東日本大震災を題材にした授業実践(1) 命の大切さを学びたい(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)
東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校教諭の菊池健一さんが、全6回にわたって連載します。震災から年月が経つ中で、記憶の風化が指摘される一方、学校教育において、命の大切さや日常の尊さを伝えることの重要性は今も変わりません。低学年の子どもたちが震災を自分事として受け止めていく学びの過程を、授業実践を通して報告します。
今回は、2年生を担任する中で、東日本大震災をどのように授業として取り上げていくかを考え、学習のテーマを定めるまでの過程について紹介します。
久しぶりの低学年担任として
毎年行っている東日本大震災を題材にした授業づくりも今年で14年目を迎えました。震災から15年となる今年は、各地で震災をテーマにした講演会なども行われています。しかし、現在担当している2年生の児童たちは東日本大震災を経験しておらず、同僚の若い教員もその頃の記憶が薄れており、時の流れを実感します。
東日本大震災後も、近年の能登半島地震をはじめ、さまざまな災害が立て続けに起こってきました。現在は、南海トラフ地震や首都直下型地震への備えも求められています。これまで毎年、子どもたちと震災について学びながら、防災について、そして命の大切さについて考えてきましたが、今後ますますそのような活動が大事になると感じています。
今年度は、約10年ぶりに低学年を担当することになりました。これまでは主に高学年で震災の学習を行ってきました。高学年になると理解力もつき、さまざまな教科を横断させながら学ぶことができました。低学年では発達段階から考えて実践が難しいかもしれない…と感じたのも事実です。しかし、震災を取り上げた授業を行い、全国に発信してきたこれまでの歩みを止めるわけにはいかないと強く思い、今年も実践に取り組むことにしました。
2年生という低学年の特性も踏まえて、どのような実践が可能かということを年度当初から考えていました。
愛梨ちゃんの絵と向き合って

佐藤愛梨ちゃんの絵がラッピングされた自動販売機
震災を題材にした授業を行う前に、必ず訪れる場所があります。それは、東京・王子駅前の商業施設です。そこには、東日本大震災当時6歳で、石巻市の日和幼稚園に通っていた佐藤愛梨ちゃんが描いた絵でラッピングされた自動販売機があります。
日和幼稚園の事故については、震災後の報道などでご存じの方も多いと思います。愛梨ちゃんは乗る予定ではなかった幼稚園のバスに乗り、そのまま津波に巻き込まれて亡くなりました。
昨年度、愛梨ちゃんの母親である佐藤美香さんに石巻の被災地を案内していただきました。佐藤さんは震災後、「日和幼稚園遺族有志の会」の代表として活動されてきました。現在は幼稚園や小学校を中心に語り部活動を続けています。
佐藤さんは私を案内しながら、
「愛梨の『ただいま!』を今でも聞けていない」
「日常の何気ない当たり前なことは、決して当たり前ではない」
と語っていました。
そのことを思い出しながら、改めて愛梨ちゃんの絵を見たとき、子どもたちと「命の大切さ」「家族の大切さ」を学び、それを通して防災も意識させていきたいと考えました。
今年の震災学習のテーマ

愛梨ちゃんが発見された場所
震災学習のテーマは「命、そして家族の大切さを考える」としました。昨年度の実践テーマとも重なりますが、毎日家族に「ただいま」「おかえり」と言えることは当たり前ではありません。その当たり前だと思っていた日常が、突然失われてしまうこともあります。だからこそ大切にしていかなければならないと、この学びを通して子どもたちと考えていきたいと思いました。
毎年、被災地の語り部の方にゲストティーチャーをお招きしています。今年度も昨年度に引き続き、佐藤美香さんにお願いすることにしました。今年度は、日本赤十字社宮城県支部の協力を得て、オンラインでお話を聞くことにしました。
亡くなった愛梨ちゃんと、低学年の子どもたちは同じぐらいの年齢なので、思いがより届きやすいのではないかと思います。
学習のスタートに先立ち、佐藤さんが取材された新聞記事をいくつか子どもたちに紹介しました。
その中には、佐藤さんが、道に手を当ててうずくまっている写真があります。実はこの場所は、震災後に愛梨ちゃんが発見されたところでした。毎年3月11日になると、佐藤さんはこの場所で愛梨ちゃんを思い浮かべてメッセージを送っているそうです。私自身も佐藤さんに案内していただき、この場所を訪れたことがあったため、その経験も子どもたちに話しました。
子どもたちからは、次のような声が聞かれました。
「震災の後はたくさんのがれきがあったけれど、今はきれいな道になったんだね」
「佐藤さんは愛梨ちゃんにどんなメッセージを送っているのかな」
「14年たっても、毎年この場所に来ているなんて、佐藤さんは今も愛梨ちゃんのことを大切に思っているんだね」
「愛梨ちゃんも、きっと見てくれているよね」
子どもたちに、「佐藤さんからお話を聞いて、震災について、そして命の大切さについて学ぼう」と投げかけると、子どもたちは真剣な表情になりました。自分たちにとって大事な学習になると感じたのだと思います。私自身も、子どもたちと一緒に改めて学ぼうと決心しました。
次回は、授業の導入として行った、ショート授業の実践についてレポートします。
文・写真:菊池健一
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