2017.12.20
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サツマイモだいさくせん(vol.1) 【食と生命、食と感謝】[小1・生活科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第133回目の単元は「サツマイモだいさくせん」です。

食育と授業:サツマイモだいさくせん イラスト

1年生の子ども達は、幼稚園・保育園での「遊び」を通して、多くのことを学んできています。自分の興味があることや本当にやりたいと思う活動に夢中になり、没頭していく「遊び」。そんな「遊び」のように、子ども達が学ぶ姿を目指して、生活科の授業づくりを行ってきました。

本校では、毎年1年生が生活科でサツマイモを栽培しています。しかし、サツマイモは土の中で生長していくため、変化を感じにくく、子ども達が関心を持ち続けながら関わることが難しい教材でもあります。サツマイモに子ども達が夢中になって関わる姿を目指して、単元を構想しました。課題に出会わせ、課題の解決のために何度も話し合いを繰り返しながら、子ども達と共に作り上げてきた実践を3回に分けて紹介します。

単元構想

子ども達は、1学期より公園探検や生き物の飼育など、自分達で計画を立てながら意欲的に活動してきました。ヤゴの飼育では、「弱っているから自然に返してあげよう」など、動物の生命に気づく姿が見られました。一方、アサガオの栽培では、毎日欠かさず水やりをし、その生長や変化に気づくことができていたものの、枯れかけている葉や花に関心を持たずに、植物の生命への気づきが十分でない子どもの姿も見られました。

サツマイモは比較的やせた土地でも生長でき、害虫にも強いため、低学年の児童でも栽培がしやすい野菜です。また、アサガオの栽培とは異なり、繰り返し世話をするだけでなく、収穫をしたり、食べたりする活動につなげられることから、植物の生長やその生命に気づき、親しみを持てるようになり、大切に思うようになる教材だと考えました。

しかし、前述の通り、サツマイモは関心を持ち続けながら関わることが難しい教材でもあります。そこで、本単元では、「おいしいサツマイモを皆で食べる」という目的を明確にし、「サツマイモのために○○してあげたいな」「○○をしてみたらどうかな」という子ども一人一人の願いや思いを大切にしながら授業づくりを行いました。

教師が活動を決定してしまうのではなく、課題に出会わせ、課題の解決のために子ども達が話し合いながら活動を決定していけるように、単元計画では細かな活動までは設定せずに、大きな流れだけを次のように設定しました。

「サツマイモだいさくせん」 単元構想の流れ

1.学習のめあてを知り、サツマイモの苗を植える。
2.サツマイモのお世話をする。(常時活動を含む)
3.サツマイモを収穫する。
4.サツマイモの料理計画を立て、料理をする。

サツマイモの苗を植える

1人1苗ずつ植えている様子

1人1苗ずつ植えている様子

入学して1か月ほどが経った5月上旬。子ども達に、
「この小学校では、毎年1年生がサツマイモを育てて食べるのだけど、皆もしてみたい?」
と聞いてみました。すると、
「育ててみたい!」
「皆で食べたい!」
と、おいしいサツマイモを食べられることに、一気に胸を膨らませます。そこで、クラスで話し合いながら単元のめあてを「サツマイモを育てて、サツマイモパーティーをしよう」に決定し、子ども達の関心を十分に高めた後にサツマイモの苗を植えました。

「大きくなあれ!」とパワーを送っている様子

「大きくなあれ!」とパワーを送っている様子

苗を植えてから2週間、朝の水やりをしたり、肥料をあげたり、お世話を続けました(苗が土に根づいた後の水やりは必要ありません)。サツマイモの葉やツルはどんどんと伸びていき、サツマイモが生長していることに子ども達も驚きや喜びを感じているようでした。しかし、1学期は1度観察を行ったり、雑草を抜いたりするだけで、子ども達のサツマイモへの関わりは少なく、土の中でサツマイモが育っているという実感やサツマイモへの関心や親しみが十分に高まっていないまま夏休みに入っていきました。

  • 毎朝水をあげている様子

    毎朝水をあげている様子

  • サツマイモにあげた肥料

    サツマイモにあげた肥料

  • 雑草を抜いている様子

    雑草を抜いている様子

  • 葉っぱでいっぱいになった畑

    葉っぱでいっぱいになった畑

課題に出会う

黄色くなったサツマイモの葉

黄色くなったサツマイモの葉

夏休みが明けると、活動が急展開を見せます。子ども達と久しぶりに畑を見に行くと、葉っぱの一部が黄色くなっていることを発見しました。土を掘り起こしてみて、サツマイモは大きくなっていることは確認しましたが、
「このままでは、せっかくできたイモが大きくならない!」
「なんとかしてあげないと!」
と、子ども達の問題意識が高まり、サツマイモを元気にする方法を話し合うことになりました。

