2024.11.23
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学級の文化(その1)

調べて考えていたらすごく面白くなって2部作になりそうです。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

どうも、今村です。
「学級文化」という言葉は教員であれば一度は聞いたことがあるのではないかと思います。書いて字の如く、学級の文化、ということですよね。

今年6年生を担任しているのですけれど、本校は高学年で教科担任制をしているので、同じ学年の3クラスを行き来しながら国語の授業をしています。同じ教材を用いた単元を作っても、やはり3クラス少しずつその実態が違ってきます。そこでは学級それぞれのもつ文化というものが影響しているな、と感じることも多々あります。今回は学級文化について調べたことやそこから考えたことを徒然なるままに書いてみます。

辞書から

文化という言葉、改めて辞書で引いてみました。Weblio辞書で調べると以下のような説明が出てきました。

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人間の生活様式の全体。人類がみずからの手で築き上げてきた有形・無形の成果の総体。それぞれの民族・地域・社会に固有の文化があり、学習によって伝習されるとともに、相互の交流によって発展してきた。(デジタル大辞泉)

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文化とは、複数名により構成される社会の中で共有される考え方や価値基準の体系のことである。簡単にいうと、ある集団が持つ固有の様式ことである。文化の語は、英語の culture の訳語として明治時代頃から使用された言葉であり、英語の culture には、「文化」の他に「訓練」、「養殖」、「栽培」という意味もある。(実用日本語表現辞典)
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さらに、『教育用語辞典』(山崎・片山編 2003)には「学級文化」についての記述もあり、「学級集団が共有する価値意識や規範、行動様式など」と定義されています。

学級文化というのは、クラスに流れる価値意識や規範、行動様式であり、それはそのクラス固有のものであり、だんだんと集団のなかで(あえて訓練、養殖、栽培という言葉を避けるなら)醸成されるもの、と言えそうです。

論文から

学級文化について調べる中で非常に興味深かったのは、須藤康介氏の「学級文化が学力に与える影響 −学習意識・友人関係・対教師関係に着目して−」という論文です。

この論文は、神奈川県の広域を対象に学級文化が中学校生徒の学力に与える影響を調査したものです。学級文化といっても様々な側面がありますが、この論文では「友人関係」や「対教師関係」に着目し、それと学力の相関について調査しています。明らかにされているのは以下のようなことです。

①分析の結果、学級文化は階層上位の生徒の学力にはほとんど影響を与えないが、階層下位の生徒の学力にはいくらかの影響を与えることがわかった。

②「友人関係」に着目すると、活発的交友性の学級文化は学力に影響を与えないのに対して、いじめ潜在性の学級文化は学力に負の効果であった。

③「対教師関係」に着目すると、対教師親密性の学級文化は学力に影響を与えない(または負の効果である)のに対して、対教師信頼性の学級文化は学力に正の効果であった。

①について、学級文化は成績上位の生徒に対しては大きな影響は与えない、ということです。学校外の家庭や塾などで学力が高められている生徒は、学級文化の影響関係なく学力が高いということです。一方で学級というのが限られた学びの場である生徒に関しては、学級文化は影響を及ぼす、ということです。なるほど。

②について、まず活発交友性、平たく言えばクラスの雰囲気が親密でなんでも言い合えるという雰囲気は学力に影響を与えない、ということです。一方でいじめ潜在性、クラスの仲間に馬鹿にされていると感じる生徒が多い学級文化では、学力が伸びづらい。プラスの影響より、マイナスの影響が出るのですね。なるほど。

③について、学力を向上させる学級文化として重要であるのは、「教師と生徒が仲良しであること」ではなく「生徒が教師のスキルを信頼していること」ということである、ということです。ただし、注意しなければいけないのは、個人としてみた時には教師に対して親しみを感じている生徒は学力が高い傾向にある、ということも明らかになっている点です。しかし、学級全体として生徒集団と教師が親密であることは、学力に負の効果がある、というのです。以下、引用です。

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この知見は、分析結果の解釈に注意を促すとともに、1つの興味深い事実を示唆する。それは、生徒一人一人にとっては、教師と親密になることが合理的であるが、そのことが学級集団全体にとっては非合理的になるという、いわゆる「合成の誤謬」状態が生じている可能性があるということである。教師の視点に立てば、生徒一人一人との関係がもたらすものだけでなく、それらの総体として生まれる学級文化がもたらすものにも注意を払う必要があるということになるだろう。
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ううん、なるほど。教師として生徒個人との関係をどう築くかと、教師として学級集団との関係をどう築くかは、分けて考えなければいけない。

これを読んで、ゾクッとしたんですね。集団との関係を築くということを考えた時に、どうしても自分はそれぞれの個との関係の集積としてしか見られていなかったんじゃないかと。30人学級で言えば、「30人集団と教師の関係」を「1人と教師の関係×30」としてしか捉えられていなかったんじゃないか、と。そんな単純なものじゃない。もっと複雑で輻輳的なものなんじゃないかと。

調べたことから感じたことを書いてずいぶん長くなってしまいました。そこから自分なりに考えたことは、次回書いてみます。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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