2015.06.30
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20th New Education Expo 2015 in 東京 現地ルポ(vol.1)

「New Education Expo 2015 in 東京」が6月4~6日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。20回記念の節目を迎えた本年は「未来の教育」をテーマに、例年以上に多彩な講演やセミナー、企業展示などが行われた。スタートを飾る1回目の現地ルポでは、いま注目の高大接続改革と学習指導要領改訂を中心に、これからの時代に求められる日本の教育について語る基調講演、さらに、最先端のICT機器による教室環境が体感できる展示ゾーン「フューチャークラスルーム(R)」の熱気溢れる模様をお届けする。

New Education Expo 20年の歩み ~共に考える未来の教育~

New Education Expo(以下、NEE)は、「教育に携わる様々な立場の方が校種や分野の垣根を越えて参加できる研究会・展示会を」との思いから、1996年に東京でスタートした。以来、ICTの教育活用をはじめ、学校教育に関する旬のテーマを扱い、より広く、より深いものへと内容を充実させながら、毎年開催されてきた。メイン会場も東京・大阪の2箇所に増え、東京会場の様子を全国複数箇所のサテライト会場でも見ることができるようになり、来場者数も年々増加、国内最大級の教育イベントへと成長を遂げている。

NEE20年目の節目と時を同じくして、高大接続の一体的改革と学習指導要領の改訂という、これまでの学校教育を抜本的に変える改革が、2020年の実現に向けて動き出した。同年には小中学生に対するタブレット端末1人1台整備も予定されており、日本は今まさに大きな教育転換期を迎えている。こうした教育界の動きをあまさず伝えることをテーマに開催された今年のNEEには、全会場・全日程総計で8000名を超える教育関係者が集まった。会場は連日、新しい教育の在り方やICTの教育活用などについて活発に情報や意見を交換し、見聞を深めようとする来場者達の熱気に包まれ、大盛況のうちに終了。節目の年にふさわしい、意義深いイベントとなった。

子ども達の未来に向けた、これからの日本の教育とは

明日の日本を創る教育改革 ~高大接続・学習指導要領改訂を中心に~

日本学術振興会 理事長
中央教育審議会 前会長……安西 祐一郎 氏

社会改革にも等しい、高大接続の一体的改革

日本学術振興会 理事長 安西 祐一郎 氏

現在、小学校で2020年度、中学校で2021年度、高校で2022年度以降に全面実施を予定している次期学習指導要領の改訂と、新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高校教育・大学入試・大学教育の一体的改革についての議論が進められている。高校教育改革を一つの柱とする高大接続の一体的改革は、次期の学習指導要領とも連動しており、これまでの高大接続を大きく転換する試みとして注目されている。本講演は、中央教育審議会(以下、中教審)の前会長で、委員と共にこれらの教育改革について熟考を重ねてきた日本学術振興会理事長の安西祐一郎氏が、グローバル化・多極化が進む新しい時代に求められる教育について語るものである。

安西氏は、まず高大接続を取り巻く諸情勢として、少子高齢化の急速な進行による18歳人口の減少、家庭環境の格差、不登校、いじめ、高校生の意欲喪失など、今現在、そしてこれからの子ども達が直面する社会問題や教育問題を列挙。続いて、小中学校ではなく高校から教育改革を行う理由を、国内外のいくつかの調査結果を基に解説した。それによると、小中学校では知識偏重型の学習から、アクティブ・ラーニングと呼ばれる課題の発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習へと舵が切られつつあり、成果も出ている。高校・大学ではそうした義務教育までの成果を確実につなぎ、主体的に学ぶ習慣を育成することが肝要であるが、まだこれからという状態である。

それを如実に示すのが、高校生・大学生の学習/学修時間に関する調査結果だ。1990年~2006年の約15年間で、高校生2年生の学校外における平日の学習時間は減少、特に学力中間層では半分近くにまで落ち込んでいる(Benesse教育研究開発センター「第4回学習基本調査」)。また、日米の大学1年生を対象とした調査では、アメリカでは1週間に5時間以下しか学修しない学生は15%程度であるのに対し、日本では70%にも上るという衝撃的な結果が示されている(東京大学 大学経営政策研究センター「全国大学生調査」2006-8年)。

