2023.02.20
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高校「情報I」:Pythonを活用してデータ分析に挑戦(後編) ICT活用・情報教育 35年間の変遷と未来

新学習指導要領の施行により、2022年度から高等学校ではさまざまな教科の見直しが行われた。特に注目されているのが情報科だ。これまでは情報の基礎知識を扱う「社会と情報」と、プログラミングを含む「情報の科学」のどちらかを選択する方式だったが、必履修科目として「情報I」へ統合。さらに2023年度からは選択科目「情報II」が新設される。

新しい「情報科」ではどのような学びが期待され、学校や教員は何を重視すべきなのだろうか。

今回は1989年と早い時期からICT活用や情報教育を行ってきた神奈川大学附属中・高等学校での実践を取材した。後編では、同校の情報科教育推進の立役者であり、副校長を務める小林道夫氏へのインタビューを紹介する。

1989年から「ICT教育」をスタート

神奈川大学附属中・高等学校提供:1999年当時のコンピュータ教室(Macルーム)

― 30年以上にわたり情報教育を推進される中、転機となった出来事や印象的なエピソードをお聞かせください。

小林道夫副校⻑(以下、小林) 本校ではICT教育をスタートした1989年にコンピュータ教室を設置しております。当時はフロッピーディスクで起動し、データ保存を行っていた時代です。今では信じられない話ですが、電源を入れてから作動するまで10分はかかっていましたね。プログラミングを教えるにも非常に苦労していたため、1994年に富士通FMR-50からApple のMacintosh LC575 にリプレイスしました。これが1度目の転機です。

2度目の転機は初代iMacにリプレイスした1999年です。5色全色を採用しました。当時はCMで話題になっていたこともあり、生徒たちも喜んでいましたね。Adobe Flashでアニメーションを作ったり、Adobe Photoshopで写真を加工したりとさらに一歩進みました。これを機に6 年一貫の情報教育カリキュラムを作り直したので、大きなターニングポイントとなったと言えます。

ちなみにiMac導入と共にコンピュータ教室を大幅に拡張しました。もともと通常の教室と小さな準備室に分かれていたのですが、よりゆったりした空間にしたいと考え、壁を取り払ってつなげ、グループワーク仕様に改装しました。テーブルを楕円形の島にしたことで、生徒同士のコミュニケーションも活発になったと感じています。

―6年一貫の情報教育カリキュラムの特徴を教えてください。

小林 2018年に中3全生徒分のタブレット端末を導入し、2019年には中2〜高1、2021年には中学〜高校の全学年で1人1台端末の活用が可能となりました。情報教育のカリキュラムとしては次の3つを柱としています。

  • コンピュータを表現の道具として、創造性の開発と個性の発揮を目指す
  • プログラミングやICTスキル・知識を身につけ、問題解決や探究活動を行う
  • インターネットを交流と共同研究の場とし、国内・海外と共同研究を行う
  • 実際に授業で情報学を学ぶのは中3と高1ですが、中1から宿題はクラウドに提出したり、中2ではプログラミングを駆使してロボット制作をしたり、早い段階で情報リテラシーを養成するのが本校の特徴と言えます。

    1人1台端末により、生徒の自力解決能力が向上

    神奈川⼤学附属中・⾼等学校 ⼩林道夫副校⻑

    ―情報教育の真意は「学習管理」とのことですが、詳しく教えていただけますか。

    小林 そもそも1人1台端末を導入したのは、生徒自身で学習管理を行えるようにすることが目的です。教員は教えるのが仕事ですが、時には必要以上のことも指導してしまっており、生徒の自主性を育てられないと危機感を覚えていました。そこで端末を利用することで、生徒自身が学習管理できる仕組みを作りました。

    連絡事項や授業のポイントなど、多くのデータがクラウドにあり、現在では行うべきこと全てが可視化されている状態です。必要な情報を容易に確認できるため、問題が起きても自分で何とかする生徒が増えたと実感しています。

    ―1人1台端末の導入によって、生徒の学び方に変化は見られましたか?

    小林 生徒自身で学習の振り返りを行えるようになったことです。授業でわからない点があってもクラウドのデータを参照し、自分で解決する姿勢が多く見受けられます。またグループワークなど共同研究も徐々に上手になったと感じます。

    以前は「先生がいないからわかりません」など、他力本願な生徒もいたのですが、端末があることで自力で乗り越えようというチャレンジ精神が高まったと思いますね。

    ―環境面ではどのような工夫をされましたか?

    小林 校内にICTサポートセンターを設けました。専門のスタッフが3名常駐しており、機器の故障や質問などはこのサポートセンターで全面的に支援しています。本校には教員が約100名在籍しており、生徒と合わせると端末は1,400台以上あるので、毎日何かしらの機器トラブルが発生している状態です。代用品も揃えているので、自宅に端末を忘れてしまったり、校内で急に不具合が見つかったりしても、授業で使う端末がなくて困るということはありません。

    ICTに詳しい教員もいればそうでない教員もいます。サポートセンターの設置によって教員の負担が減り、授業に集中できたのも大きな変化と言えるでしょう。

    1人1台端末の導入と合わせて校内Wi-Fiは10Gbpsモデルに対応したルーターを採用し、校内の至る所でインターネットを活用できるように整備しました。現在では大講義室でも1学年200名の生徒が問題なく使えている状態です。

    社会で役立つクリエイティブスキルを育てる

    ―今後、構想している取り組みがありましたら教えてください。

    小林 今までAdobe Creative Cloudはコンピュータ教室のみでの利用となっていましたが、先日、全生徒の端末に導入しました。これにより場所を選ぶことなく、グラフィックデザインや動画編集が可能になるので、クリエイティブスキルの向上に寄与するのではと期待しています。創作活動が軸ですが、情報収集から、分析、表現と問題解決のプロセスで一貫して活用できるので、多くの教科で使用していく予定です。

    イベントでポスターを作ったり、学園祭でプロジェクションマッピングを手がけたりと、プロ顔負けに使いこなす生徒も少なくありません。卒業後、社会の多くのシーンで学んだことを役立てられるのではと期待しています。今後、才能がどう羽ばたくかとても楽しみです。

    記者の目

    授業を取材して、まずコンピュータ教室の充実ぶりに感銘を受けた。最新のiMacがラウンドテーブルに整然と配され、その上には特注のポールで固定されたモニターがズラリ。どの生徒も2画面を巧みに使いわけながら、プログラミングに集中していた。また教諭自身の言葉で記されたオリジナル教材はとても読みやすく、複雑なプログラミング学習にも抵抗感なく臨めるはずだ。30年以上情報教育を推進してきた同校が今度どのような人材を養成していくのか、各方面から注目が集まるに違いない。

    小林 道夫

    神奈川大学附属中・高等学校 副校⻑
    1987年より、神奈川大学附属中・高等学校専任教員として情報教育を担当。教育目標の1つに「情報化社会への対応」を掲げ、積極的なICT教育に取り組む。2016 年に1人1台タブレットPC導入プランのロードマップを作成した。
    プログラミング教育、デジタルデザイン、インターネットを活用した海外との交流学習などの実践を重ね、2000年より中学校技術科、高等学校情報科教科書執筆、2003年よりNHK高校講座「情報A」「社会と情報」番組講師担当。2013年に宇宙エレベーターロボット競技会実行委員会設立、実行委員長。

    取材・文・写真:学びの場.com編集部

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