話し合いでは、
「ヤゴの時みたいにあんまりお世話してなかったからこうなっちゃった」
「一人で寂しかったのかも」
「黄色くなったのは虫が原因だから、虫を追い払わないといけない」
「鳥が原因かも」
「水が足りないんじゃないかな」
「肥料もいるよ」
など、自分の知識や経験を基に、たくさんの意見が出されました(5月に行ったヤゴの飼育では、お世話をしたものの上手に育てることができなかったという経験があり、その経験が活きていたようでした)。子ども達が考えたサツマイモを元気にする方法は次の通りです。

黄色くなった葉っぱを見る子ども達

黄色くなった葉っぱを見る子ども達

  • 虫を取る(葉っぱを揺らして)
  • 肥料をあげる
  • 雑草を抜く
  • 水をちょっとあげる
  • パワーを送る
  • かかしを置く(鳥や虫を追い払うために)

この日は情報が曖昧だったこともあり、家で一度調べてみることになりました。振り返りカードには
「サツマイモをなんとかしてあげたい」
「このままではサツマイモが食べられない」
「家でお母さんに聞いてみます」
などの記述が多数見られ、子ども達の課題意識が高まっているのが感じられました。

サツマイモを元気にする方法の話し合い

「サツマイモだいさくせん」の情報掲示板

「サツマイモだいさくせん」の情報掲示板

学級通信でお知らせしていたということもありますが、葉っぱが黄色くなった原因やサツマイモの栽培方法について、半数以上の子がお家の人と調べてきてくれました。紙に書いて持ってきた子もおり、ボードを壁に掛け、情報掲示板の形で誰でも見えるようにしました。調べることができなかった子もそれらの情報を目にしながら、課題意識を高めていっているようでした。そこで、サツマイモを元気にする方法を「サツマイモだいさくせん」と題して、どんなお世話をするかを改めて話し合いました。

図書室で調べている様子

図書室で調べている様子

話し合いでは、
「おじいちゃんが病気か水のやりすぎって言っていました」
「水はやらなくてもいい」
「全くやらないのはダメだから週1回だけ」
「虫も原因です」
「虫は甘いものに寄っていくから、近くにパイナップルを置けばいい」
「毎日見に行って虫を追い払わないといけない」
「虫は虫でも、蛾とかはだめだけど、ミミズは土を良くしてくれるから大丈夫」
「黄色の葉っぱが病気だったら広がるから、とった方がいい」
「病気なら薬がいるよ」
「つるがえしっていうのもする」
「雑草に栄養をとられるから抜く」
など、調べてきたことを基に、たくさんの意見が出されました。これらの意見をまとめ、「サツマイモだいさくせん」の内容を決定していくために班ごとに話し合わせ、次のような作戦を決定することができました。

サツマイモだいさくせん

1.毎朝、葉っぱを見に行く!
・虫がいたら追い払う!
・パワーを送る!
・雑草が生えていたら抜く!

2.パイナップルを置いて、虫を違う所におびき寄せる!

3.水曜日だけ、水をあげる!
・黄色の葉っぱがもっと増えてきたら、葉っぱを切る。
・虫が減らなければ、薬を撒く。

班で話し合う様子

班で話し合う様子

それぞれが調べてきたことを交流し合うことで、個々の気づきが広がり、深まっていく場面もたくさん見られました。子ども達も課題の解決のために夢中で話し合い、友達と考えを深め合うことを楽しむことができているようでした。

「サツマイモの葉が黄色くなる」という問題に直面したことを契機に、子ども達は自分の問題としてサツマイモに向き合いはじめました。Vol.2では、自分達で決めた作戦を実行していき、さらなる問題に直面しながらも乗り越えていく子ども達の姿を紹介したいと思います。

ホワイトボードに書かれた作戦

ホワイトボードに書かれた作戦

授業の展開例
  • 小学生ができるサツマイモの食べ方について調べて作ってみましょう。
  • サツマイモを育てて、どれくらい成長するか記録してみましょう。

藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)

兵庫県加古川市立川西小学校 教諭
教員3年目で2年続けての1年生担任。幼児教育の「遊び」をヒントに、1年生の子ども達が「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・藤池 陽太郎/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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