こうした動向を踏まえ、安西氏は「子ども達がこれからの厳しい時代を幸せに生きていけるようにするためには、小中学校での成果を高校、大学へとつなげていくための教育改革、すなわち高大接続改革と学習指導要領の抜本的改訂が必要」であると強調。さらに、「教育改革は社会改革にも等しいものであり、現在は明治、戦後に続く大きな教育転換期にあたる」と述べ、その重要性を訴えた。

学習指導要領改訂と高大接続改革が目指すもの

では、学習指導要領の改訂と高大接続の一体的改革が具体的に目指すものとは何か。安西氏は次のように説明した。
「世界の垣根が低くなり、これからは色々な国の人々と一緒に仕事をすることが当たり前の時代。そうした時代を生き抜くには、『十分な知識・技能』を持つことはもちろん、それを活用するための『思考力・判断力・表現力』を臨機応変に発揮できることが重要です。その上で、『主体性を持って多様な人々と協力して学び、働く力』を、すべての子ども達が身につけられるようにしたいと考えています」。

ここに登場する「主体性・多様性・協働性」に関する能力のうち、子ども達に特に必要だと思われるものとして、安西氏は「問題解決力」「チーム力」「臨機応変力」の三つを挙げた。「問題解決力」は答えがある問題を解く力ではなく、「答えがない茫漠とした状況の中から問題を発見し、答えを見つけ出す力」を指す。また、多様な他者と連携する「チーム力」を身につけるには初対面の他者とチームを組んでの学習活動が必要だが、今現在、日本の学校ではほとんどそういう場がない。答えがない状況で迅速に的確な判断をして行動するための「臨機応変力」についても同様で、日本の高校・大学教育における大きな課題である。

上記のような能力を育てるため、今回の学習指導要領の改訂では、アクティブ・ラーニングについての指導方法と評価方法を盛り込むことが検討されている。新たな教科・科目の創設や既存の教科・科目の見直しも考案されており、例えば、英語ではリスニング、リーディングだけでなく、より主体性が求められるライティングとスピーキングを身につけられるよう改善を図りたいとしている。この他にも様々な方策が議論されており、小学校の新指導要領の一部は2018年度から先行実施される予定である。

また、高大接続改革では、高校・大学教育の質の転換や向上を図り、大学入試の在り方を変えるために、次のようなプランが計画されている。まず、高校教育ではアクティブ・ラーニングを充実させ、生徒の学習改善に役立てるための新テスト「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の導入を提言。2019年度の導入を目指し、2017年度よりプリテストの実施が予定されている。大学教育ではアクティブ・ラーニングの充実に加えて、大学によるディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程の編成・実施の方針)、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針)の一体的な策定を推進。大学入試は現行の大学入試センター試験を廃止し、知識・技能だけでなく思考力・判断力・表現力なども評価する新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の導入が進められている。これは2017年度より実施予定のプリテストを経て、2020年度から導入される予定だ。

これらの改革を実行するにあたっては、今まで以上に教員研修が必要となり、新テストの採点にも人手や予算を要するなど課題が山積しており、時間をかけて議論すべきだ、との懸念の声も聞かれる。これについて安西氏は、次のように訴えかけた。
「確かに学びの方法を変えるのは大変なことで、明日からすぐに、というわけにはいきません。しかし、1999年に中教審が高大接続答申を出してからこれまで、ほとんど何も変えられなかったという事実を考えていただきたい。子ども達に対して、すでに15年もの借りがあるのですから、着実に、しかし迅速に議論を進める必要があるのです。改革を成功させるためには、教育現場だけでなく、企業や地域など社会全体で協力していくことが必要です。自分で伸びていこうとする子ども達を大人が応援するような環境を作っていかなければ、改革は小手先のもので終わってしまいます。これから半世紀以上生きていく子ども達の幸せを考え、そのために努力することが、私達大人の義務ではないでしょうか」。

