2015.07.28
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20th New Education Expo 2015 in 東京 現地ルポ(vol.5)

「New Education Expo 2015 in 東京」が6月4日~6日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。5回目の現地ルポでは、教育の情報化の動向について語るリレーセミナーと、内田洋行の教育用デジタルコンテンツ配信サービス「EduMall(エデュモール)」の展示ゾーンについてお伝えする。セミナーは、ICT教育における官民連携の新たな取り組みについて、官と民の識者がそれぞれのビジョンや役割を語るまたとない機会とあって、来場者達は熱心に耳を傾けていた。

官民一体で踏み出す、教育の情報化の新たな一歩

教育の情報化の動向
~情報化のビジョンと官民連携の取り組み(ICT CONNECT 21)~

文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 課長……豊嶋 基暢 氏
総務省 情報流通行政局 情報通信利用促進課 課長……岸本 哲哉 氏
日本教育情報化振興会 会長
ICT CONNECT 21 会長……赤堀 侃司 氏

文部科学省が担う、ICTを活用した新たな学びの推進

[セミナー1]教育の情報化の動向

~文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 課長 豊嶋 基暢 氏

文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 課長 豊嶋 基暢 氏

最初に登壇した文部科学省生涯学習政策局情報教育課課長の豊嶋基暢氏は、教育の情報化の動向や課題を整理し、今後に向けた文部科学省の取り組みについて語った。

文部科学省の調べによると、2015年4月時点でタブレット端末の導入・拡張に取り組んでいる自治体は全国で158あり、その後も順調に増え続けている。しかし、教育用コンピュータの整備率には、地域や学校によってばらつきがあるのが現状だ。これには、学校のICT環境整備の経費が地方交付税措置とされ、使途が各自治体の判断に委ねられていることが大きく関わっている。教育用コンピュータの整備率を全体的に引き上げていくためには、「自治体にICT環境整備の重要性を理解してもらい、単年度だけでなく継続的に予算配分されるような流れを作る必要がある」と豊嶋氏は指摘する。

また、豊嶋氏は「ICT環境の整備と教員のICT活用指導力の向上は車の両輪」であるとし、双方を同時に推進していくことの必要性を説いた。
「いくらICT機器が揃っていても活用されなければ意味がありませんし、逆もまた然りです。そこで、文部科学省ではICTを活用した教育を推進する自治体を対象とした応援事業を今年度よりスタートさせました。教員養成課程を有する大学との連携による教員のICT活用指導力の育成支援や、ICT環境の整備・充実を図るためのICT活用教育アドバイザーの派遣などを進めています」。

ここで言う「教員のICT活用指導力」は、今後の教育の方向性と密接に関わっている。2020年度以降、校種ごとに全面実施を予定している学習指導要領の改訂や高大接続の一体的改革といった一連の教育改革では、これまで中心とされてきた知識詰め込み型の学習から、課題の発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶアクティブ・ラーニングへと本格的に舵が切られるからだ。
「これからの教員には、ICTを授業に取り入れるだけでなく、それを活用して協働学習や課題解決型学習を実践する力が求められます。文部科学省としては、ICT支援員など多様な専門スタッフと教員が一体となって力を発揮する『チーム学校』の導入や、校務の情報化による教員の負担軽減などにより、教員が研修や授業の準備などにより専念できる環境づくりを進めています。また、教育の情報化ホームページでは授業づくりに役立つ様々な実践事例集を公開していますので、ぜひお役立てください」(豊嶋氏)。

ICTを活用した新たな学びの推進に向けて、文部科学省は2014年度より総務省と連携し、インターネットを通じてソフトウェアやデータを利用するクラウド・コンピューティング(以下、クラウド)などの最先端技術を使った「先導的な教育体制構築事業」を全国3地域で実施している。民間企業の協力も得て行われるこの実証事業では、先の「学びのイノベーション事業」(2013年度まで行われたICTを活用した学びの実証研究)で明らかになった課題を踏まえ、各地域における学校間、学校・家庭が連携した教育体制の構築や、教育体制に応じた指導方法の開発と指導力の育成、地域内の学校が相互に活用できる利便性の高いデジタル教材などについての実証研究が行われる。
「ポイントは『学校』ではなく『地域』単位で取り組むことにあります。これにより、反転授業を含む家庭学習や、遠隔地間における双方向型の協働学習や合同学習といった、新しい学びの実践も本格化していくでしょう」
豊嶋氏はこのように述べ、結びの言葉とした。

