2007.04.10
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全入時代に対応する大学の教育改革とは?

全入時代に対応する大学の教育改革とは?

(社)日本教育工学振興会主催、(株)内田洋行教育総合研究所共催のセミナー「まだ気づかれていない 大学に必要な真の成長戦略を探ろう」は、競争という側面ばかりが注目されがちな現状を見直し、社会全体のグローバル化を視野に、教育の情報化や教育改革、組織デザインといった多様な視点から、今後の大学経営のあり方を検討してもらおうというもの。ここでは、坂元昂・日本教育工学振興会会長の基調講演を中心にレポートする。

「全入時代」に対応する大学の教育改革とは?

株式会社内田洋行 大久保 昇 氏  株式会社内田洋行  教育総合研究所長  大久保 昇 氏

 少子化の進展により、教育現場にも大きな変化の波が押し寄せている。小中学校の統廃合に見られるような「再編成」の動きは大学にまで広がっており、私立大同士が合併する事例も出始めた。2007年度には、大学定員を入学者数が下回る「全入時代」が到来すると見込まれており、大学間の競争は激しさを増しそうだ。環境の変化に対応しつつ、教育の質をさらに高め、教育機関としての個性や魅力を発信するためにどのような手を打つのか、各大学は今後難しい選択を迫られることになる。

 こうしたなか、「まだ気づかれていない 大学に必要な真の成長戦略を探ろう」と題した関係者向けのセミナーが、さる1月17日に東京都内で開催された。(社)日本教育工学振興会が主催し、(株)内田洋行教育総合研究所も共催した今回のセミナーは、競争という側面ばかりが注目されがちな現状を見直し、社会全体のグローバル化を視野に、教育の情報化や教育改革、組織デザインといった多様な視点から、今後の大学経営のあり方を検討してもらおうというもの。当日は全国から多くの大学経営のトップが参加し、3名の講師による講演とディスカッションを通じて活発な意見交換を行った。ここでは、坂元昂・日本教育工学振興会会長の基調講演を中心にレポートする。

「苦難の時代」を「発展の契機」にするために

坂元昂 氏
基調講演「大学間のグローバルな連携による教育改革」
社団法人日本教育工学振興会会長
坂元昂 氏

世界基準の質が求められる日本の大学
 金融や商業、日常生活にまで及ぶ社会全体の情報化により、ひと・モノ・情報が国境を越えて行き来するグローバル化が進んでいます。大学教育においても情報化とグローバル化は急速に進んでおり、日本の大学にも「世界基準」の質が求められるようになっています。

 現状はどうでしょうか。英国のタイムズ紙が毎年発表している世界の大学ランキング(2005年版)によると、1位のハーバード大学をはじめトップ50のうち20校をアメリカの大学が占め、英国(8校)、オーストラリア(6校)と続いています。日本の大学でトップ50に入っているのは東京大学(16位)と京都大学(31位)の2校だけという結果を見ると、残念ながら日本の大学教育の質は世界に及んでいないと言わざるを得ません。

 大学をめぐる環境も大きく変化しています。名目上の「全入時代」が到来し経営環境が厳しさを増す一方で、海外の大学を目指す日本の高校生が増えていますし、海外有力大学のアジアへの進出も目立ちます。国内では、幅広い教養やコミュニケーション力を大学でもっと育ててほしいという社会的な要請も高まっています。日本の大学は、かつて経験したことのない苦難の時代を迎えていると言えるでしょう。

大学を変えるe-Learningの可能性
 しかし私は、こうした厳しい状況のなかにこそ、改革と発展の契機があると考えています。そのカギを握るのは、交流や連携、あるいは協調というキーワードです。教材や教員といった人とモノはもちろん、教育活動に関するさまざまな情報も交流することにより、コストダウンを図りつつ、多様な学生のニーズに応える新しい高等教育を実現する。その具体的な手立てとして世界的に取り組みが進んでいるのが、e-Learningを軸にした遠隔協調教育です。