ICT導入がアクティブ・ラーニングに果たす役割

学習指導要領の改訂と高大接続の一体的改革において、課題解決型学習や恊働学習などによるアクティブ・ラーニングは重要なキーワードとなっている。そうした学びにおいて、
「子ども達が自分で考え、何かを作り上げるためのツールとして活用できるICTは非常に有効であり、今後ますます利用機会が増えていくでしょう」
と安西氏は語る。ただし、ICTを導入しただけでアクティブ・ラーニングが可能になるわけではない。安西氏は、
「ICTの導入により情報をベースにした学びの世界が広がっていくというのはよいことではありますが、学ぶ側が『何のために、どのように学びたいのか』という主体性を持っていないと、いくら大量に情報を与えられても、自分の血肉にしていくことはできません」
と指摘する。

では、子ども達から主体的な学びを引き出すには、どのような指導を行えばいいのだろうか。安西氏は、自身が理事長を務めるフューチャー・スキルズ・プロジェクト研究会で企業人や大学人と共に実施している、主体性と応用力を持った学生を育てるための取り組みをヒントとして語った。これは、入学したての大学1年生を対象とした講座で、チームに別れ、企業から出された課題の解決方法を7週間かけて考えるというものだ。
「課題として出されるのは、実際に企業で起こった未解決の問題で、その企業にとっても答えはありません。それを高校を卒業したばかりの学生達が考えるのですから、当然、悩み、困惑します。その上、発表すれば企業担当者からやり直しを命じられ、遅刻をした学生は厳しく叱責される。しかし、そうするうちに彼らは『自分で勉強しないと社会に出てから困る』ことに気づき、ゼミの選択についても真剣に考えるようになります。主体性は自らの気づきによって生まれ、それが目標を明確にし、目標達成のために必要な行動を引き起こすのです」。

最後に、安西氏は子ども達にとって自然なICT環境の必要性を訴え、講演を締めくくった。
「例えば、電子ペンでタブレット端末に文字などを書き込む際、パネルにあたってカチカチと音がしますが、あれは子どもにとって自然な使い心地ではないでしょう。また、一定以上の間隔が空くと人間の思考は途切れてしまいますから、ソフトのダウンロードは子どもの思考の流れを切らない速度で実行できるようにしてほしい。子ども達がICTを自然に使うためには、まだまだ人間工学的な課題があります。簡単な技術ではありませんが、企業の方々には、ぜひチャレンジしていただきたいと思います」。

展示ゾーン

[フューチャークラスルーム(R)]未来の教室が、いよいよ実用段階に!

注目の展示ゾーン「フューチャークラスルーム(R)」での模擬授業

最先端のICT機器による教室環境を提案し、毎年、多くの来場者で賑わう内田洋行の展示ブース「フューチャークラスルーム(R)」。今年は世界最細・最軽量のスマートペン「Neo smartpen N2」が登場し、PCやタブレット端末の画面をワイヤレスで投影できるプレゼンテーション用機器「wivia(R)3」には撮影した動画ファイルを再生できる新機能が搭載された。この他、昨年注目を集めた3面マルチスクリーンをはじめ、無線LAN環境で動作する授業支援システム「ActiveSchoolフューチャークラスルーム」、既存の黒板やホワイトボードに設置できるユニット型の電子黒板「e黒板」、授業の双方向性を高める学習コミュニケーションツール「PF-NOTE」、コンテンツ実寸大表示システム「resic」などが実装された。

手書き文字をタブレット端末に転送できるスマートペン「Neo smartpen N2」

Neo smartpen N2」 は、普通紙に書いた文字や絵などを即時にデジタル化し、タブレット端末などに表示することができる最新鋭のスマートペンだ。タブレット端末の小さい画面は 長文の記入などには適しておらず、1人1台タブレット端末を活用した授業でも紙のノートと併用されることが多い。しかし、このスマートペンで、普通のいわ ゆるコピー用紙をプリントツールから印刷したスマートペーパーに書き込めば、タブレット端末上に筆記内容が表示され、さらにそれを電子黒板などに提示する ことが可能となり、授業での発表をより円滑に行うことができる。また、データ保存機能もあるため、スマートペンを児童生徒が持ち帰って宿題などの課題を行 い、翌日、学校でタブレット端末にデータを同期する、といった使い方も可能だ。実際に触ってみたが、サイズや重さは一般的なペンとほとんど変わらず、反応 が早く書き心地に違和感がないこと、タブレット端末への転送がスムーズであることに驚いた。1人1台タブレット端末環境をサポートする有効なツールとし て、今後ますます注目を集めることだろう。