最先端技術で教育のICT化を支える、総務省の取り組み

[セミナー2]教育の情報化と今後の総務省の取組について

~総務省 情報流通行政局 情報通信利用促進課 課長 岸本 哲哉 氏

総務省 情報流通行政局 情報通信利用促進課 課長 岸本 哲哉 氏

続いて壇上に登ったのは、総務省情報流通行政局で情報通信利用促進課課長を務める岸本哲哉氏。教育の情報化において、総務省は主に情報通信技術面を、文部科学省は主に教育面を担い、それぞれの役割の下に連携しながら、21世紀にふさわしい学校教育の実現を目指している。岸本氏は総務省の立場から、現在、進行している教育の情報化の取り組みについて語った。

政府が2010年代中の目標として掲げる初等中等教育のICT環境整備を踏まえ、総務省は2014年度より文部科学省の「先導的な教育体制構築事業」と連携した「先導的教育システム実証事業」を全国3地域で開始している。総務省が2013年度まで実施した「フューチャースクール推進事業」で浮かび上がった課題に対応すべく、クラウドなどの最先端技術を活用し、多種多様な端末に対応した低コストの教育ICTシステムについての実証研究を行うというものだ。その仕組みについて、岸本氏がわかりやすく説明してくれた。
「デジタル教材はクラウド上に保管され、必要に応じてインターネットを通じて配信されます。その教材を使って学んだ児童生徒の学習記録はデータとしてクラウド上に保存され、随時、閲覧することが可能です。これにより、学校同士や学校と家庭をつなぐ、これまでにない学習環境が実現します」。

クラウド環境の利便性をより高めるために、現在、検討が進められているのが、一つのIDで様々な教材コンテンツが利用可能となる「シングルサインオン」だ。この機能の導入により、コンテンツごとにIDを取得するという煩雑な作業が不要となる。この他、複数の企業のデジタル教材を横断的に検索して利用できるようにする「コンテンツの標準化」、コンテンツごとに保存されていた学習履歴を共通の仕様で一元的に管理できるようにする「学習記録データの標準化」、学習記録データを活用して個々の学力レベルに最適化した学びを提供する「アダプティブラーニング」に資するための実証研究が計画されている。さらには、教員が有料・無料のコンテンツを自由に検索し、評価レビューもできるようなマーケットをクラウド上に構築する取り組みも進められる予定だ。
「この実証研究では、教育関係者の他、ICT機器や教材コンテンツを開発している事業者、通信事業者、クラウド事業者など民間の企業や団体も参加している。教育の情報化を推進するための産学官による協議会、『ICT CONNECT 21(みらいのまなび共創会議)』を議論の場とし、それぞれが技術や知識、ノウハウなどを持ち寄って、連携しながら事業を進めていきます」(岸本氏)。

最後に岸本氏は、
「子ども達の学習意欲や学びへの期待感を引き出すことは、これまでの日本の教育に欠けていた部分。その実現に大きな力を発揮するのがICTです。総務省では、今後も学校現場の実践を支えるよりよいICT環境の実現に向けた取り組みを進めていきたいと思います」
と述べた。

民の立場から目指す、先進的なICT環境の実現

[セミナー3]フィンランドにおける産学官の先進事例とICT CONNECT 21

~日本教育情報化振興会 会長、ICT CONNECT 21 会長 赤堀 侃司 氏

日本教育情報化振興会 会長、ICT CONNECT 21 会長 赤堀 侃司 氏

岸本氏のセミナーでも少し触れたが、「ICT CONNECT 21」は日本の教育の情報化に関わる様々な団体や企業、有識者、省庁などが連携しながら、ICT教育ビジョンを策定する協議会だ。誰もが・いつでも・どこでも多種多様な学習・教育コンテンツやサービスを利用できる環境の実現を目指し、その基盤となるクラウド環境や関連技術の標準化(仕様・規格の統一)と普及に取り組んでいる。

最後に登壇したのは、そのICT CONNECT 21の会長を務め、日本教育情報化振興会の会長も兼務する赤堀侃司氏。民の立場で総務省「先導的教育システム実証事業」と文部科学省「先導的な教育体制構築事業」に参画している赤堀氏からは、自ら視察したフィンランドの官民連携によるデジタル教材クラウド・プラットフォーム構築プロジェクト「EduCloud」の紹介が行われた。2014年にスタートしたこのプロジェクトでは、フィンランドの教育文化省が民間団体やバルト海を挟んだ隣国・エストニアと連携してEduCloudと呼ばれるクラウドを構築し、すべての子ども達にデジタル教材へアクセスする機会を提供している。

