2019.07.31
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『風をつかまえた少年』映画と学ぶ特別授業(前編) -麹町中学校の生徒によるライブインタビューと原作者からのメッセージ-

世界23ケ国で翻訳された実話ベストセラーの『風をつかまえた少年』(原題/The Boy Who Harnessed the Wind)。日本でも2010年に出版され、英語の教科書に掲載されたり、池上彰氏らにも絶賛された作品なので、ご存知の方も多いだろう。このベストセラーが、第86回アカデミー賞作品賞受賞『それでも夜は明ける』主演のキウェテル・イジョフォーが監督・脚本・出演を手がけて映画化。その原作者であり当事者でもあるウィリアム・カムクワンバ氏が来日し、工藤勇一校長のもと独自の教育改革で注目を浴びている千代田区立麹町中学校での特別授業を実施した。その授業の模様をリポートする。

概要

〈授業クラス〉

  • 日時:7月12日(金)
  • 学校名:東京都千代田区立麹町中学校
  • 鑑賞映画:『風をつかまえた少年』
  • 登壇者:ウィリアム・カムクワンバ氏
  • 授業進行 駒沢正人教諭

〈授業テーマ〉
“学ぶことがいかに人生を変える力を持つのか”風をつかまえたウィリアムに聞こう!
14歳の少年はいかにして未来を切り開いたのか?ーー以上をテーマに実際に中学3年生の生徒が、英語を駆使して直接ウィリアム・カムクワンバに質問する形式で行われた。

映画について

(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

まずレポートに入る前に、映画について簡単に紹介しておこう。

『風をつかまえた少年』の舞台となるのは、2001年のアフリカ最貧国のひとつマラウイ。当時のマラウイでは人口のわずか2%しか、電気を使うことができなかった。そんな中でウィリアム・カムクワンバ氏は、14歳ながら様々な本を読み、風力を使えば電気を生み出すことができると知る。ゴミ捨て場から使える部品を漁って風車を作り、井戸から定期的に水を汲み上げて、畑に撒く装置を製作していこうとする。その時の苦闘を描いたもので、学ぶことの素晴らしさや親子の絆などが胸に迫ってくるヒューマン・ストーリーだ。

ウィリアム氏に直接英語で生徒が質問!!

丁寧に質問に答えるウィリアム氏の話に聞き入っている生徒たち

今回の授業はあくまでも英語の授業の特別版として設置され、麹町中学校の体育館に中学三年生の全生徒142名が集められた。

実は彼ら生徒たちにはウィリアム・カムクワンバ氏の来日はサプライズということで、あえて隠されていた。ウィリアム氏が目の前に現れるなど、予測もしていなかったため、進行役の駒沢先生が「レディース&ジェントルメン!」と声をかけ、ウィリアム氏の来日を伝えると、会場からはどよめきが!! 実際にウィリアム氏が姿を表すと、拍手&歓声があがり、ウィリアム氏も若干照れくさそうな笑みを浮かべる。
「こんにちは。皆さんとお話しできることをすごく楽しみにしています。今日はよろしくお願い致します」とウィリアム氏が一言挨拶をすると、再び大きな拍手が起こり、特別授業がスタートしたのだった。

ウィリアム氏をコの字に囲む生徒たち。その真ん中に1人目の生徒が立ち、ウィリアム氏に英語で質問を始めた。生徒たちは事前に授業でウィリアム氏の奇跡の物語を学んでいたという。

意見を発表する生徒(画像提供:ロングライド)

生徒A「ウィリアムさんの故郷、マラウイのことを知らないのですが、いいところを教えてください」

ウィリアム「僕が生まれたのは、マラウイの中心地から車で2時間くらい離れたところなんです。とても小さい村でした。マラウイ湖という淡水湖があり、自然や野生動物が生息している美しいところなんです。淡水魚の種類が一番多い湖でもあるんですよ」

生徒B「どんな野生生物が住んでいるんですか?」

ウィリアム「質問をありがとう。ゾウやライオン、チーターもいるし、カバなんかもいるよ。ただ森林伐採をしてしまったからあまり動物たちを目にすることはなくなってしまったね。みんな移動してしまったんだ。
ライオンなんて僕がアメリカに留学していた時、動物園で見たからね(笑)。でも観れるべきところに行けばたくさん動物と会えると思う」

自然あふれるマラウイの魅力について最初の質問が飛んだ。そしてひとつ答えを終える度に、ウィリアム氏は椅子から立ち上がり、質問者の生徒たちと固い握手を交わす。彼の心優しさ、人格者であることが自然と伝わってくる。生徒たちもウィリアム氏の英語の答弁にしっかりと耳を傾けている。

そのうちに「絶対に日本で食べておきたいものは何ですか?」というざっくばらんな質問も飛び出したり、逆にウィリアム氏から「日本で行っておいたほうがいいところは?」と質問が出て、生徒から「銀座のユニクロ」なんてユニークな答えが飛び出す場面も。やはり直接英語で生徒が質問をし、直接英語で答えることで、コミュニケーションがしっかり取れている感覚を味わっているのだろう。しかもなかなか2013年にタイム誌の「世界を変える30人」に選ばれるような人と直接話すことなんてできない。この貴重な時間を生徒たちも楽しんでいるのがヒシヒシと伝わってくる。

