みなさん、こんにちは。
このたび「教育つれづれ日誌」(第19期)の執筆を担当させていただくことになりました、前川修一と申します。どうぞよろしくお願いします。
福岡県大牟田市にあります明光学園中・高等学校(カトリックの女子校)にて社会科の教師として勤務しております。専門は日本史ですが、今年度は高校倫理、中学社会(公民)、学校設定科目のキャンパスデザインも担当します。校務分掌は進路指導部長として9年目になります。
私がここで語りたいことはいくつかあるのですが、2016年4月現在のトピックとして、J-MOOC(gacco)のオンライン講座である東京大学インタラクティブ・ティーチングを受講した体験について、先にお話させてください。
1.「インタラクティブ・ティーチング」との出会い
みなさまの中にも、この画期的なオンライン講座を受講された方もいらっしゃるかもしれません。「聞くだけの授業は、終わりにしよう」がキャッチフレーズになっていて、刺激的でしたが、そもそも私はこの講座のことをまったく知りませんでした。では、なぜ私のもとにこの情報が届いたのでしょうか? それは、端的に言えば、SNSの時代になったからということにつきます。酒井淳平さんが、前回の「つれづれ日誌」で書いておられますが(http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,24816,21,185,html)、アクティブラーニングの時代になってよかったことの1つが、全国の意欲的な先生方とSNSでつながることができ、瞬時に情報交換ができるようになったことでした。20数年教師をしていますが、閉鎖的な学校社会にとって画期的な時代になったと思います。
ところで、私の受講動機は不純でした。第1期、第2期で修了された中・高の先生方が、受講登録直前に「これはいい講座だから、ぜひ受講したほうがいい」とfacebookに相次いで投稿されます。私は見よう見まねで、この講座のどこに意義があるのかもわからずに登録し、受講生活を始めました。
「インタラクティブ・ティーチング」(第3期)は2015年11月18日より8週間の期間で始まりました。各週ごとに、(1)ナレッジセッション(知識の獲得)、(2)スキルセッション(音楽座ミュージカルの団員による教師のパフォーマンス・スキル)、(3)ストーリーセッション(第一線で活躍する研究・実践者へのインタビュー)が設定され、(1)は各週末までにテストを受験する必要がありました。
第1週「アクティブラーニングについて知ろう」は早めに視聴していたので完璧でしたが、ちょうど仕事が立て込む時期になり、第2週「アクティブラーニングの技法」はテストをすっぽかし、第3週「学習の科学」は2問目を解答していたときに時間が来てしまい、第4週「90分の授業をデザインしよう」はすべて解答したのに1問目だけしか解答ボタンを押しておらず、さんざんな状況でした。これではとても、生徒を指導する立場とはいえません。
そこで、第5週「もっと使えるシラバスを書こう」から第8週「キャリアパスを考える~ポートフォリオの利用」までは気合を入れなおし勉強した結果、すべて満点でした。SNSで、同じ講座を受講されている先生方の進捗状況が、刻一刻と投稿されることも、モチベーションを高めたかもしれません。この講座を修了するには、全部で70点以上が必要でしたが、私の持ち点はこの時点で46点しかありません。残り3回のレポートの合計32点分が合否を分けることになりました。
レポート(1)はスキルセッションから、レポート(2)はストーリーセッションから、印象に残ったものを1つ選び、要点と感想・意見をまとめます。レポート(3)は学んだすべての内容をふまえ、自分の授業の問題点をあげて教育者としての展望を語るのです。このレポート(3)だけは1回で14点の得点ができるよう設計されていました。私はこれに賭けました。小学校時代に学んだ理科の授業(天体の話)と自分の授業スタイルとを比較して問題点を洗い出し、満点をいただきました。
このレポートの評価は、受講者の相互評価になっていました。これは初めての経験でした。3人の受講生から評価され、また他者のレポートを5回以上評価することが得点の条件になっています。細かく作られたルーブリックにそって他人のレポートを採点する過程で、自分にはない思考や発想、表現の仕方にたくさんの気づきを得ました。同時に、あらためて自分の思考や理解度を切実に振り返ることができました。
レポート(1)の1点を除いては減点されず、総点77点で修了することができました。まさに薄氷の思いでした。
2.6分間授業の衝撃
オンライン講座を修了すると欲が出てきました。修了者の中から20名を選んで、リアルセッション(対面授業)があるのです。課題はジグソー法を取り入れた60分間の授業デザインでしたが、鎌倉仏教の4人の開祖が書いた史料を読み解く、日本史の授業デザインで応募した結果、なんと選考を通過してしまいました。東京大学は私のような不真面目な受講生にも門を開き、ちゃんと課題を見てくれた!と嬉しかったです。20名のうち、高校の教師は4人だけでした。