左:和洋九段女子中学校・高等学校 社会科 水野 修 氏 右:和洋九段女子中学校・高等学校 フューチャールーム室長 今井 志郎 氏

また、毎年好評を博している未来の教室体験「フューチャークラスルーム(R)ライブ」では、「リアル・アクティブラーニング! ~現場実践者による実際の授業に参加しよう~」と題し、和洋九段女子中学校・高等学校社会科の水野修氏と、同校フューチャールーム室長の今井志郎氏による模擬授業が行われた。今、注目を集めるアクティブ・ラーニングを取り入れたライブ授業とあって、多くのギャラリーが見守る中、熱気溢れる授業が繰り広げられた。

授業の内容は、Google Earthを使った国名しりとりでの自己紹介と、買い物をした際に発行されるレシートから人物像を推測する社会科のグループ学習。ICT機器は、和洋九段女子中学校・高等学校に実際に整備されている3面マルチスクリーン、wivia(R)3、タブレット端末4台(各グループ1台)のみを使って行われた。これらの機器を課題提示や発表、グループでの議論などに効果的に用いることで、授業はスムーズかつ集中したものとなり、講師と参加者との双方向のコミュニケーションも活発に行われていた。最小限のICT機器を最大限に活用した授業は、ICT機器の現実的な導入モデルとして大いに参考になると思われた。

参加者がグループワークを行っている間、フューチャールーム室長の今井氏からアクティブ・ラーニングに関するレクチャーを受けることができた。今井氏は「アクティブ」な学び方を、発表やコミュニケーションなどの出力(アウトプット)による「活動的・積極的」学びと、板書や調べ学習などの入力(インプット)による「能動的な没入感・注意力」の学びという二つに分けて捉えているという。インプット作業は一見、アクティブ・ラーニングとの親和性が低いように思われるが、今井氏は前述のような捉え方をし、児童生徒が能動的に取り組めるような工夫をすることで、インプット作業を「アクティブ」な学びにつなげている。これにより、インプット作業の多い数学、理科、地理、歴史などの教科でもアクティブ・ラーニングを抵抗なく取り入れられ、さらにICT機器を活用することでよりよい授業ができるのではないか、としている。

今回の模擬授業ではインプット作業は行われなかったが、グループ学習の後に水野氏から、「レシートという身近なものに残された事実から人物像を推測するこ とは、遺物や史料から人間の文化の発展や社会の在り方を探る考古学・歴史学の本質を知ることにつながるものである」との説明がなされた。このようなグルー プ学習を授業の冒頭にウォーミングアップ的に行うことで、児童生徒がその授業における学びの本質を理解し、興味や関心を持って取り組めるような、能動的な 学習が実現できることだろう。グループでの議論はタブレット端末に表示されたレシートにタッチペンで意見を書き込みながら行われ、その模様をリアルタイム で3面マルチスクリーンに表示して各グループの意見比較に用いるなど、ICT機器も要所要所で取り入れられ、参加者同士の意見交換をより活性化させている ように感じられた。

模擬授業を実際に見ることで、アクティブ・ラーニングを授業にどのように取り入れていけばいい のか、そこにICTをプラスすることで児童生徒の学びがどれほどイキイキと意欲的なものに変わるのか、ということが具体的にイメージできた。未来の学習空 間として実証研究が進められて来たフューチャークラスルームが、いよいよ実用段階に入ってきたことを実感する模擬授業だった。

写真:赤石 仁/取材・文:吉田秀道、吉田教子

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