが大きく育っているのを見て安心しているようでした。

さらに、その後、葉っぱにどんな変化があったか観察していると、子ども達が
「先生、なんか新しい葉っぱが生えてる!」
と大騒ぎ。皆で見てみると、なんとそこには黄色い葉っぱの隙間から生えてきた新しい黄緑色の葉っぱが! これには子ども達も大喜びで、自分達のお世話の成果が出て、作戦が成功したと実感できた瞬間でした。

こうして、子ども達はお世話を続け、9月の終わりには、黄色の葉っぱが枯れ落ち、新しい黄緑の葉っぱが本来の緑色に変わりました。お世話を頑張ったおかげで、わずか1か月も経たないうちにサツマイモ畑を元の元気な畑に戻すことができました。

  • 黒いビニールを取る瞬間

    黒いビニールを取る瞬間

  • 新しく生えてきたサツマイモの葉っぱ

    新しく生えてきたサツマイモの葉っぱ

  • 元の状態に戻ってきたサツマイモ畑

    元の状態に戻ってきたサツマイモ畑

  • 元気になったサツマイモの葉っぱ

    元気になったサツマイモの葉っぱ

子ども達の振り返りノートには、「ふっかつしてよかった」という記述がたくさん見られ、葉っぱが復活したことを喜んでいることがよくわかりました。また、それだけではなく、「だいじなのははっぱじゃなくて、サツマイモ」というところまで気付きを深めている子もおり、継続してお世話をしていこうとする意欲も感じられました。

子どもの振り返りノート

子どもの振り返りノート

サツマイモ掘り

その後、10月に入ってからもお世話を続けました。10月中旬頃、給食にサツマイモが出たり、支援学級が他の農園から掘り上げてきたサツマイモを目にし始めてから、
「そろそろ掘ってみたい」
という声が子ども達から出始めたので、サツマイモ掘りの日程を皆で決めました。

そこで、サツマイモを掘る前に土の中の様子を予想してみようということで、観察カードに書かせました。大きいのを一つ書いた子や、たくさんサツマイモがついている子などサツマイモの形は様々であったものの、
「ほるのがたのしみです」
「きっと大きいとおもいます」
「はやくたべてみたいです」
など、期待を膨らませているようでした。また、
「まだまだもっと大きくしたいから、もっとお世話を続けたいです」
と書いている子もおり、子ども達の愛着の高まりも感じることができました。

土の中のサツマイモの予想

土の中のサツマイモの予想

そして、いよいよ待ちに待ったサツマイモ掘り当日です。朝からワクワクした様子で登校してきて、皆でサツマイモ掘りを行いました。ツルを切り取った後、自分の手で一生懸命土を掘り起し、形や大きさは様々ですが、大切に育ててきたサツマイモを無事に収穫することができました。子ども達も本当に大喜びで、
「サツマイモだいさくせん、大成功!」
と、とても満足そうな表情を見せてくれました。

  • サツマイモ掘りの様子

    サツマイモ掘りの様子

  • 土から顔を出したサツマイモ

    土から顔を出したサツマイモ

  • たくさん穫れたサツマイモ

    たくさん穫れたサツマイモ

  • 教室でもサツマイモに興味津々です

    教室でもサツマイモに興味津々です

観察カードにも、
「たくさんとれてうれしかった」
「はやくたべたい」
と書いている子が多く、収穫できたという素直な喜びを感じることができました。また、
「げんきがなかったのに、げんきになって、ふっかつしてうれしい」
「ふっかつしたサツマイモはすごい」
など、サツマイモの生命力に驚いている子もいました。

サツマイモ掘りの振り返りカード

サツマイモ掘りの振り返りカード

毎日のお世話だけでなく、虫や病気、台風からサツマイモを守る方法について真剣に考え、本気でサツマイモに向き合い続けてきた子ども達。そんな子ども達の思いや願いが実り、サツマイモは復活、そして、無事に収穫をすることができました。しかし、サツマイモは収穫をして終わりではありません。Vol.3では、収穫したサツマイモの家を作ったり、ずっと楽しみにしていたサツマイモ料理をしたり、最後までサツマイモに向き合い続ける子ども達の姿を紹介したいと思います。

授業の展開例
  • サツマイモの他の野菜の世話の仕方や病気の対策について調べてみましょう。
  • サツマイモが登場する絵本を読んでみましょう。

藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)

兵庫県加古川市立川西小学校 教諭
教員3年目で2年続けての1年生担任。幼児教育の「遊び」をヒントに、1年生の子ども達が「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・藤池 陽太郎/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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