しかし、喜びもつかの間、新たな課題が待っていました。それは、「6分間授業デザインシート」とその内容に関する「コンセプテスト」を仕上げて、リアルセッションに持参することでした。しかも、セッションの初日と最終日にその6分間授業をしなければなりません。
リアルセッションは2016年3月11日から13日の3日間、東京大学本郷キャンパスで行われました。赤門が近づくと、だんだん胃が痛くなってきました。授業は何年もやってきましたが、6分間というのは体験がありません。しかもその6分間に、授業の目的と目標、まとめと参考文献の提示まで入れろというのですから。
会場に到着すると、主任講師の栗田佳代子先生と中原淳先生がお待ちでした。オンラインで見た通りの笑顔です。授業をするため、5人ずつのグループ分けがあったのですが、そこで指導教官の発表がありました。私のグループは中原先生です。また、胃が痛くなりました。中原先生は歯に衣着せず厳しいことをズバッと言われると、第1期・第2期の先輩方からすでに情報がSNSで回っていました。この歳(48歳)になって生徒のような思いをするとは、予想だにしませんでした。
私の属したグループは5人で、私以外は現役の大学教員もしくは博士課程の在籍者などの大学関係者でした。しかし、授業は全員が6分間をはるかにオーバーし、中原先生から内容的にも厳しいダメ出しがなされました。その時のニコニコしながらの先生の言葉です。
「6分間で授業のできない人は、60分与えても120分与えてもできません」
「もう1回最終日にやってもらいます。大丈夫ですよ、あと48時間ありますから」
インタラクティブ・ティーチングの特色は、オンラインもリアルセッションも共通して、受講生相互の学びが設計されていることです。模擬授業もグループで相互評価しましたし、栗田先生の3日間にわたる授業(モチベーション、アクティブラーニング、問いを考えるーピア・インストラクション問題改善、クラスデザイン、リフレクション、シラバス・コースデザイン、評価・ルーブリック)も、それぞれの時間にかならず、工夫された相互の学びの時間が入れてありました。なんといっても、最終日の6分間授業ファイナルに向けて受講生には共通する緊張感がありましたから、この3日間は真剣でしたし、協力して課題解決にあたる濃密な時間を過ごせたと思います。
授業ファイナルはその甲斐あって、全員が初日とはみちがえるほどの授業を展開しました。この充実感はおそらく他では味わうことはできないでしょう。
3.「世直し」としての授業改革
もう、おわかりだと思います。「インタラクティブ・ティーチング」とは、相互に学ぶことの意義を、教師に体験的に教えてくれる壮大な装置でした。同時にすぐれたクラスデザイン(個々の授業計画)とコースデザイン(中・長期の授業計画)が、学習者の理解に多大な影響をもたらすことを、私は思い知りました。
リアルセッションの最終日、先生方を交えて受講生全員が輪をかいて座り、相互に履修証をわたし合うというセレモニーがありました。
その席で中原先生は、「これまで日本では『教える』ことを教える、文化がなさすぎた。そのことがいかに日本の社会に損をもたらしているか」「この講座をはじめるとき、出資者に呼びかけたのは、ともに『世直し』をしよう!ということだった」とおっしゃいました。
栗田先生はスタンフォード大学に留学中の経験から、「なぜ日本には学生の学びを促すこのような授業システムがないのだろう。なんとかしなければ」と思ったのだそうです。
私はこのお二人の義憤に応えるためにも、私たちが体験したのと同じように、生徒の学びを引き出す、良き授業づくりに努力しようと思いました。
次回は、アクティブラーニングとの出会いについてお話ししたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、東京大学「インタラクティブ・ティーチング」は、2016年4月27日に開講する第4期で終了となります。そのあとの再放送はありません。この投稿をご覧の皆さまや、周りの方々でまだ受講されたことのない皆さまには、強く受講をお勧めいたします。なお、受講料は無料です。
受講登録はこちらから
https://lms.gacco.org/courses/course-v1:gacco+ga017+2016_04/about
東京大学のホームページより

前川 修一(まえかわ しゅういち)
明光学園中・高等学校 進路指導部長
インタラクティブな学びの場がどうしたら実現できるか、有効かを、日本史・中学公民のAL授業や進路指導を通じ考えています。平成28年度日本私学教育研究所委託研究員。
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