EduCloudでは、デジタル教材がワンストップで検索・購入可能で、評価レビューも閲覧できるマーケット「BAZAAR」がオープンしている。この他、教員同士の教育や技術面のサポートを行う「KNOW-HOW」、教員同士で教材活用のノウハウが共有できる「GET INSPIRED」の開発も進められている。これらのサービスには、日本が計画している実証研究との共通点も多く、「大いに参考になった。ぜひ反映していきたい」と赤堀氏は語る。

このように、フィンランドのEduCloudプロジェクトでは先進的な取り組みが進められているが、すべてが順調に運んでいるわけではない。日本と同じように、フィンランドでもクラウド環境や関連技術の標準化を進めているものの、事業者間の協調は簡単ではなく、スムーズには進行していないという。また、学習記録データをクラウド上で管理することについても、個人情報の取り扱いがハードルとなり、足踏み状態が続いているのが現状だ。
「同様の理由で、日本でもほとんどの自治体がクラウドの導入に反対しています。昨今は個人情報の流出問題が多発しているので致し方ない面もありますが、蓄積された膨大な学習記録データを活かすことなく捨てていくのは、いかがなものでしょうか。強固なセキュリティ対策が施されたシステムの構築など、官民で知恵を出し合いながら道を拓いていくことが必要です」
と赤堀氏は訴える。

これとは別に、費用の問題もある。EduCloudプロジェクトでは国と民間団体が連携し、費用を負担し合って開発・運用を進めており、これまでは国が主導的な役割を担ってきた。しかし、今後は国の役割や費用負担を段階的に減らし、民間主体のプロジェクトとして継続的・自立的な運用を目指すという。これについて赤堀氏は、次のように述べている。
「民間がすべての費用を負担し、プロジェクトを継続していくことには難しさも伴います。現に、日本でも国の研究指定校として教育の情報化に取り組んでいた学校が、国からの助成金がなくなった後、それまでの質を維持できなくなった、という例もあります。ただ、日本の実証研究も、ゆくゆくは我々ICT CONNECT 21が主体となって運用していくのが理想です。そのためには、自立的な運用の仕組みを作っていくことも必要になるでしょう」。

グローバル化やICT化の波が次々と打ち寄せる中、主体的に知識を獲得し、共有し、創出して問題解決を図る21世紀型能力の重要性は増している。
「日本の将来を担う子ども達の学びと、その教育に携わる教員をサポートするために、官と民が手を取り合い、ICT環境の整備を進めていきましょう」
最後に赤堀氏がこう呼びかけ、盛大な拍手をもってセミナーは終了した。

展示ゾーン

[EduMall]より使いやすく進化し、コンテンツもさらに充実!

内田洋行の「EduMall(エデュモール)」は、自治体の地域ネットワークや校内LANなどのICT環境を活用し、クラウド型の教育用デジタルコンテンツを学校に配信するサービス。パッケージ型のデジタル教材よりもリーズナブルに、手間なく利用できる点が評価され、現在、約250自治体4,000校で導入されている。

国内最多の約1100タイトルのコンテンツを揃える「EduMall」。キャリア教育の教材もある

導入費を低く抑えられるのは、買い取りではなく、年間使用料の方式を採用しているためだ。コンテンツにもよるが、EduMallならパッケージ購入の3分の1から4分の1程度の出費で済み、予算を効率的に利用できる。年間契約であるため、次の年に新たに契約すれば、必要なコンテンツを選び直すことも可能だ。教科書や学習指導要領が改訂された場合も同様で、定額料金で最新のものに更新することができる。また、配信型なので製品ごとのインストールは不要。購入前に、コンテンツの全内容や使い勝手の善し悪しを確認し、実際に試してから選択できる点も大きなメリットだ。

今年はさらにコンテンツが充実し、全28社の約1100タイトルにも及ぶデジタル教科書や掲示型・ドリル型・プリント型教材、動画などを配信。学研ホールディングスとの協業により、今後はタブレット端末向けコンテンツや理科教材などの拡充も進められる予定だ。今回の展示では、その一例として、キャリア教育に関する教材が公開されていた。また、トップ画面のリニューアルも行われ、これまでにない品番でのコンテンツ検索機能が追加されるなど、より使いやすいサイトへと生まれ変わっている。

写真:赤石 仁/取材・文:吉田秀道、吉田教子

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