そして少し斬り込むような質問が飛び出すように。

(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

生徒C「学費が払えずに中等学校から退学を言い渡された時に、ウィリアムさんはどう思いましたか?」

ウィリアム「教育を受けるということは、僕は自分の人生の選択肢が広まっていくことに繋がると思っています。だから退学をすることで人生の選択肢が狭まってしまうから、とても悲しかった。僕の父親は農業をやっていました。僕自身も農業は好きです。でもそれしか選択肢がないから自分も農業をやる、という人生は、何か違うのではないかと思いました。いい仕事のために勉強するわけではないんです。教育を受けることでやってみたいことの選択肢や、可能性が広がる。世界中の人たちとも触れ合うことができる。世界のことを知りながら、選択肢を持って前に進むことができるんです」

教育の大切さについて熱心に語ってくれたウィリアム。その情熱が伝わったのだろう。
全員が熱心に聞き入っている。

生徒D「尊敬している方は誰ですか?」

ウィリアム「僕はすべての人を尊敬しています。また敬意をはらってくれる人に対しては、僕もリスペクトを返したいと常に思っています。でも一番尊敬していて自分のモチベーションとなったのは祖母かもしれません。仕事をする上でインスピレーションを受けましたね。あと祖母と同じくらいのモチベーションとなったのは飛行機を発明したライト兄弟です。当時、飛行機を作るといった時、周りから正気を失ったのか?と言われたと思います。けれども諦めなかったからこそ飛行機を作ることに成功した。それにより、今では世界中を飛行機で移動することができている。本当にすごいことだと思います」

さらに実際に彼がどうやって風車を作ったのか、その話にも肉迫していく。

意見を発表する生徒(画像提供:ロングライド)

生徒E「ひとつめの風車をつくるのに、どれくらいの時間がかかり、何基つくりあげたのですか?」

ウィリアム「材料探しから組み立てまでに、約3ヶ月かかりました。今は8基が建っていて、前のデザインからも、改良されています」

どうやらかなり試行錯誤をしたようだ。

生徒F「それまで風車をつくったことがなかったのに、どうして作れると思ったんですか?」

ウィリアム「図書館で風車の写真が表紙にのっている本を見ました。世界のどこかでこれを作った人がいる。ならば人間が作ったのだから、自分だってこれを作れるはずだと思ったんです」

この風車を作ることで人生も大きく変わったというウィリアム氏。

ウィリアム「これまではランプの燃料であるパラフィンや、ラジオの電池を買っていた。でも風車で電力が供給できるようになったから買う必要がなくなって、お金が浮いた。またTEDグローバルのカンファレンスにも招待され、初めてマラウイから出て皆の前でスピーチをした。そこで出会った方々の協力で、学校に戻ることができ、高校や大学にも通えるようになった。風車を作ることで自分の人生を本当に大きく変えることができたんだ」

成功者は自分を阻む壁を意識しない

やりたいという強い思いと、そこに集中する力を持つことで人生は変わる

画像提供:ロングライド

約45分に及んだ授業はアッという間に終了。最後にウィリアム氏は生徒に向けてこんな話をしてくれた。

ウィリアム「人生には壁が立ちはだかったり、その壁を乗り越えるために挑戦しなければいけない時もある。そういう時は自分の能力を信じて挑戦してほしいと思う。そしてもし挑戦が失敗しても、それは自分が成長する機会だと捉えてほしいのです。やりたいことをやり遂げることは可能だと、思ってほしい。世の中の成功者は、挑戦を自分を拒む壁だとは思わずに乗り越えて来た人なんだ。やりたいという強い思いと、そこに向かって集中することができれば、何事も達成することは可能になる。そして、最後に、ここにいる先生たちも、君たちが夢をかたちにすることを、心から応援しているはずだ。何かあれば相談してほしいね」

そう締めてくれたウィリアムに対して、今度は生徒の代表からこんな言葉が。

生徒G「教科書だけではわからないことを今日は学ぶことができました。1つは挑戦することの大切さです。ウィリアムさんは14歳で大きな発明をして、未来を切り拓いた。いろんなことに挑戦して、時には壁にぶつかることもあるけれど、それが考えるきっかけとなったりするので、ひとつひとつの挑戦をこれからの人生で大切にしていきたいです。もうひとつは、発見することの大切さ。僕たちには当時のウィリアムさんよりも恵まれた環境で、いろんな選択肢があります。日々の生活の中で様々なところに発見がうまっていると思うので、それを見つけだして、いろんな選択肢のある人生をおくりたいと思いました。この授業を大事に、今後の人生にいかしていきたいと思います」

こうしてとても濃厚なやりとりを楽しめた特別授業は終了。終わってから写真撮影があったが、その間にも生徒たちが積極的にウィリアム氏に話しかけている姿が見られた。
 
中学生くらいだと、ついうたた寝をするような生徒がいたりするものだが今回は皆無。やはり自分たちで質問を作って本人にぶつけられたということと、様々な苦労をしてきた人が語る重みのある言葉に、心を打たれた人が多かったのではないだろうか。なかなか学校の授業に有名人を迎えるということは難しいかもしれないが、何かをちゃんと成功した人の会話を、全編英語だけでやりとりさせるような、そういう環境を整えられれば思った以上に生徒たちは自発的に様々なことを学んでいくのかもしれない。

映画情報

風をつかまえた少年

8月2日(金)より
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開

監督・脚本・出演:キウェテル・イジョフォー
出演:マックスウェル・シンバ、アイサ・マイガほか
原作:ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー著(文藝春秋刊)
配給:ロングライド

公式サイト:longride.jp/kaze/

コピーライト:(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

取材・文:横森文 画像:ロングライド

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