 e-Learningの定義はさまざまですが、狭義には「Distance(どこでも)」「Interaction(リソースと学習の場との多角的相互交流)」「Network(インターネットや通信衛星の活用)」の要素を取り入れた教育スタイルと捉えることができます。たとえば日本のある都市にキャンパスを構える大学が、ネットワークを介して国内外の教育機関と連携することで、教育の場がキャンパスという空間を越えて日本全国さらには世界へ広がるのです。当然、教える対象は、国内の社会人や主婦、海外の若者にまで拡大するでしょう。近年、アジアでは高等教育のニーズが急増しており、こうした試みはより重要性を増していくはずです。今後の大学経営においてはアジアを大切にすべきだと私は思います。

 e-Learningには、教育観を変える可能性があることにも触れておきます。現在のe-Learningは伝統的な対面学習を補完するものとして位置づけられていますが、将来的にはe-Learningが中心概念となり、対面学習はその一部になっていくと考えられます。そこでは、学習者は教員ではなく教材コンテンツとの相互作用によって個々の学習目標を達成していきます。つまり、「教育」のあり方そのものが大きく変化するということです。

さまざまな「境界」を越えた協調が必要
 大学がe-Learningによって海外でも教育活動を行うということは、人材や教材コンテンツ、カリキュラムの質がグローバルな基準のもとで問われることを意味します。e-Learningをどう運営し、教育の質を維持していくかは、今後の大きな課題です。

 諸外国の事例から、日本における課題を探ってみましょう。まず英国では、QAAと呼ばれる大学の評価基準でe-Learningを含む自在・分散学習を取り上げており、システム設計やコース設計の質、学生への支援、学習の評価方法など6項目のガイドラインにもとづいて各大学の取り組みを評価しています。またアメリカでは全体の3分の1以上の大学が何らかの遠隔学習を実施しており、e-Learningの運営に携わるICTサービスの専門家が教員をサポートするしくみが定着しています。

 アジアでは中国や韓国が国家施策として積極的に取り組んでいます。特に韓国では、サイバー大学とも呼ぶべきe-Learning専門の教育機関がここ数年で急成長しており、受講者は30-40才代の社会人を中心に37万人に上るというデータもあります。

 こうした海外の事例と比較すると、日本の大学でのe-Learningはまだこれからというのが現状です。当面の課題としては、e-Learning専門家の育成とスキルアップ、コンテンツやサービスの質の評価方法、海外への配信に対応する多言語コンテンツの充実などが挙げられます。アジア各国の専門家が集まって情報交換する国際会議も開かれ、多国間の協調体制が生まれつつあるので、まずは実践を積み重ねながら海外との連携を深め、人のつながりや情報の共有を図っていく必要があります。

 大学の組織、国家や地域といったさまざまな「境界」を越えた協調の先に、少子化をブレークスルーする道が見えてくると私は考えています。厳しい時代だからこそ、大学は新しいことにチャレンジしていかなければならないし、国もチャレンジする大学を支援する体制を整えつつあるのです。グローバルな連携による教育改革をどう実現していくか。それが、「苦難の時代」を「発展の契機」に変えるポイントだと思います。

瀬戸山 元一 氏 同志社大学大学院総合政策科学研究科チェア・プロフェッサー
瀬戸山 元一 氏
各地の医療機関で組織改革を実現した自らの経験をもとに、ブランディングとアライアンスの視点から大学改革のあり方を提言した瀬戸山氏。「得意分野に経営資源を集中し、選ばれる大学になることが重要」と指摘した。
明治大学情報科学センター所長、法学部教授
阪井 和男 氏
阪井氏は、限られたパイを奪い合う過当競争ではなく、新市場を創造する「ブルーオーシャン戦略」が大学経営にも適用できるとし、「学生のニーズの多様化に対応する組織づくりにも
e-Learningが有効」と提案した。
阪井 和男 氏
坂元氏は2つの講演を受け、「各大学が専門性を深め、それぞれの強みや特色を生かしながら、国内外の大学や組織と連携、協調することが『ブルーオーシャン』の開拓につながるのではないか」とまとめた。

(写真:柳田隆晴/文・構成:栗林俊晴 ※写真の無断使用を禁じます。)


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